今年7月に開催されたSoftBank World 2017には、クラウド、IoT(モノのインターネット)など様々なソリューションが集まった。特に注目を集めたのがAI(人工知能)分野のソリューションだ。日本ユニシスのグループ会社であるエス・アンド・アイも「IBM Watsonで顧客対応業務が変わる!」というテーマで講演した。ここではその様子をお伝えする。
現場で使われるためには
高い回答精度が必要に
講演のサブタイトルには「現場のナレッジを"形"にし、脱属人化を実現」が掲げられ、一般論としてのIBM Watsonの活用方法ではなく、現場のナレッジを活用するための実践事例が取り上げられた。事例のユーザーとして取り上げられたのは、コンタクトセンター業務にAIを取り入れたハウコムである。
エス・アンド・アイ株式会社
コグニティブ & UCデベロップメント
統括部長
佐々博音
最初に、エス・アンド・アイでAI事業を推進するコグニティブ& UCデベロップメント統括部長の佐々博音が登壇。「IBM Watsonではコンタクトセンターでの事例が多い。コグニティブコンピューティングにより大きな効果が得られるからです。ただ、学習データを作るのは大変です。それがハードルを高くしています」と現状を語った。
人間の知識を拡張し増強する「AI(Augmented Intelligence:拡張知性)」を標榜するIBM Watsonの特徴は、自然言語処理と機械学習を使って、大量の非構造化データから洞察を得られる点にある。しかし、そのためには質問内容を理解させ、回答を導き出すための動線を教育しなければならない。そこでは適切な学習データを用意する必要がある。
佐々は区役所の住民異動届の処理を例に上げ、「未学習データと学習済みデータでは回答精度に歴然とした差があります」と指摘。回答精度が低ければ"使われないシステム"になりかねない。こうした課題に対処した事例がハウコムでのIBM Watsonの活用であり、佐々の話を受けて、ハウコムの運用本部サービス戦略部部長である松野淳一氏が登壇した。
KCSをAIで実装することで
業務品質の向上を図る
ヘルプデスクやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)のコンタクトセンターを運営するハウコムは、3カ所にアウトソーシングセンターを保有し、コンタクトセンター業務を請け負っている。そこで導入されているのが、KCS(Knowledge Centered Support)という方法論だ。
「KCSとは、ナレッジを中心に業務を運用し、テクノロジーを活用することで、属人化を排除するもので、そこで述べられているポイントは3つあります。全体の8割のナレッジは活用されていないこと、未知の事象はメモレベルで登録して公開すること、KCSの推進には全員が関わることです」と松野氏は語る。活用されないという前提でメモレベルでも未知の事象を登録し、全員で利用していくのがKCSだ。
通常のナレッジ活用ではベテランのオペレーターのナレッジをデータベース化する。そうすると新人は検索するが、ベテランは検索しない。しかし、KCSではチームのために誰もがシステムを利用し、ベテランも新人も同じデータを利用してスキルの標準化を図っていく。ハウコムではKCSを導入して半年で2000件を超すコンテンツを蓄積し、32分かかっていた平均対応時間を11分に短縮できたという。
株式会社ハウコム
運用本部 サービス戦略部 部長
松野淳一氏
松野氏は「この全員で取り組むKCSの考え方と、育てないと使えないコグニティブは親和性があると思いました」と指摘する。使うほどに磨かれるコグニティブでは動線を確立することが重要になる。全員が必ずナレッジデータベースを参照し、利用することでコグニティブを育成する。この点がKCSと合致する。
ただし、実際の導入には課題もあった。元データを二次利用するために、クライアントの了承を得て、固有のデータを手作業でマスキングしなければならなかったこと、学習データを構築するのに現場の担当者に負担がかかってしまったこと、そして費用対効果が見えないPoC(コンセプト検証)段階で予算を確保することだ。
「コグニティブの活用には人間側の業務の改革が必要です。そこでは高度なノウハウを持ったパートナーの存在が不可欠でした」と松野氏はパートナーとしてのエス・アンド・アイを高く評価した。
ベンダーとの役割分担が
AI導入を成功に導く
AIの導入に当たってユーザーとベンダーとの役割分担はどうなるのか。松野氏の事例の話を受けて再び登壇した佐々は、「AIシステムは最初に高い確信度を実現している方が使われるようになります。学習データがなければユーザーに回答リストを作って、質問文を1対Nで作成してもらうことになります」と解説する。
「大量にデータがあるのであれば、Watson Exploreのような分析ツールを使って学習データを用意し、学習済みのシステムの精度を検証していきます。この段階は我々ベンダーが受け持ち、ユーザーの評価が良ければ本番へと移行します。どういう動線を作り、AIに何をさせたいのかを明確にしておくことが、アセスメントを成功させるコツです」(佐々)
佐々が指摘するように、使われることで成長するコグニティブなAIシステムは、使われなくて精度が低ければ、ゴミのような存在になりかねない。そうならないためにも、学習データの構築が大事になる。
最後に佐々はIBM Watson導入を全面的にサポートするパッケージサービスを紹介した。AI活用に失敗しないためには、こういうプロフェッショナルなサービスを利用するのが有効だろう。
エス・アンド・アイ(S&I)
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S&I 30周年 コンセプトムービー
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