物流DXに挑むニチレイロジグループ 、「SmartTransport」から広がる未来の物流
デジタル活用によるドライバーの待機時間可視化を通じ、働き方改革を実現する
少子高齢化の急速な進行と生産年齢人口の減少が、国内のさまざまな業界に影響を与えている。あらゆる産業で労働力不足が深刻化する中、物流業界ではドライバー・倉庫作業員の人手不足が課題となっている。国土交通省などもさらなる深刻化について警鐘を鳴らす中、トラックの待機時間短縮をはじめとした働き方改革への対応や、SDGsへのコミットメントとしてのCO2削減が物流各社で模索されてきた。加えて、新型コロナウイルス感染拡大の防止も急務となっており、デジタル化による効率化・省力化には大きな期待が寄せられている。そうした中、ニチレイロジグループは、トラック予約・受付サービス「SmartTransport」を導入し、物流状況の可視化実現のほか、多様な課題解決に挑んでいる。本稿では、同社の「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)」の実現に向けた思いとともに物流業界の未来像を紹介したい。
トラックの待機時間は大きな社会課題
倉庫会社と運送会社をつないで課題解消を目指す
ニチレイロジグループは、日本における低温物流分野のリーディングカンパニーである。近年は海外での事業展開にも積極的だ。ニチレイグループの物流事業を担う同社だが、グループ外の売上比率は92%に達する。加工食品などの商品を店舗に届けるだけでなく、原料輸送などを含めて国内外のサプライチェーンをトータルに支えている。ニチレイロジグループ本社 業務革新推進部長の北川倫太郎氏は、物流業界を取り巻く環境は厳しさを増していると話す。
「物流業界では、ドライバーをはじめとした人手不足が深刻化する一方で、働き方改革の一環として労働時間の短縮が求められています。特に、労働時間短縮は、運輸や倉庫内作業の安全対策やドライバーなどの労務環境改善にとって重要なテーマです。国土交通省もこうした点を鑑み、2016年ごろから改善に向けた多様な施策を行ってきました。さらに女性活躍推進やダイバーシティ推進への取り組み対応も大切です。これらに対応し、持続可能な経営環境を実現していくことは、物流業界全体にとって切実な課題となっています。また、働きやすい職場づくり、楽しく仕事ができる環境づくりも求められています」
こうした課題に対して、同社はさまざまな業務革新に取り組んできた。北川氏は「業務革新の一丁目一番地が庫内作業のデジタル化です」と話す。物流業界では伝票類を扱う場面も多く、紙ベースの業務が相当残っている。その分、デジタル化による改善余地も大きいと言えるだろう。デジタルを活用して倉庫内の業務をいかに効率化し、作業負荷を低減するか。こうした取り組みの一環として導入されたのが、日本ユニシスの提供するトラック予約・受付サービス「SmartTransport」である。SmartTransportは、トラック予約、自動受付、バース(編注:トラックが荷物の積降ろしのために停車する場所)管理をサポートするクラウドサービス。倉庫会社と運送会社/トラックドライバーをつなぎ、双方の課題解決を目指している。
日本ユニシス インダストリサービス第三事業部 営業一部長の山下慶亮は、SmartTransportの狙いについて次のように説明する。
「私たちが特に注目しているのは、データの可視化によって『物流業界における人手不足やそれらに付随する課題をいかに解消するか』という点です。例えば、倉庫に入ろうとするトラックがつくる長い待機列を解消できれば、トラックドライバーはそのために使っていた時間を有効活用でき、効率的に働ける環境になったと言えます。また、倉庫や物流センター側においてもトラックが来る順番が可視化され、スムーズな入出荷が実現できれば、それに合わせて効率的な要員配置で庫内作業を進めることができます」
ドライバーが使ってくれるか、当初は不安も
SmartTransport導入後に気づいた潜在ニーズ
ニチレイロジグループがSmartTransportを活用しているのは入庫車両が中心で、現在のところ出荷車両は一部のみとなっている。同社の物流センターには日々、メーカーの倉庫など、加工食品を積み込んだトラックが多数到着する。これらのトラックについて、「まずは短時間かつスムーズに受け入れて荷降ろしをしてもらう」という部分から適用している。現場への浸透状況を鑑みながら徐々に大きな改善へとつなげていく考えだ。
「SmartTransport導入に当たっては、『トラックの平均待機時間を30分以下にする』という目標を設定し、この目標は達成されました。例えば、東海地区では4つの物流センターに導入しました。この東海地区で最も待機時間が長かった小牧物流センターでは、以前127分だった時間が27分に短縮されました」と北川氏は話す。また、比較的待ち時間が短かった別の物流センターの場合においても、49分だった待ち時間が17分になったという。
東海地域を所管するニチレイ・ロジスティクス東海 企画管理部の植村圭太氏は、その状況についてこう説明する。
「導入前は、『本当にドライバーがスマホを使って予約してくれるだろうか』という不安もありました。しかし、実際に始めてみると物流会社やドライバーからは予想以上に好評です。最初は利用されるかどうか分からず、少ない予約枠を設定していたのですが、すぐに埋まるので予約枠を増やしていきました。小牧物流センターを例に挙げると、現在では入庫車両のうち70%近くが予約した上でセンターに来ています。実際に使ってみて、ここに潜在的なニーズがあったと強く気づかされました」
以前のことだが、特にトラックが多く集まる小牧物流センターでは、少しでも混雑を緩和しようと、早朝に紙の整理券を配っていたという。すると、整理券を確保するためにドライバーが朝一番から列をなした。SmartTransport導入後、整理券は不要になり、トラックの滞留は大きく改善されている。
待機時間の短縮は、長時間労働が常態化しているドライバーやドライバーを多く抱える運送会社にとって、働き方改革や労務改善の実現に向けた大きな利点となる。一方の、商品の運輸を依頼する食品メーカーにもメリットがある。深刻なドライバー不足という環境下、待ち時間が長い冷蔵・冷凍倉庫への輸送依頼は運送会社から敬遠されがちだからだ。
スムーズな入庫ができる倉庫への輸送なら、食品メーカーはトラックを調達しやすくなる。「予約の仕組みを導入したことで、ドライバーにとっては不要な待ち時間がなくなり、トラックが当社拠点に来やすくなりました。ドライバー不足という業界全体の課題解決に向けて、大きな一歩を踏み出したと感じています」と北川氏は手応えを語る。
デジタル化により全国の拠点の状況を可視化
APIの提供で、外部システムとの連携も容易に
SmartTransportによるペーパーレス化、デジタル化の効果も大きい。例えば、同社の物流センターでは、これまで受付簿で入庫記録を残すケースが多かった。しかも、「物流センターによって受付簿の形態が異なることもあった」と語るのはロジスティクス・ネットワーク 経営企画部 マネジャーの立岡伸介氏だ。同社はニチレイロジグループで物流ネットワーク事業を担っている。その実感についてこう続ける。
「以前は、ローカルルールがかなり残っており、ドライバーには拠点ごとのルールに従ってもらう必要がありました。SmartTransportを使えば、ドライバーの窓口は一本化されます。当社の複数拠点を行き来するドライバーにとって、少なくとも当社拠点については、同じプロセスで入庫できるようになります。従来のような面倒はなくなるでしょう。加えて、庫内業務の標準化も進みました」
受付簿による紙ベースの管理をデジタル化したことで、入庫記録をはじめ庫内の状況が可視化された。これにより、全国の物流センターの状況を把握できる。例えば、拠点ごとの待機時間や全体の傾向などもすぐに分かる。可視化がさらに進めば、課題の抽出や改善提案などもしやすくなるはずだ。SmartTransportは東海地区では4拠点に導入されたが、全国では北海道から九州・沖縄まで、29拠点に導入済みだ。当初は26拠点に導入する予定だったが、すでに予定を超えた。運送会社や物流センターなどからの要望を受けてのことである。「今後、SmartTransportのような仕組みが業界で広く使われるようになれば、人手不足解消やトラックの待ち時間短縮、CO2の排出削減といった社会課題解決に一層近づくことができるでしょう」と北川氏は考えている。
また、先ごろ同社の基幹システムである「WMS(倉庫管理システム)」との連携もスタート。当初はSmartTransportを単体のサービスとして使っていたため、WMSとの二重入力が発生することもあったが、システム連携の実現によって二重入力がなくなり、業務効率化や人的ミスの回避といった効果が期待されている。立岡氏も、その期待についてこう語る。
「SmartTransportの活用によって、物流に携わる方々がシームレスにつながり、働き方改革の実現も加速していくのではないかと考えています。例えば、倉庫で作業される方がトラックの配送状況が分かったり、ドライバーの方が倉庫稼働状況を含めた現場の状況が認識できたりと、データの可視化によって業務効率化が一層図られるはずです。今まで生じていた時間的なロスもより軽減されるでしょう。今後は、利用者の働きやすさにさらにフィットしたツールになればと考えています。常に『今以上のものを』という思いで進めていますので、きっとその完成に終わりはありません。」
デジタル化によりエコシステムを形成し
物流DXを加速させていく
WMSとSmartTransportのシステム連携のために開発されたインタフェースは、日本ユニシスにより汎用化されてAPIとして提供される予定だ。「SmartTransportの類似サービスは多くありますが、容易に外部連携ができるサービスは少ない状況です。APIができれば、他システムとつないで、より大きな価値を提供できると考えています」と山下は展望を語る。さらにAPIだけでなく、他のさまざまな面でもSmartTransportを進化させようと考えている。
「バースの画像をスマホで見られるようにすれば、ドライバーは『そろそろ自分の番』と判断できるでしょう。あるいは、ドライブレコーダーの位置情報と掛け合わせれば、もっと便利なサービスになるかもしれません。ただ、サービスをさらに発展させるためには、当社だけの力では限界があることも確かです。将来に向けて、スタートアップや多様なパートナーと連携しながら、より価値のある『物流エコシステム』へと進化させていきたいと考えています。立岡さんがおっしゃたようにつくって終わりではありません。将来を見据え、今後も伴走して支援していきます」
これを受けて植村氏はこう続ける。
「例えば、AI技術を活用して決まったタイミングでドライバーにスマートに案内をかけていくといった『案内の自動化』があると良いと考えています。現在は、倉庫側の準備が整い次第、ドライバーをバースに誘導します。この誘導案内のオペレーションにAI技術を活用してより効率化が図れるような、さらなる技術進化に期待しています」(植村氏)
物流現場の抱える課題は大きく、そこには多様な要因が複雑に絡まっていることも多い。こうした課題を丁寧に解きほぐしながら、物流DXの実現に先陣を切ったニチレイロジグループ。日本ユニシスと共に育むSmartTransportはその課題解決の手段の1つだ。物流業界のデジタル化が進めば、サプライチェーンに関わる各社の状況も可視化され、業界のサービスが高度化していくだろう。挑戦を続けるその一歩一歩は、物流業界の明日へとつながっている。北川氏は、未来への思いを最後にこう語る。
「物流を支えるトラックドライバーは、さまざまな会社で積込や配送を行います。このため、私たちだけではなく、物流に関わる他の企業も導入すればトラックドライバーの待機時間をさらに削減できるはずです。冒頭でもお話しましたが、物流業界ではドライバーをはじめとした人手不足が深刻化する一方で、働き方改革の実現が期待されています。その実現に向けて、これからも日本ユニシスと一緒に私たちはこれからも一歩ずつ先陣を切って取り組みを進めていきます。今後、物流業界に携わる各社がSmartTransportのような仕組みを導入し、物流業界のDXが加速していくことを期待しています」(北川氏)