ユニアデックスではセキュアなテレワークを簡単に実現できるクラウド型ネットワークサービス「Wrap(ラップ)」を2020年3月から無償で提供している。テレワークに対応したネットワーク環境の構築に悩む企業から好評を博してきたことから、本来2020年5月末までだった無償提供を、第2弾として7月末日まで追加募集することを決定した。そこには、「お客さまの困りごとを解決したい」というユニアデックス担当者一人ひとりの強い思いがあった。
*本記事は2020年5月にリモート取材したものです
社会的な課題解決のために「Wrap」無償提供を決断
新型コロナウイルス感染症への対策として、急遽浮上した「テレワーク」。以前から、働き方改革の実現に向けて注目されていたが、準備が整っていた企業ばかりではなかった。突然のテレワーク導入に戸惑った企業も少なくないだろう。ユニアデックスのお客さまである大手住宅メーカー、ミサワホームもその1社だった。
きっかけは、2020年2月初旬のことだった。ユニアデックス DXビジネス開発統括部 ビジネス開発一部の國包(くにかね)昌志のもとに、ミサワホーム担当者から「全面的にテレワークに移行することになった。本社への出社も停止される。試用中のWrapを緊急拡大してほしい」という一報が入った。ミサワホームとユニアデックスは共同で、2月13日にクラウド型ネットワークサービス「Wrap(ラップ)」を使用し、テレワーク運用の最適化とセキュリティー向上を目指す実証実験を実施すると発表したばかりの時期だった。
「テレワーク環境を整備するために、正式リリース前のWrapをトライアル利用いただいている最中でした。お客さまのご要望にお応えすると同時に、『テレワークは導入済みだが対応範囲を急には広げられない』『感染症への対応として一時的でもテレワークを増強したい』というお客さまが他にも多くおられるのではないか、と考えました」と國包は振り返る。
「私たちにできるやり方で、何か社会の力になれることはないか」と考えた國包は、社内経営会議に無償提供を提案した。すると、新たな試みにも関わらず、提案は迅速に承認された。「同じ未来を想うことから。」をコーポレートメッセージの中心に据え、お客さまの困りごとを解決することに誇りを持つユニアデックスならではのスムーズな決断だった。
常識を覆す発想から開発されたクラウドソリューション「Wrap」
無償提供をスタートした2020年3月5日当時、「Wrap」はまだ完成されたソリューションではなかった。しかし、新型コロナウイルスの脅威が日々刻々と身近に迫る中で重要視されたのは、サービスの提供スピードだった。政府による7都府県への緊急事態宣言が、4月7日からの実施であることを鑑みれば(全国への展開は4月16日)、いかに迅速な対応であったかが推察できる。
ユニアデックス DXビジネス開発統括部 ビジネス開発一部 部長の土井久岳は、それをチャンスと見た。「Wrapは、世の中の仕組みを変えるだけのインパクトを持つ強力なソリューションです。ただ、私たちが得意とするネットワークの世界は、仕組みが理解されにくい側面があります。実際使っていただき、その効果をお客さまに実感していただきながらWrapの完成度を高めていければと考えました」と振り返る。
この戦略は功を奏した。「Wrapを利用したい」と要望のあった約40社への提供を通じて、Wrapはさらなる利便性向上を果たした。お客さまの困りごとを無償で解決しながら製品を完成させる。そこにはWin-Winの関係が成立していた。
実際に導入されたWrapはお客さまの高い支持を得ることができた。理由は、土井が指摘したようにWrapというソリューションが持つインパクトが大きかったからだ。Wrapは、これまでの常識を覆す独特の発想のもとに開発された。一言で表現すると「パソコンを立ち上げたらLANにつながっていた」という状況を作り出す。エンドユーザー側は、テレワークのための操作を一切必要としない。
これを実現しているのが「LTE over IP(※)」という技術。既存のネットワーク上で通信キャリアの携帯電話と同じことを実現する。スマホの電源を入れるとキャリアのネットワークにつながるのと同じ感覚だ。パソコンを立ち上げれば、ネットワークにつながると同時に、ゼロタッチで社内LANにもログインする。
※ 「LTE over IP」とは、SIM認証をベースとするLTEの通信プロトコル群をIPネットワーク(インターネット)上でも利用可能とする先進技術のこと。
「テレワーク環境のための認証や暗号化など、セキュリティー担保に必要な手順などをすべてWrapに組み込みました。専用ソフトをデバイスにインストールしておくと、Wrap基盤を通して強制的に設定されているネットワークに接続されます。ソフトを入れるだけでサービスが提供できるので短期間で実装できる点にもメリットがあります」と、ユニアデックス DXビジネス開発統括部 ビジネス開発一部の黒田拓弥は解説する。
Wrapは、ネットワーク上の住所であるIPアドレスを頼りとして既存ネットワークの中に、いわば「トンネル」のようなものを掘って通信に必要な専用道路を確保する。LTEの標準仕様に基づいた認証・暗号化機能を備える為、セキュリティーレベルは閉域LTEが活用される銀行のATMなどと同等である。対象となるネットワークを特に選ばないのもWrapの特長だ。TCP/IP通信が可能ならどのキャリアのネットワークでも、4G/5G、Wi-Fi/有線を問わずに対応できる。デバイスも同様だ。お客さまのネットワーク環境に合わせた事前設定後は、Windows、Linux、iOS、AndroidなどさまざまなOSにインストールするだけで利用できる(現在はWindows版を提供中)。 「約40社の無償提供先には、さまざまな業種で、エリアも北海道から九州まで、普段取引のないところもありました。このため、思っていた以上に設定や動作確認が必要になるケースがありました。しかし、お客さまにご協力いただき、試行錯誤をした結果、幅広いナレッジを蓄積できました」と國包は話す。正式リリース前にこうしたユースケースを経験できたことは大きな意味があるだろう。
ユーザーの声に応えWrapは進化を続ける
現在、Wrapの利用者数は約1万2000ユーザーにまで増えているという。無償提供を始める前はトータルで数百ユーザーだったことを考えると急速に増えたことになる。
「現在は、第1弾の無償提供も通じてWrap導入企業の中でユーザー数が増加している状態です。第2弾の無償提供や、その後の正式リリースなども踏まえて数倍に増えるのではないかと思います」と國包は展望を語る。また、利用シーンや利用目的についても、新たな顧客要望が生まれているという。例えば、Wrapを使って市中のWi-Fiや4G、自宅のネット回線などを利用して地域独自の通信網を構築し、街中のあらゆる端末にサービスを提供する、ネットワークに接続していない機器を後付けでつなぎIoT化する、といった使い方だ。
「Wrapは、IaaSで構築しているクラウド型のサービスですから、今、装備していない機能を追加することも技術的には可能です。さらに、私たちが提供する各種のサービスをWrapにカスタマイズして組み込むこともできます。伸び代のあるWrapには大きな可能性を感じています」と土井は今後のビジネス展開を考えている。
こうした広がりも考慮して、ユニアデックスでは2020年7月末日まで無償提供することを決定した。「緊急度が下がっているだけに、シビアに効果を検証するお客さまも出てくるでしょう。ただ、第1弾の経験も踏まえて、さらにスピーディーかつスムーズに実装可能な体制が整っています」と國包は話し、「第2弾の展開が楽しみだ」と笑顔を見せる。
「第1弾のお申込み追加分と、現在進行形でいただいているご相談だけでも80件以上のお問い合わせがきています。これからWrapに興味を持ってもらえるケースもたくさんあると思います。お客さまのニーズに応えられるように、サービスをさらに洗練させていきたい」と、黒田も意気込みを語る。
政府による緊急事態宣言は、5月25日にすべて解除された。しかし、先の見えない新型コロナウイルス感染症との戦いはまだまだ続くことが予測されている。こうした中、新たな働き方の要として、テレワークへの期待はむしろ高まっている。テレワーク環境をセキュアかつ短期間で構築できるWrapの活用は、まさにこれからが本番だ。