対談:“戦略的投資”がスタートアップと大手企業の新たな価値創造を加速する

日本のさらなるデジタルトランスフォーメーション進展に向けて、最新のシリコンバレー動向をつかむ

画像:TOP画像

日本ユニシスグループは、米国シリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタルであるスクラムベンチャーズが設立した「Scrum Ventures 3号ファンド」に出資した。同ファンドを通したアーリーステージのスタートアップ企業への投資が、日本ユニシスグループが掲げるビジネスエコシステムの構築にどうつながるのか。同社の創業者兼ジェネラルパートナー宮田拓弥氏と日本ユニシス株式会社取締役常務執行役員CMOの齊藤昇が、今後の展開について語り合った。

「スマホの次は何か?」
ICTが世の中をもっと変えていく

齊藤 スクラムベンチャーズとは、2015年ごろからお付き合いが始まり、今では、スクラムベンチャーズが主催する勉強会「Tackle!」にも、私をはじめ当社グループの社員が参加させていただくなど、ここ数年宮田さんとは親しくさせていただいています。そもそもなぜシリコンバレーで投資活動をするようになったのか、ご説明いただけますか。

スクラムベンチャーズ
創業者兼ジェネラルパートナー
宮田拓弥氏

宮田 会社を設立した2013年ごろは、シリコンバレーに日本人の投資家はほとんどいませんでした。そこに大きなビジネスチャンスがあると考えたのです。

私は1997年から米国でエンジニアとして仕事を始め、その後個人として設立間もないスタートアップ企業に投資するエンジェルとして活動してきました。この20年の間、インターネットがビジネスになり、スマホがビジネスを変え、そして社会そのものを変えていく、という変化を目の当たりにしてきました。Airbnbが宿泊の世界を変え、Uberがクルマの世界を変えてきました。しかし、医療や建設など、まだまだ変わっていない世界は数多くあります。

日本ユニシス株式会社
取締役常務執行役員CMO
齊藤昇

齊藤 毎月1回開催されるTackle!では、シリコンバレーの新しいスタートアップ企業を紹介してもらったり、最新ニュースの背景を解説してもらったり、異業種の方の意見を聞けたりと、大変勉強になっています。これまで数多くのスタートアップ企業を見てきた宮田さんは、今はどんな領域に関心をお持ちですか。

宮田 「スマホの次は何か?」と常に問いかけています。その変化は家と店舗とクルマという3つのシーンから見て取ることができます。Amazon EchoやGoogle Homeといったスマートスピーカーが登場し、Amazon Goのような無人店舗の検証も始まりました。クルマの自動運転が実現すれば、運転時間を別のことに使えるようになり、そこに新たなビジネスチャンスが生まれます。

齊藤 まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)ですね。スクラムベンチャーズがフォーカスしている領域は私たちが目指しているところと全く同じです。だからこそ今回さらに一歩踏み込んで関係性を深めて、一緒にムーブメントを起こしたいと考えたのです。

「技術力」と「目利き力」の相乗効果で大きな成果を

齊藤 スクラムベンチャーズとの連携で私が期待していることは、新規事業の創出やDXを加速させることです。そのために当社グループのマーケティング力を強化し、人財を育成していきたいと考えています。

特に人財についてはなかなか難しいと感じる部分もあります。これまでは、お客さまのシステム構築を受託した後は、QCD(Quality, Cost, Delivery)を追求して納品することが使命でした。これからはそれだけでは生き残っていけません。今まさに従来のSIerからビジネス成長を支えるパートナーへと変わろうとしています。そのためには当社グループの社員が、お客さまをはじめ、エコシステムを形成するステークホルダーにとって魅力ある人財にならなければなりません。

Tackle!にヒントを受けて、私も月に1回、社員を集めた「Morning Challenge」という最新トレンドをキャッチアップするためのインタラクティブな会をやっています。スクラムベンチャーズと一緒に仕事をすることで刺激を受けるので、人財育成にもつなげていきたいですね。

宮田 ここ数年、平岡社長をはじめ日本ユニシスグループの皆さんとお付き合いさせていただいて感じるのは、好奇心の強さです。システムをしっかり開発できてイノベーションに対しても貪欲な会社というのはなかなかありません。日本ユニシスグループが優れたイノベーターになれる可能性は大いにあると思います。

齊藤 成長のために学ぶべきモデルケースは日本だけでなく、当然シリコンバレーにもあります。そのためには情報を仕入れて一緒にやってくれるパートナーが必要です。

しかし、私たちと同じ領域に関心を持っていて日本の事情を理解しているベンチャーキャピタルはなかなかいません。スクラムベンチャーズにはそれがあると確信しました。当社グループの持つ技術力にビジネスを目利きする能力が加わることで、大きな相乗効果が期待できます。その意味では、スクラムベンチャーズの人財育成プログラムにも期待しています。

宮田 スタートアップ企業向けの投資家の仕事は一般の金融の仕事とは違います。売上ゼロの会社や赤字の会社に投資するには、技術力やチーム、業界を見る力が必要です。特に新しいビジネスは業界と業界の間に生まれてきます。ハイブリッドで見なければ目利きはできません。

実際にスタートアップ企業を見て、ディスカッションするという、社内で実践しているOJTを、2年前からは、他社の社員をお預かりし、教育プログラムとして提供しています。

シリコンバレーでは年間5000社から6000社のスタートアップ企業が生まれますから、日々それらを見ることができます。日本ユニシスグループの皆さんにとっても良い機会になると思います。

圧倒的な多様性があるから既成概念にとらわれない

齊藤 今回の3号ファンドの出資の引受先は日本企業ですよね。シリコンバレーでは日本企業への関心が低いという指摘もあります。実際にはどうなのでしょうか。

宮田 今はいいタイミングだと思います。会社を設立した2013年当時の日本は震災直後であり悪いイメージでしたが、今は状況が大きく違います。その理由は中国が成長したことにあります。

ここ数年で中国が急速に成長し、2018年に誕生したユニコーン企業の数は米国と中国でほぼ同数です。米国にとって中国はアジアで一緒にビジネスをする相手ではなく、市場を取り合う競争相手になっています。

グローバルにビジネスを見る米国にとってアジアは大事な市場です。そこでビジネスを展開するパートナーとして日本が見直されているのです。

スクラムベンチャーズの米国シリコンバレー本社にて

齊藤 シリコンバレーで活動しているスクラムベンチャーズだからこそ、米国のスタートアップも話を聞いてくれるという面もあるはずです。ファンドで探し出したスタートアップ企業が成長して、日本市場に進出するときには、当社グループの知財を生かすこともできそうですね。

ただ、シリコンバレーと日本では感覚的に大きな違いがありそうです。どんなところが違うと感じていますか。

宮田 多様性が圧倒的に違いますね。米国人だけでなく、アジア、欧州、アフリカから多くの人が集まっています。インド人や中国人は特に多い印象です。一方、日本は日本人ばかりで調和の取れた均衡の中にいます。

この多様性は変化を求めることにつながります。使っている言語も異なるように、スタンダードというものがありません。「このまま」というものがない、ある意味アンバランスな状態なのです。だから常に変化していくのだと思います。

齊藤 ダイバーシティはこれから日本企業が突き当たる壁でもあります。どうすれば変わることができるのでしょうか。

宮田 やはりシリコンバレーの状況を見ることだと思います。例えばこの部屋にインド人と中国人がいたら雰囲気は全く違ってきますよね。いい意味でバラバラですから、既成概念にとらわれることもありません。それがシリコンバレーなのです。

投資事業とスタジオ事業で技術と社会を結び付ける

齊藤 今後どのように事業を進めていくのでしょうか。

宮田 切り口は2つあります。「投資事業」と「スタジオ事業」です。ここにきて、家、店舗、クルマというライフスタイルの核がスマート化し、社会変革が起きつつあります。医療もヘルスケアではなく、より治療に近いメディカル領域でVRやARのようなITが駆使されるようになってきました。こうした領域で出てくる技術やビジネスを投資の対象として考えています。

スタジオ事業は2017年から始めた取り組みで、パナソニック、任天堂、電通と一緒に、シリコンバレーのベンチャー企業と日本の企業を結び付ける活動です。「つなぐ」というキーワードを掲げるこの事業では、言葉や開発力が必要となるのですが、日本ユニシスグループにはこの開発面、「つくる」という部分でのご支援を期待しています。

齊藤 日本の企業にはどんな対応が望まれているのでしょうか。

宮田 何といってもお金を払うことです。立ち上がったばかりのベンチャー企業にないのは、お金と実績です。米国ではGoogleやSalesforceがそうしたベンチャー企業のユーザーになってお金を払っています。それが大きな支援になっているのです。

齊藤 当社グループも「つなぐ」ということに重点を置いています。これまではITパートナーでしたが、今後はお客さまが成長するためのパートナーとしてつなぐ役割を担っていきたいと考えています。シリコンバレーの技術が役に立つのであれば積極的に提案していきたいですね。それが当社グループの価値を上げることにもなります。

宮田 スタジオは何かをつくる場所であり、未来をつくっていくのがスタジオ事業です。私たちがそうあってほしいという未来に必要なパーツをつくるために、ベンチャー企業を変えていくというビジョンを共有して、一緒に取り組んでほしいですね。

齊藤 日本企業とのネットワークに強みを持つ当社グループと、シリコンバレーにネットワークを持つスクラムベンチャーズが手を携えることで、今までにない価値を創出できるはずです。そのためにももっと綿密にコミュニケーションして、お互いのビジョンを共有させていきたいと思います。

関連リンク