クラウドの真価を解き放つ──ビジネス価値創造への実践的アプローチ

サーバーワークス×BIPROGYグループが語るマネージドサービスの活用法

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DXを“ビジネス変革の要”として捉える企業が増加する中、クラウドの重要性はかつてないほど高まっている。高いアジリティと柔軟性を備え、多様なサービスとシームレスに連携するクラウドは、DX推進に欠かせない基盤として定着している。しかし、その真価を理解し、潜在力を最大限に引き出すことは、多くの企業にとって依然として挑戦的な課題だ。この課題解決に向けて意欲的に取り組むのが、サーバーワークス取締役の羽柴孝氏だ。「クラウド活用の第一人者」として知られ、ユニアデックスとの連携プロジェクトをはじめ、さまざまなプロジェクトをけん引している。今回は、羽柴氏をゲストに迎え、BIPROGYグループで「マネージドサービス」の革新に挑むユニアデックスの三ツ井淳一と津久井裕之が、クラウドによる価値創造の実践的アプローチを探る。

クラウドが変える企業競争力──DX時代の新たな主戦場

――生成AIをはじめとした技術の進歩で、企業にとってクラウド導入がDX推進の要となりつつあります。こうした変化についてどのようにお考えでしょうか。

羽柴急速に技術が進歩する昨今、クラウド活用は企業がDXを推進する上で前提条件となりつつあります。サーバーワークスでは、この変化に対応するため、AWSの導入・移行からさらなる有効活用まで情報システムインフラのクラウド化に伴走し、高度な技術とスピード感を持って、ビジネス価値の向上を支援しています。近年では、生成AIをはじめ、最新技術を素早く調達する上でもクラウド活用は非常に有効だと感じています。

写真:羽柴孝氏
株式会社サーバーワークス
取締役 羽柴孝氏

津久井クラウドの大きなメリットは、柔軟かつ迅速にビジネス上の変化に対応できる点です。クラウドのアジリティと柔軟性のおかげで、素早いコンピューティングリソースの調達やIT環境の迅速な構築が可能となり、新しいビジネスやサービスの展開に積極的なチャレンジができるようになります。仮に、そのサービスが受け入れられなかった場合も、オンプレミスと比較して撤退や修正のコストが低く、リスクを大きく抑制することができます。結果として、イノベーションに向けた試行錯誤を促すことにつながるでしょう。「クラウドを活用して何をするか、どう使いこなすか」が企業の競争力を左右する時代になりました。当社でもこの点を強く意識しながら、新たなマネージドサービスの展開に取り組んでいます(参考「IT戦略を進化させるクラウド時代のマネージドサービスの姿とは?」)。

三ツ井AWSやMicrosoft Azureに代表されるクラウドには最新技術やビジネスで勝つための豊富なツール群がそろい、応用の幅も多岐にわたります。これらを使っていかにビジネスを変革するか、そして、新しい価値を創出するかが問われています。ビジネスの競争環境が厳しさを増す中、クラウドをいかに戦略的に活用できるかが、企業の将来を左右する重要な要素となっているのです。

――クラウドを使いこなすためのポイントについて、どのようにお考えでしょうか。

三ツ井クラウドに対する技術的な理解は引き続き重要ですが、対話型インタフェースを持つ生成AIの登場に象徴されるように、利用のハードルは大きく下がってきています。むしろ現在のユーザーに求められるのは、クラウドと事業戦略を結び付ける発想力です。技術的な知識以上に、クラウドをどのように事業に生かすのかという視点が重要になっていると感じます。

写真:三ツ井淳一
ユニアデックス株式会社
執行役員 マネージドサービス部門
部門長 三ツ井淳一

羽柴一方で、「クラウドの適切な管理」という課題も見過ごせません。特に複数のクラウドサービスを併用するマルチクラウド環境では、全体の一元管理が大きな課題となっています。IT部門による全体のガバナンスとセキュリティ確保は必須ですが、同時に事業部門の機動的な活用も認めていく必要があります。その解決策として注目されるのが「ガードレール」の考え方です。これは「最低限守るべきルールを設定した上で、その範囲内であれば自由に活用してよい」というアプローチです。このガードレール方式を効果的に機能させ続けるのは容易ではありませんが、これからのクラウド活用では避けて通れない道だと考えています。

クラウドの主な種類と特徴を説明する図。パブリッククラウドは不特定多数のユーザー向けでコストが低い点が特徴。プライベートクラウドは特定企業や組織専用でセキュリティ面が優れるがコストは高い。ハイブリッドクラウドはパブリックとプライベートを組み合わせ柔軟性と効率性がメリット。マルチクラウドは複数のクラウドサービスを組み合わせて利用し、リスク分散や最適化策を実現する形態。

津久井まさにその通りです。ガードレールの範囲を超えた利用は、情報漏洩やコンプライアンス違反などの深刻なリスクにつながる可能性があります。そのため、ユーザー部門に対して、なぜそのルールが必要なのか、どのようなリスクが想定されるのかを具体的に説明し、理解を深めてもらうことが重要です。

写真:津久井裕之
ユニアデックス株式会社
マネージドサービス第一本部 クラウドマネージドサービス二部
部長 津久井裕之

――クラウドに適しているのは、どのようなシステムでしょうか。

津久井クラウドの普及期によくいわれたのが、「コアコンピタンスに関わる部分はオンプレミス、それ以外はクラウド」という分け方でした。その後、クラウドでしかできないことが増え、こうした線引きはあまり有効ではなくなりました。厳密な線引きは難しいのですが、現状、アジリティが求められる分野でクラウドを選択するケースが多いのではないでしょうか。例えば、市場の変化に素早く対応する必要があるデジタルマーケティングシステムなどです。

羽柴クラウドにはネットワークが欠かせません。したがって、通信トラブルが業務に深刻な影響を及ぼす医療などのシステムでは、今もオンプレミスを選ぶ場合が多い。もっとも、医療にもさまざまなシステムがあります。最近は、一部の医療システムにクラウドを採用する病院が増えています。

三ツ井クラウドからオンプレミスに戻すというケースもあります。多くの場合、理由はコストです。特に数千、数万人が利用するシステムになると、トータルの費用は相当の額になりますからね。投資対効果や費用の見積もりなど、事前の検討は慎重に行う必要があります。

羽柴付け加えるとすれば、システムが遅延に対してどれだけ敏感かという論点があります。例えば、大容量データを瞬時にやり取りする必要があるCAD/CAMのようなアプリケーションでは、現状のクラウドインフラでは十分なパフォーマンスを得られない場合があります。しかし、技術の発展スピードは速く、このような制約は急速に解消されつつあります。実際、CAD/CAMをクラウド化する事例も現れ始めています。

「企業を取り巻く近年のクラウド活用の変化」を示した図。クラウド利用が「Reduction(コスト削減)」「Optimization(クラウド利用の最適化)」「Expansion(DXの拡大)」へと段階的に進化している過程を解説。2018〜2019年はIaaSの活用が主軸となり、既存システム移行によるコスト削減が目的。2020〜2021年はハイブリッドクラウドおよびPaaS導入が進み効率化と自動化を目的に。2022年以降はマルチクラウドやDX推進期として、データ活用やAI、IoT技術を駆使したデジタル変革を目指している。

クラウド間連携がもたらす新たな価値

――次に、クラウド活用の現状とそのビジネス価値について、どのようにお考えですか?

津久井当初、多くの企業は「オンプレミスシステムの代替」との考え方だったように思います。近年は、クラウドならではの特性をいかに活用するかという視点が強まりました。SaaSやPaaS、IaaSなど多種類のシステムがあっても、クラウド同士であれば容易に接続することができます。クラウド間=サービス間の連携により、顧客体験の向上を図る、あるいは企業システムの効率化を実現する企業が増えています。

羽柴特にアジリティや柔軟性が求められるビジネスでは、クラウドを用いた価値創造の事例は多数あります。一方で、クラウドに限りませんが、適切に使わなければせっかくの価値を減らしてしまう場合もあります。よく見かけるのは、クラウドのリソース監視が不十分で、必要以上のリソースを長い間契約しているケースです。

例えば、リソースを最適化すれば「10」の費用で済むのに、「12」や「15」といった過大な費用を負担し続けることになります。コストやセキュリティなどの観点で、特に事業部門主体で運用しているクラウドの管理には課題が多いように思います。

三ツ井難しい課題です。ガードレール方式のガバナンスを採用するにしても、ルールの捉え方や解釈が本社と事業部門の間で微妙に異なることもあります。対話を通じて認識を擦り合わせるなど、地道な活動を続けるほかありません。

津久井ガバナンスやセキュリティの問題は、確かにリスクといえるでしょう。しかし、クラウドを選ばないことのリスクもますます大きくなっていると感じます。

――マルチクラウド環境の管理負荷が増大する中で、どのような対策が有効だと考えますか?

三ツ井リソース監視だけでも、その管理は複雑化しており、扱う情報量も増えています。人手に頼った管理は限界を迎えつつあります。そこで期待されているのがAIや自動化などの技術です。障害の予兆検知はもちろん、サイバー攻撃が疑われる挙動を検知していち早く通知するといった使い方です。

津久井例えば、ECサイトにアクセスするユーザーが急に増えたとき、自動的にリソースを増やして対応する技術はすでに実現しています。先ほど羽柴さんから過剰リソースの課題が指摘されましたが、いずれ複雑なマルチクラウド環境でもリソースを常に監視し、最適化するような自動化も可能になるでしょう。こうしたリソース監視・管理を含めて、将来的にはマルチクラウド環境におけるさまざまなオペレーションが完全自動化される日が来るかもしれません。現場の負荷を軽減し、貴重な人財の力を最大限発揮させるためにも、AI活用は今後の重要なテーマです。

クラウド活用の羅針盤──目的志向で成果を最大化する

――クラウドとの上手な付き合い方について、今後の展望を含めてお聞かせください。

写真:津久井 羽柴 三ツ井

羽柴DX推進の動きを受けて、多くの企業が内製化を目指しています。それ自体は望ましい方向だと思いますが、クラウドを活用したサービスの開発・運用などをすべて自前で行うのは非現実的です。強引に内製化を進めれば、スピードとセキュリティなどさまざまな面で弊害が噴出するでしょう。何を自前でやるか、何を外部ベンダーに任せるかという線引きが重要です。外部に委ねるとしても、勘所を押さえてコントロールする必要があります。

三ツ井「何のためにクラウドを使うのか」という目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま走り出し、プロジェクトが迷走することはよくあります。また、失敗事例を見ると、「丸投げ」の結果というケースも目立ちます。クラウド活用のパートナーの見極めにも慎重を期すべきでしょう。自社内でクラウド及びITのリテラシーを高める努力も欠かせません。

羽柴AWSの場合、日々、膨大な数のアップデートが行われています。それらの情報を把握・理解し、クラウドの進化をキャッチアップするのは至難です。適切なサポートを提供するパートナーの存在は欠かせないと思います。

津久井クラウド活用のカギは、結局のところ人財育成だと思います。ユーザー企業においては、クラウドとビジネスを結びつけて考えられる人財が今後、さらに重要になると思います。クラウドサービスそのものの知識以上に、クラウドを使って何をするのかという発想力が重視されるのではないでしょうか。また、1人でできることは限られているので、社内外のDX推進者やエンジニアとのネットワークを維持・拡張するための、いわば人間力も重要だと思います。

三ツ井特にパブリッククラウドはすでに、社会インフラとしての役割を担っています。例えば、金融機関の勘定系システムの中にはパブリッククラウド上で動くものもあり、今後もその社会的な役割は増大するばかりです。企業は、こうした社会の動きを捉え、これまで以上に積極的にクラウドを活用していくことで、ビジネス成長を図ることもできると私は考えています。

「クラウド活用を加速させるためのステップ(考え方)」について示した図。3つのフェーズで構成されており、それぞれの段階が具体的に解説されている。戦略構想・計画策定フェーズ:現状分析と目標(KPI)設定、戦略策定とロードマップ作成、クラウド基盤選定、本番環境の移行計画策定、PoC(概念実証)の実施が含まれる。システム構築・移行フェーズ:ハイブリッド/マルチクラウド環境構築から移行実行と最適化までを整備するプロセス。運用・保守フェーズ:運用・監視体制の構築、継続的な改善と最適化を行い、クラウド活用を維持・発展させる。この図は、クラウド導入を計画から運用まで段階的に進める方法を視覚的に説明している構造化されたガイドラインです。

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