社会課題解決に向け、企業や生活者の主体的な一歩をテクノロジーで後押しする取り組みに注目が集まっている。その1つが「BE+CAUS(ビーコーズ)」だ。これは小売店のアプリと連携し、生活者が日常の買い物を通じてNPO・NGO団体に寄付する仕組みを提供するソーシャルアクションプラットフォーム。生活者は“いつもの買い物”をするだけで社会貢献ができ、企業側は対外的にサステナビリティ活動を積極的に発信できる点が大きなメリットとなる。本サービスは、STYZ(スタイズ)とBIPROGYの協業で2020年7月にスタートし、これまでに賛同企業数を着実に伸ばしている。本稿では、STYZ代表取締役の田中辰也氏、同社執行役員CDOの川合俊輔氏を迎え、プロジェクトの中核メンバーであるBIPROGYの呉花楠(くれはな なん)、品川未来の4人にインタビュー。BE+CAUS立ち上げの経緯や取り組みから見えてくる展望について伺った。
買い手・売り手・世間の三方良しを体現する「BE+CAUS」
先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出し、持続可能な社会の創出を目指すBIPROGY。以前はITを活用した顧客の課題解決が業務の中心だったが、近年はさまざまな共創を通じた社会全体の課題解決も大きな使命と捉えている。
その取り組みの1つが「BE+CAUS」。これは生活者の日常の買い物を通して、社会課題解決を目的に各企業が主導する取り組みを促進させる、ソーシャルアクションプラットフォームだ。BE+CAUSの活用によって小売・メーカーは、自社の社会貢献活動を店頭やアプリを通じて生活者へ発信することができる。例えば、小売・メーカー側が連携して特定のNPO・NGO団体を支援するためのキャンペーンを立ち上げ、生活者側は小売店のアプリから対象キャンペーンにエントリーする。登録後に対象商品を購入することで自動的に寄付やSDGsに関連するイベント応募が可能な仕組みとなっている。その他、売り場と連携してキャンペーン期間中に資源回収ボックスを設置するなどアプリ内にとどまらず幅広く取り組みを展開している。
BIPROGYの呉花楠(くれはな なん)はプロジェクトの経緯をこう話す。
「これまでは、当社が運営する『スマートキャンペーン』を用いて、流通業界向けの販促支援サービスを行ってきました。これは、生活者の購買データを活用したマーケティングサービスで、小売各社のスマートフォンアプリを通じて販促を目的としたキャンペーンを配信しています。その一方、ここ数年は『自社でどんな社会貢献活動ができるか』『自社のアセットを活用して地域の課題解決ができないか』などの相談が増えてまいりました。そこで、社会課題の解決を主眼に置いたサービスとして、BE+CAUSを始動させました」
BE+CAUSの立ち上げ時からBIPROGYの欠かせないパートナーとなっているのが、個人と非営利団体をつなぐ国内有数のオンライン寄付プラットフォーム「Syncable(シンカブル)」を運営するSTYZだ。同社は、2016年創業のベンチャー企業でさまざまな社会課題の解決に取り組む。今回のプロジェクトは、先述のスマートキャンペーンとSyncableの相互連携によって推進されている。
このSyncableには、「ここであればさまざまな社会課題や団体とつながることができる」との意味が込められている。デジタルやテクノロジー活用を通じて無意識的につながることを表現するため、「sync(同期する、シンクロさせる)」と「able(できる)」を造語として1つの言葉にしたという。全国で活動する3000以上の非営利団体が登録し、これらとBE+CAUSに参画する企業が連携することで、各種の社会貢献キャンペーンが小売各社のスマートフォンアプリを通して生活者へ配信される仕組みになっている。
呉花と同じくプロジェクトメンバーの品川未来は協業の経緯をこう振り返る。
「BE+CAUSのポイントとなる、NPO・NGO団体との接点が当初BIPROGYにはほとんどありませんでした。今後、幅広い業種・業界に展開していきたいとの思いもあり、当時(2019年)1000以上のNPO・NGO団体と接点のあったSTYZさまに協力を仰ぎました」
STYZは、Syncable運営の他、企業による寄付活動のサポートやPR、社員の社会課題意識の向上を図るサービス「COPOLA(コポラ)」(2022年12月時点はβ版での展開)の運営なども手掛けている。代表取締役の田中辰也氏は、その思いをこう語る。
「STYZは、『民間から多種多様な社会保障を行き渡らせる』をミッションに掲げています。自分の身の回りでさえ、どんなNPO団体がどんな支援活動をしているのか、知る機会は多くはありません。そうして見過ごされてしまう社会課題はとても多い。そこで、Syncableのようなプラットフォームなどを活用して、社会課題を顕在化させるサポートをしています」
同社では、ユーザー視点でサービスやプロダクトの新たな価値を創出するインクルーシブデザインスタジオ「CULUMU(クルム)」の運営も手掛けている。STYZの執行役員CDO兼CULUMUのUXデザイナーを務める川合俊輔氏はこう話す。
「すべての人に優しいデジタルを提供するため、高齢者、外国人、障がい者などの視点からもウェブやアプリのデザイン・開発を行うのがCULUMUのインクルーシブデザイン(※)です。BE+CAUSにもこの視点を取り入れていますが、多様なユーザーの意見をすべて反映することは想像以上に難しく、難題の連続です。しかし、この困難を乗り越えた先には、ユーザビリティだけでなく新しい価値創造につながるような面白さが生まれ、イノベーションの原点になると感じています」
- ※言語、文化、性別、年齢、障がい、マタニティなどの多様性をデザインアプローチとして考慮するデザイン手法
Syncableでは、「自然・環境を守りたい」「動物を守りたい」など、非営利団体をカテゴリに分けて紹介する。支援の方法はクレジットカード決済による寄付や物資の寄付、寄付集めを手伝う、Syncableに掲載されている団体をSNSでシェアするなど多岐にわたる。さらに、クレジットカードでの寄付は300円から決済でき、1回限りの単発寄付と、毎月の継続寄付が選べる。このように、自分に無理のない方法を選んで支援が行えるのも特徴の1つだ。
「今回の相談を受けて悩むことなく参画を決めました。普段の買い物が寄付につながる、誰でも気軽に支援ができる点でSyncableと共通していますし、社会課題を自分事とは捉えていなかった方たちに『まずは知ってもらえる』点でもメリットを感じました」(田中氏)
こうしてSTYZとBIPROGYからなるチームが誕生。STYZはNPO・NGO団体とのコネクションのサポートだけではなく、インクルーシブデザインの視点からコンセプト設計やサービスの運用設計(サービスデザイン)にも関わり、プロジェクトを推進した。
企業と社会貢献活動がマッチングし生活者に取り組みが伝わる
BE+CAUSは、2019年に始動。当時はSDGsがまだ社会に浸透しておらず、「参画してもらう小売店の開拓は苦労も多かった」と品川は話す。そんな折、各メディアでSDGsがクローズアップされたことで急速に浸透。生活者意識も変容し、風向きは大きく変わった。「時代の変化は小売店やメーカーにも少なからず影響を与えました」と呉花は分析する。
「小売店側にとっては『モノを供給(販売)するだけでは生活者に選ばれなくなる』、メーカー側では『従来の価値の他に購入する方々に+αの価値提供が必要ではないか』という危機意識が生まれ始めていました。自社利益の追求だけではなく、社会や地域のために『何か』しなければいけない。そこに気軽な社会貢献を推進するBE+CAUSが合致し、価値を認識してもらえるようになりました」(呉花)
こうした中、BE+CAUSでは2020年7~8月にキャンペーンの第1弾を実施。テーマには海洋ゴミ問題を据え、「いつもの買い物で海をきれいに!さらに抽選でオリジナルエコバッグも当たる!」とメッセージアウトして展開された。小売3社(イズミ、いなげや、ライフコーポレーション)と大手メーカー2社(ネスレ日本、コカ・コーラボトラーズジャパン)が参画し、対象商品の売り上げの一部が認定NPO法人「グリーンバード」のビーチクリーン活動に充てられた。「エントリー数は8万件以上、寄付金額は30万円以上に上りました。参画企業からは『今後は生活者と直接つながる場で、我が社の社会貢献活動をもっと知ってもらいたい』という前向きな反応がありました」と品川は話す。
こうした反響を受け、2022年度からは取り組みをリアルの場にも拡充して実施した。その一例に、「イズミ&ネスレ日本共同企画“今日の買い物は、こどもたちの未来のために”キャンペーン」がある。同キャンペーンの期間中はイズミ各店舗の食品売り場に使用済みの製品パッケージを投函できる回収ボックスを設置。回収された使用済みパッケージをイズミ商圏内の子ども食堂の工作イベント(ネスレ日本主催)の材料として使用し、地域の子どもたちがエコについて学習できる機会を提供するとともに対象商品の売り上げの一部を子ども食堂へ寄付した。
呉花は、「当日は子どもたちだけでなく、参画企業の社員も加わり大盛況でした。イズミやネスレ日本のリサイクルの取り組みを子どもたちに紹介する時間では、子どもたちが学校のSDGsの時間に学んだ内容がこうした形で実践されていることにすごく興味を持ち、にぎやかなひとときとなりました。企業が日頃の事業活動の延長線上にこのようなSDGsを推進する活動を行うことができる点も、BE+CAUSの魅力だと感じました」と振り返る。
2020年の初回キャンペーン以降、全9回のキャンペーンを実施し(2022年12月時点)、小売店・メーカーともに新規参画する企業は増え続けている。こうした状況を受けて、田中氏はこう話す。
「生活者による『寄付』のハードルを下げられたのは大きな成果です。また、支援団体側のメリットも大きく、団体が抱える『社会課題や自分たちの活動を世の中に伝える機会がない』という課題も、BE+CAUSのキャンペーンがメディア露出することで少しずつ解消されています。支援団体の方からは『困りごとを抱える人がいる、と世間に認識されるだけでも、支援を受ける方々が社会で過ごしやすくなる』という声も頂いています」
アップデートを重ね製造業や金融業へも展開、さらなる課題解決へ
キャンペーンでの確かな手応えを踏まえつつ、田中氏は、自社のミッションの実現に向けて、BE+CAUSの取り組みから視野を広げていこうとしている。
「STYZのミッションである“多種多様”には、金銭的支援だけではなく、企業による利用者側に立ったサービスやモノづくりの提供も含まれる必要があります。今、企業による事業活動のほとんどは社会課題解決の寄与を目指していると思いますが、同時に『見落とされてしまう利用者像』も生まれています。例えば、パソコンは両手が使えることを前提に作られていますが、両手が使えなくても操作ができたらどうでしょう? 今まで被支援者だった人が、働いて収入を得られるかもしれません。この点にアプローチをすることは、社会課題解決に直接的につながる可能性が多分にあるはずです」
第一歩として、STYZは「ソーシャルインクルージョン(誰一人取り残すことなく、社会に参画する)」の意識を社会に広めたいと考えている。その手法として取り入れるのが先述のインクルーシブデザインだ。その可能性について川合氏は「BE+CAUSの取り組みを機に、BIPROGYさんのパートナーやアセットの力をお借りしながら、ソーシャルインクルージョンの実現に向けて、新たな取り組みも進めていきたいです」と意気込みを語る。
STYZの期待を受け、品川と呉花は今後の展望をこう語る。
「日本各地の地域課題解決に対しては、金銭的な支援だけでは立ち行かないケースも多くあります。今後は、SDGsネイティブである高校生ら若年層のフレッシュなアイデアも必要だと考えています。これらを、BIPROGYとSTYZさまだけでなく、BE+CAUSに参画する多様な企業が持つアセットと効果的に組み合わせて実践できれば、より良い社会の実現に向けたパッションをさらに高めることにつながると期待しています」(品川)
「現状、BE+CAUSの取り組みの対象は、食品、日用雑貨のメーカーがメインですが、BIPROGYの取引先に多い製造業、金融業などの業界でも、社会課題に貢献したいと考えている企業は多いはずです。こうした企業に向けて、BE+CAUSを汎用化して横展開していくことも考えています。その際には、生活者の購買データだけでなく、移動などの経済行動に関するデータを利活用することも一手です。当社が得意とする情報技術にSTYZさまのインクルーシブデザインの視点を取り入れながら協業を進め、得意分野が異なる2社がうまくフュージョンすることでさらなる社会課題の解決に貢献したいと考えています」(呉花)