日本ユニシスグループのR&D拠点である「日本ユニシス総合技術研究所」の研究活動成果を一堂に集めて紹介する「R&D見本市 メディア向けプレビュー」が2018年2月2日に開催された。AI(人工知能)、IoT、自動車の交通制御システム、量子コンピュータなどの先端領域における研究成果やこれからの取り組みを研究者自身が紹介。地域や社会の課題を科学的に解決し、人間の総合的な活動を支援することを目指す日本ユニシスの理念と共に未来を見つめる一日となった。
ゼロベースで構想を描く力を追求
11の研究テーマを一堂に集め紹介
日本ユニシス総合技術研究所
所長
羽田昭裕
R&D見本市の開幕にあたりスピーチした総合技術研究所所長の羽田昭裕は、「今の研究には『少し困ったこと』が起こっています」と切り出した。
総合技術研究所が開設された2006年から現在までの12年間にもデータベースやOS、ユーザーインタフェースなど大きな変化が起こったが、それらはすべて同じコンピュータサイエンスを基礎とする技術であり、共通の知見に基づいた設計とマネジメントを行うことで、狙いとするものを開発することができる。
一方、同じ時期に進化した、昨今注目されている機械学習や深層学習といったAI技術、量子計算などは、ここを押さえればうまくいくという勘所が確立されていない。こうした技術がどんどん増えるとともに、時代をリードするようになった。
「どうすればよりよい成果を出せるのか、作り出したものを多くの方々に使っていただけるのか、毎回ゼロベースで考えなくてはならない時代になっています。そこでは新しい知識をさらに深掘りしていく力と、将来に向けて構想を描いていく力が求められます」と羽田は説いた。まさにこれこそが今後の総合技術研究所が担っていくミッションなのだ。日本ユニシスグループはいうまでもなく、さまざまな教育機関、研究機関、民間企業、あるいはシンクタンクなどとも協働・連携しながら、その答えを探っていく構えだ。
日本ユニシス総合技術研究所
未来環境室長
今道正博
続いて登壇した総合技術研究所 未来環境室長の今道正博が、今回のR&D見本市の出展テーマのポイントを紹介した。
今回展示が行われたのは、「グリーンインフラと森林資源の活用」「地域動向シミュレーションで探る地域課題解決の糸口」「モデリングによるIoTシステムの安全性検証」「つながるシステムにおける事故原因の分析」「量子ソフトウェア検証技術」「複雑な質問に自然な日本語で答える」「創造活動支援システム」「ヒトはなぜ臭いものを食べるのか」「意匠測定データのリバースエンジニアリング」「未来環境ラボ」「地域課題解決の気づきを得るデータ分析」の計11のテーマだ。「総じて地域や社会の課題を科学的に解決することを目指したものです。単に既存の業務を技術で支援したり、代替したりというのではなく、コミュニケーションのあり方も含めて人間の総合的な活動を支援することに主眼を置いた、日本ユニシスの独自の取り組みをご覧いただければと思います」と今道は語った。
例えば未来環境ラボは、京都コンピュータ学院と日本ユニシス総合技術研究所が共同で開設したものだ。ここを拠点に両者の人材が相互に交流することで、将来求められる創造的なIT人材の育成を図るほか、多様な視点や技術を駆使した未来環境の実装を目指す。
サイエンスの視点から社会のさまざまな問題を解決
いくつかのテーマについて具体的な展示内容を紹介しておきたい。
まずは「グリーンインフラと森林資源の活用」だ。自然が有する多様な機能を活用するグリーンインフラには大きな期待が寄せられているものの、従来型のグレーインフラの概念と認識されてしまうと、グリーンインフラが有する機能の多面性が見逃されてしまいかねない。また、コンクリート構造物から構成されるグレーインフラと比べた場合の費用や便益の比較検証など、十分に整理されていない観点も多く、グリーンインフラが有する多様な機能を広範に活用するための体制などが整っている状況には至っていない。ブースではVR(仮想現実)を利用して森林機能をシミュレートおよび体感できるGAS(Green Assets Simulator)のプロトタイプを展示するなど、新たな定量評価手法が紹介された。
「つながるシステムにおける事故原因の分析」では、事故原因の特定に向けた新しい安全性解析手法STAMP/STPAが紹介された。以前からあるハザード分析手法と異なり、多くの構成要素からなるシステムでの事故原因の分析にも適用可能とするものだ。今後さらにこのSTAMP/STPAを拡張し、操作性を改善していくことで、ヒト・モノ・情報がつながる今後のシステムの安全性向上を目指すという。
「量子ソフトウェア検証技術」では、量子コンピュータ上で動作しているソフトウェアが正しく計算を行っているかどうかを検証する、すなわち量子プログラムの正当性を証明するフロイド・ホーア論理と呼ばれる技術が紹介された。これは、プログラムの基本構成要素の実行前後のプログラムの状態、具体的には取り扱うデータの状態とプログラムカウンタの位置の関係を定めるものだ。量子コンピュータの実用化のためにはソフトウェア開発におけるプログラム固有の問題に対処できる環境を整える必要があり、できる限り早期にこの技術を確立する必要があることを訴えた。
そして「意匠測定データのリバースエンジニアリング」では、自動車のデザイン過程で造形されたクレイモデルなどの測定データから、そのモデルがどのように作製されたのかをリバースエンジニアリングし、熟練の職人が行っている造形法をシステム上で再現する手法が紹介された。意匠デザインにおける職人モデラーの匠の技を駆使した造形には数値化が困難な“秩序”があり、これまでシステム化できていなかった。その領域にサイエンスで踏み込むことができれば、モノづくりの世界に新しい革新が起こる可能性がある。