
法人への売電における非化石証書の活用を促す――環境価値管理サービス「Re:lvis(リルビス)」
岐阜電力が、調達から割り当てまでの複雑な業務をSaaSで一元管理

地球温暖化対策の切り札といわれるのが、エネルギーの脱炭素化だ。化石燃料を含めたエネルギー全体のうち、電力は8割を占めているため、カーボンニュートラルを達成するには、太陽光や風力などCO2を排出しない非化石電源で作られた電力へのシフトが不可欠である。非化石電源による発電で生まれた電力の環境的価値を証明する「非化石証書」の流通に関して、BIPROGYでは環境価値管理サービス「Re:lvis(リルビス)」を提供している。Re:lvisを導入し、脱炭素を推進する岐阜電力に話を聞いた。
非化石証書の調達・管理を効率化するSaaSサービス
非化石証書は日本卸電力取引所(JEPX)の非化石価値取引市場でオークション方式によって購入できる。小売電気事業者は非化石証書を購入することで、供給する電力のCO2排出量を実質ゼロと見なすことができ、環境負荷の軽減を目指す事業者は再生可能エネルギーへのシフトを対外的に説明できる。
しかし、非化石証書を入手して活用するには複雑な手続きが必要であり、それが大きな負担になっている。そのため、BIPROGYでは環境価値管理サービス「Re:lvis(リルビス)」を提供し、非化石証書の流通と活用を支援している。
Re:lvisはJEPXの会員である小売電気事業者や仲介事業者、需要家が非化石証書を入手して活用するためのプロセス全体をサポートするSaaSサービスで、非化石証書の調達から入札、割り当てまでの業務をデジタルの力で効率化する。小売電気事業者の場合、まず非化石証書と電気をセットで取引先に提供する再エネメニューの契約情報を集約し、電力供給量から非化石証書の購入量を算出する。次に、必要な非化石証書をどのような手段で調達するかという証書調達計画を策定し、非化石価値取引市場のオークションや相対調達によって必要な非化石証書を調達する。さらに調達した非化石証書を管理し、対象となる取引先に割り当てていく。
これまでは、こうした一連の業務プロセスはExcelシートなどを駆使して手作業で対応してきたのが実態だ。負荷が大きく、ミスが発生する可能性も高い。工程が複雑なため属人化しがちで、内部統制上も問題があった。Re:lvisを活用すれば、一連の業務プロセスがシステム化され、デジタルによる一元管理が実現できる。契約先に対する電力供給量から非化石証書の必要量を自動で算出し、調達した非化石証書の情報を一元管理して、割り当て結果もPC画面上で共有できる。Re:lvisはこれまでBIPROGYが行ってきた非化石証書関連業務のノウハウが生かされたサービスで、すでに複数のJEPX会員に採用されている。

脱炭素を推進する岐阜電力が初期ユーザーに
Re:lvisの初期ユーザーの1社が、2016年に設立された岐阜電力である。「電気の地産地消」を掲げ、岐阜県を本拠として電力供給事業を開始し、愛知県、三重県、長野県、静岡県へと対象エリアを広げ、現在では中部エリア全体をカバーしている。
同社の最大の特徴は、脱炭素を全面に押し出していることだ。同社の常務取締役である小林穣氏は「2022年度の調整後排出係数は0.016(kg-CO2/kWh)で、2023年度にはゼロを達成しました。電力の供給先を当社に切り替えるだけで、需要家はCO2の排出量を大幅に削減できます」と話す。電力を100%再生可能エネルギーにする「RE100プラン」も提供している。

小林穣氏
背景には同社の設立経緯が関係している。同社を設立した代表取締役の下田平真樹氏は、以前から再生可能エネルギーの発電事業を手がけ、一般家庭約9000戸分の年間消費電力量に相当する太陽光発電量30MWを誇る企業の代表取締役でもある。下田平氏が自然エネルギーのさらなる利用のために設立した同社が脱炭素を掲げるのは当然の流れだ。
脱炭素への貢献を訴求する同社の契約先には、警察署や学校、文化施設、福祉施設などの公共施設が多い。「全体の6~7割が公共施設で占められています。民間施設では、金属加工業や食品加工業、窯業、土木建築など、多種多様な業種業態に関わっています」(小林氏)
同社では、大手発電事業者から固定価格で仕入れる相対契約先、複数社からの特定卸供給、24時間365日調達可能なJEPXという3つの調達方法を組み合わせることで、安定した供給を実現するとともに、コストを追求し、低価格で電気を供給することを目指している。
JEPXが提供する非化石価値取引システムへの自動連携機能が決め手に
岐阜電力は2024年4月にRe:lvisを導入した。「以前は私一人で、すべて手作業で非化石証書を調達し、割り当てていました。扱う金額が大きい上にJEPXの制度が非常に複雑なため、従業員に作業を割り振ることが難しかったのです」と小林氏は語る。
当時の契約数は約4000で、非化石証書の割り当ては約100件だった。1件の需要家に対して太陽光や風力など複数の契約があり、顧客管理データベースから対象を抽出して非化石証書の調達量を算出し、オークションで調達した後は発電所と需要家をひも付けて非化石証書の割り当てを通知していたという。
「Excelファイルが40MBになるほどのデータ量で大変な作業でしたが、それ以上に苦慮していたのが制度やルールに対する対応でした。毎年変更になる制度やルールをチェックし対応しても、それが正しいのかどうかを確認する術がなく、常に不安がありました」(小林氏)
悩んでいた小林氏がRe:lvisを知ったのは、2022年の暮れに参加したBIPROGY主催のWebセミナーだった。当時はまだ製品名はなく、ユーザーインタフェースも開発途中の段階であった。
「これではExcelで管理するのと負荷が変わらない」と判断した小林氏のところに、翌年2月になってBIPROGY担当者から連絡が入った。「セミナーの感想を伝えると、今後の方針を教えてくれて、製品を試してみないかと持ちかけられました。私は新しいことに取り組むのが好きなので、求めるサービスへと開発を進めてもらうためにも、トライアルをやってみようと思いました」と小林氏は当時のやりとりを振り返る。

それから約1年間、BIPROGYと小林氏とのやりとりは続いた。最新バージョンをトライアルし、要望をフィードバックして改善するという形だ。小林氏は、「要望をしっかり取り入れてくれたので、実務でもExcelを利用することから徐々にRe:lvisを利用することにシフトしていきました」と語る。23年末には導入を決定。「JEPXのシステムが変わったことも導入を後押しする要因になりました。BIPROGYが変更内容を確実に把握し、対応を理解していたことが大きかったです。JEPXのシステムともシステム連携しており、作業の効率化にもつながりました」と小林氏は言い、JEPXが提供する非化石価値取引システムとのシステム連携機能が決め手になったことを強調した。
業務の効率化だけでなく事業価値向上にも貢献
「Re:lvisを本格的に使い始めたら大きな成果が出ました。工数は従来の10分の1になりました。調達のプロセスを上長がWebで確認できるので、何千万円という入札でも従業員に安心して任せられるようになり、責任の所在も明確になりました」と小林氏は語る。
今後は営業上の効果も見込める。従来の仕組みでは手続きの確実性を優先しなければならず、営業を積極的に進められない状況だったが、調達や割り当てのシステム上の課題がなくなったことで、安心して顧客に非化石証書の活用を案内できるようになった。「価格だけではなく付加価値もわれわれの武器になりました」(小林氏)
同社の業績は順調に推移しており、現在契約数は6000を超え、非化石証書の割り当て件数は約400件になる。それでも作業負荷はほとんど変わらない。同社ではオリジナルの「CO2フリー証書」を作成して契約先に提供し、非化石証書の活用を後押しする工夫を取り入れている。

「現在は固定価格買取制度(FIT)の非化石証書だけを扱っていますが、今後カテゴリーを拡大していく予定です。調達プロセスはますます複雑になりますが、Re:lvisがあるので対応できます。顧客にさまざまな価値を提供することで、当社の事業価値を高めます。BIPROGYはそのためのパートナーです」と小林氏はBIPROGYへの期待を語った。

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