2022年4月1日付で日本ユニシスから進化したBIPROGY。新たな商号・コーポレートブランドのもと、先見性と洞察力でテクノロジーのもつ可能性を引き出し、持続可能な社会の創出を目指して社会的価値を創出する企業へと変革していくため歩み続けている。その舞台裏では、自社のありたい姿を表現するコーポレートブランドの模索が進められていた。数年にわたって取り組まれたリブランディングの経緯や、企業としてのシンボルマーク、ブランドストーリー/ムービーに込めた想い、ブランドを社内に浸透させるためのさまざまな施策などについて、プロジェクトのキーパーソンに話を伺った。
「多様性」を表現した新コーポレートブランド
――リブランディングの背景について教えてください。
畠中「BIPROGY」の背景には、「多様性とその先の統合」の価値観があります。そこには、「IT業界ナンバー1を目指す」“競争優位”の考え方を超えて、一社単独では成し得ない社会課題の解決に貢献する“共創融和”の関係を築いていきたいとの想いがあります。
一社一社、一人ひとりが放つ光を掛け合わせ、より良い社会、より良い未来を目指すには、「多様性」という価値観は不可欠です。さらにSDGsに象徴される昨今の世界の潮流を鑑みれば、社会は合理性を足場にしつつも多様性を重視する方向に向かっていると見て取れます。この中において、多様性の価値を最大化し、ITやデジタルの力で「デジタルコモンズ(社会の共有財/コミュニティ)」に昇華させることができれば、その先にある未来の扉を開くことにつながるのではないか――。そんな、「社会的価値を創出する唯一無二の企業を目指す」という私たちのアイデンティティにふさわしい社名をつくろうと、リブランディングがスタートしました。
――“唯一無二のブランド”はどのようにつくられたのでしょうか。
畠中はじめに会社の歴史、社風、社員の価値観や想いなどに関する情報を集め、それらを総じて会社のアイデンティティとそこにある意味をプロジェクトチームのメンバーで言語化しました。「過去・現在の自分たちの姿や未来に向けてありたい姿、我々はこれからどんな社会にしていきたいのか、社会にどう貢献していきたいのか」などの想いを書き表した、長いポエムのような文章です。
次に、それらをインプットとして、クリエイティブチームがブランド表現の粗削りの案を多数創り出し、方向性を模索していきました。私たちが求めた「多様性とその先の統合」を表すブランド表現が見えたところで、精緻化を図りつつ、数案まで絞っていきました。その後、絞られた案について、商標調査(国内外における商標登録の難易度を調査)や外国人の方が耳にしたときの語感など多角的に調査・検討を経て、最終的には2021年5月7日開催の取締役会にて「BIPROGY」への社名変更を決定しています。
社名変更の発表後、お客さまなどから、「旧社名の跡形もない社名で驚きました!」との声を多くいただきました。しかし、ゼロベース発想であえて旧社名に近いイメージを残さなかったのは、“大胆に変わる”という私たちの本気度の表れ。また、社名は頻繁に変えるものではありません。30年以上「日本ユニシス」という社名でしたが、新たな社名も30年経っても世界の方向感と合致する社名にしたい、という考えもありました。
――「BIPROGY」のシンボルマークにはどのような意味があるのでしょうか。
畠中ロゴタイプについては、安定感のある書体で企業としての信頼感を表現しながら、細長いフォルムで先進性も表しています。地球を想起させる丸いブルーのシンボルマークの上には、「BIPROGY」の7文字を重ね合わせています。重なり合う大小の三角形は、「あらゆるステークホルダーと一体となって共に社会に新しい価値を提供する姿勢」を、不規則に交差する直線は、「固定観念にとらわれない多様性とフレキシビリティを象徴し、常に変化し続けていく姿勢」を表現しています。
ここからは後付けの話ですが、シンボルマークをじっくり観察していると事前に意図していなかったとらえ方や意味も想起されてくるんです。シンボルマークの三角形の部分は、小さな三角形を「超えて含む」形で大きな三角形があります。小さな三角形をホロン(全体を構成する一部分)とすると、生命的表現のホラーキー(ホロン同士が包含し合う階層構造)にも捉えられ(※)、例えば、「日本ユニシスで培ってきた良きDNAを継承しながら、BIPROGYの新たなアイデンティティや価値観をゼロベース発想で広げていく」などの意味合いとしても説明がつきます。
- ※ホロンやホラーキーは、上司、部下といった階層構造のない「ホラクラシー組織」の語源となる言葉とされる
――ブランドストーリーやブランドムービーの作成にあたり、苦労された点を教えてください。
畠中ブランドストーリーやムービーも多様性の価値観が背景にありますので、「正解」を示すのではなく、そこにある意味を受け手の「選択」に委ねることを意識して作っています。一般的なブランディングでは、メッセージやビジュアル表現を1つの型として決めて世の中に広め、企業のブランドイメージを構築するアプローチを採ります。ですが、それでは「型」があるが故に多様性を表現できません。あえて自分たちの想いや願いを語るに留めることでメッセージの受け手に感じ方や解釈の自由という選択の余地を残しています。そのための言葉選びには多くの時間をかけましたし、目指す世界観を表現すべく、“統一感をもって文脈を紡ぎきる”ことにも最後まで心を配りました。
滝澤伝えたいことが明確でも、それを表す言葉の選び方1つで与える印象はがらりと変わります。メンバーに湧き上がってきた小さな違和感や言葉の候補も切り捨てず、何度も対話を重ねました。ブランドストーリーとムービーを締めくくる「さあ、この星に終わらない物語を。」というメッセージには、地球温暖化に代表されるような、一個人、一企業、一国では太刀打ちできない大きな問題も、人と組織が日々の活動の中で意識と行動をシフトし、ソーシャルインパクトをもたらすことができれば、解決へと導けるはずだとの確信を込めています。
これは絵空事ではなく、世の中にはそのように考えて動いている人々が存在します。例えば、世界中の100名以上の科学者や政策立案者による調査データに基づいた地球温暖化への解決策が100通り示されている書籍が出版され共感を呼んでいます。「デジタルコモンズによって社会課題の解決を図る」という大きな目標に向かうBIPROGYの取り組みも、そんな人々と同じ方向を向いています。「さあ、この星に終わらない物語を。」という言葉を含むストーリーを読まれた方やムービーを観られた方、それぞれの人がその人なりの意味や意義を感じ取ってもらえたらと思っています。
――社内での反響はいかがでしょうか。
畠中正解を示さないように抽象度を高くしていることもあり、社内からは「ぜひ説明をしに来てほしい」と声がかかることもあります。しかし、それは私が考える正解を押し付けることにもなりかねません。ムービーは、多様性の表現として言葉では表現できない非言語的な意味を映像の力も使って表現しようとしているものなので、頭で理解する必要はなく、感性で感じ取ったものが受け手の真実なのだと思っています。
滝澤会社がブランドムービーを制作したら、社員は必ず1回は観ると思います。ただ、そこで説明を聞いて頭で理解をしてしまうと、「1回観たからもういいや」となってしまいます。そうではなく、「何度も見返して言葉を噛みしめたくなる」「業務で行き詰まったときに見返す」。そんな想いもあったため、社員にとっては心のよりどころにしてもらえるものになればと願っています。
――リブランディングにあたっては、「ブランディングポリシー」も定めたとのことです。その目的について教えてください。
滝澤一連の取り組みにあたっては、実際の事業活動とコーポレートブランディングが一体となって好循環するためのビジョンを描いています。そのためのポリシーも定め、社員全員に共有しています。企業によっては、事業活動とそれらが切り離されている場合もあります。しかし、私たちは「社会との信頼関係のため、言行一致を重視する」「社員一人ひとりがタッチポイントにおいてブランドを体現する」ことを重視しています。指針があることで、社名変更までの間でも社内でリブランディングを盛り上げていこうとする自発的な取り組みが生まれました。
バドミントンチームは選手自身が中心となってリブランディング
――社名変更はバドミントンチームにどのように影響したのでしょうか?
滝澤社員に一体感を生み出すシンボルスポーツとして、バドミントンチームは1989年に創部し、世界で戦えるレベルの選手の育成を目指して活動してきました。2000年代に入ってからは、何人も世界的に活躍する選手を輩出するなど名実ともに日本のみならず世界でも有数のチームに育ってきたと自負しています。
会社のブランディング活動やPRにも大いに貢献する存在となった今、バドミントンチームが目指す次なるビジョンを模索する動きがチームの中から生まれています。ちょうどその時期に、社名変更のタイミングが重なりました。名称も「日本ユニシス実業団バドミントン部」から「BIPROGYバドミントンチーム」に変わり、バドミントンチームのリブランディングの後押しになっています。例えば、先ほど、社員の自発的な取り組みについて触れましたが、バドミントンチームもその1つです。
畠中バドミントンチームは、コーポレートブランディングと根っこの理念は一致しつつも、チームのアイデンティティの探索や表現についてはチームの意志で進めています。例えば、2022年4月1日から、バドミントンチームのユニフォームやエンブレムを一新。エンブレムは大きく羽を広げて飛び立つ青い鳥が印象的なデザインで、いくつかの候補の中からチームのメンバー全員で投票して決められました。エンブレムのデザインはBIPROGYのシンボルマークとはテイストが異なりますが、「強くありたい」「勝ちに行きたい」というチームとしての想いが込められた素敵なデザインだと感じています。
滝澤2023年3月には、バドミントンチームのWebサイトもリニューアルしています。「BIPROGY」という社名のコンセプトを踏まえながら、チームのアイデンティティを探求し、どのようにブランドとして表現していくのか、まさにチームみんなで対話をしているところです。今後にご期待ください。
- ※本記事の最後にバドミントンチーム関連のコラムを掲出しています
社員を巻き込みながらリブランディングを浸透
――社内浸透に向けた取り組みについて教えてください。
塚越「新しいブランドをグループ社員全員でつくる」という感覚を大切にしたいと考えていました。社名変更プロジェクトの全体としては7つのワーキンググループを組成し、8つの部署にまたがる多くのメンバーが密に連携して進めていました。
しかし、会社全体で見れば、参画するのはごく一部。多くの社員にとって、日常業務の中で社名変更の実感は湧きにくく、ましてブランドづくりについては“空気”のような存在になってしまうのではないか。そんな懸念を抱いていました。そこで最初に行ったのが、社内イントラ「Team Unisys」の新名称公募イベント。名称案は、300件近い応募があり、その中から14案に絞って社員投票を実施し、最終的に「PRISM」に決定しました。応募数はもちろん、「『BIPROGY』という社名なら、イントラ名称は何がいいだろう?」と社名について一人ひとりが想いを馳せてくれたことがうれしかったです。社内でも、楽しいイベントと感じていただいたようで、社員同士の会話のきっかけになっていました。
また、リブランディングに向けた進捗を知ってもらえるようにと、2021年11月からは毎月ニュースレターを届けました。「ブランドストーリーが完成しました」「BIPROGYまでのカウントダウン! あと〇〇日!」という大小さまざまなトピックスを楽しく伝えることで、グループ社員を巻き込みながら社名変更に向けて共に気持ちを高めていくことを目指しました。
並行して実施したのがオンラインでの「対話会」です。社名変更は社内外同じタイミングでの発表だったので、当時「なぜ社員に先に教えてくれなかったの?」という声も社員からは上がっていました。対話会はそんな戸惑いや不満の声も共有してもらいながら、「会社が大きく変わるチャンスである今、どんなことができるだろう? どうありたいのだろう?」と前向きに発想を転換できる場になりました。
対話会は、1回の開催につき最大20人程度が集まり、部門の壁も上下の壁もなく、「新社名が『BIPROGY』と聞いてどう思った?」などのテーマでざっくばらんに対話をしました。役員を含め、お互いを「ケンちゃん」「ケビン」などとニックネームで呼び合って話したこともあり、毎回すごく盛り上がっていました。対話の内容はグラフィックレコーディングでビジュアルに落としこみ、ニュースレターにも掲載しています。
塚越その他、コーポレートブランドと事業活動をしっかりつなげていくため、2021年度から体験価値デザインというワークショップを始めました。「BIPROGYらしさって何?」「事業を通じて顧客にBIPROGYらしさを体験していただくためには?」など、日々の業務では話さないようなことをテーマに話し合ったり、数十年先のBIPROGYのあり方をイメージするためのさまざまなワークに取り組んだりしています。
今後もこのワークショップを継続し、より多くの社員が事業活動を通じてBIPROGYブランドを体現できる状態(≒言行一致)を目指していきたいと考えています。ひいてはそれが社会からの信頼獲得と良い関係性構築につながることを願っています。また、新しい社名が表現しているように、社員一人ひとりが輝き、その光彩を掛け合わせながら多様性豊かにBIPROGYブランドを創っていく。その実現に向け、この瞬間もリブランディングは進み続けています。
BIPROGYバドミントンチームへリニューアル
企業の顔となり、社員に一体感を生み出すシンボルスポーツであるバドミントンチーム。1989年の創部以来、世界レベルの選手育成を目指して活動を続けてきた。2022年4月1日からの社名変更に伴い、「BIPROGYバドミントンチーム」へと変更し、同時にチームエンブレムやユニフォームのデザインも一新。「バドミントン×サステナブルな社会の実現」をチーム理念に掲げ、さらなる飛躍に向けてリスタートを。社名変更後初の公式団体戦となった「第72回全日本実業団バドミントン選手権大会」では、「BIPROGYとしての初優勝を!」をスローガンに大会に臨み、男子チームが2大会連続6度目の優勝を果たした。2023年5月からは、2024年夏にパリで開催が予定される国際的な競技大会に向けたレースがスタートする。注目の「渡辺・東野(ワタガシ)ペア」や「金子・松友ペア」が大会出場権獲得に向けて1年間に及ぶ過酷なレースに挑む。その背中にぜひ注目してほしい。