2018年4月3日、日本ユニシスの100%子会社であるNULアクセシビリティの入社式が、徳島県立障がい者交流プラザで挙行された。入社したのは5人の障がい者。同社にとっては第1期生となる。多くの関係者が列席し、マスメディアも注目したこの入社式の日が、障がい者と共に働く社会に向けたメモリアルデーとなるかもしれない。
事業会社として「フルタイム雇用」を掲げる
障がい者の法定雇用率は、2018年4月から民間企業においては2.2%に変更になり、未達成の企業は障がい者の雇用を推進する必要がある。NULアクセシビリティの設立もこうした障がい者雇用に対する取り組みの1つである。しかし、2つの点で他のケースと大きく異なることは特筆すべきだろう。
NULアクセシビリティ株式会社
代表取締役社長
寺嶋文之
1つは、事業会社として位置づけていること。NULアクセシビリティも特例子会社の申請を予定しているが、特例子会社に多い社内業務支援ではなく、Webアクセシビリティ検査という専門スキルが求められる業務をメインに据えた。NULアクセシビリティ代表取締役社長の寺嶋文之は「あえて事業会社という形態をとったのは、ビジネスとして成り立たせることが障がい者雇用を継続させることになるからです。そのためにも仕事の品質を追求していきたい」と意気込みを語る。
2つ目は、完全在宅勤務によるフルタイムの就業形態をとったことだ。「障害者雇用促進法」では労働時間が週30時間未満であっても常用雇用していれば障がい者雇用の対象になる。そのために多くはアルバイトという形態であり、働く時間が限られ、収入も限定される。
しかし、当初契約社員という形にせよ、同社ではフルタイムで働くことができ、社会保険も適用される。しかも、完全在宅勤務や就業規則に特別な配慮を取り入れたことで、毎日の通勤が難しく長時間継続して働くことができない障がい者にも働く機会を提供できる。
Webアクセシビリティ検査という専門スキルを生かしたビジネスをメインに据えた事業会社であり、フルタイムの在宅勤務という就業形態をとる同社の船出は、障がい者と共に働く社会の試金石として大きな意味を持っているのである。
「Webアクセシビリティ検査」を障がい者の仕事に
同社の入社式は多くの関係者が見守る中で行われた。来賓として鳴門市長の泉理彦氏と、徳島県議会議員の高井美穂氏が祝辞を述べ、日本ユニシスの代表取締役専務執行役員、向井丞が「グループの一員として歓迎したい」と話し、リオデジャネイロ五輪の金メダリストで「タカマツ」の愛称で知られる実業団バドミントン部の髙橋礼華、松友美佐紀両選手からのビデオメッセージが披露された。
(写真左から)鳴門市長 泉みちひこ氏、徳島県議会議員 高井美穂氏、
日本ユニシス実業団バドミントン部 髙橋礼華、松友美佐紀両選手のビデオメッセージ
とりわけこの日を熱い想いで迎えていたのが、インフォ・クリエイツ代表取締役社長の加藤均氏とJCIテレワーカーズ・ネットワーク理事長の猪子和幸氏だ。インフォ・クリエイツはWebアクセシビリティ検査事業を手がけるインターネット関連企業であり、JCIテレワーカーズ・ネットワークは徳島県に活動拠点を持つテレワークによる障がい者の雇用を支援する特定非営利活動法人である。
株式会社インフォ・クリエイツ代表取締役社長の加藤均氏(写真左)と、
特定非営利活動法人JCIテレワーカーズ・ネットワーク理事長の猪子和幸氏(写真右)
加藤氏と猪子氏は8年前に知り合い、Webアクセシビリティ検査の仕事で障がい者の自立を促すことに、二人三脚で取り組んできた。今回のNULアクセシビリティの設立は、障がい者雇用を考える日本ユニシスの経営企画部 参与の田制貴俊が以前からリレーションを持つ金融機関への打診を通して、インフォ・クリエイツの紹介を受け、加藤氏に相談。猪子氏を紹介されたことから始まった。今回入社した5人の障がい者はJCIテレワーカーズ・ネットワークの会員である。
Webアクセシビリティ検査とは、Webで提供される情報が差別なく取得できるような配慮が施されていることを専門の検査員の手によってチェックするものだ。国際規格もあり、日本でもJISのガイドラインが公示されている。
加藤氏は「検査でツールがカバーできるのは全体の1割以下。残りは視認が必要で、これからも人間がやらなければならない仕事です。パーツごとに分担して進めることができるので、短時間に高い集中力を発揮できる障がい者にも向いています」と話す。
働きたいという想いに応えられる企業を目指す
フルタイムで働けるという機会は障がい者にとっては願ってもないチャンスだった。新入社員となる5人を日本ユニシス代表取締役専務執行役員の向井丞と人事部長の宮下尚と引き合わせる際に、加藤氏は「名札をつけておいてください」と猪子氏に頼んだ。すると彼らは看板のような大きな名札を首からぶら下げてきたという。それは「障がい者を雇用して働かせてほしい」という猪子氏の気持ちと、5人の「働きたい」という気持ちの大きさだった。加藤氏はそれをその場で気づくことができなかったことを後悔したという。
こうした想いは辞令を受け取った新入社員のスピーチにも表れていた。高校卒業後に就職したものの原因不明の難病で下半身の自由を奪われた三輪貴実子さんは「完全在宅勤務での就職は、これまでに想像もしなかった素晴らしい明日を開いてくれました」と話す。
知的障害がありながら、キーボード操作関連のアクセシビリティ検査を得意とする三木陽介さんは「もっと経験を積んでいろいろな検査ができるようになりたい」と抱負を語った。
しかし、今回の会社設立はステップの1つにすぎない。ゴールはまだこの先にある。ビジネスという側面からは、障がい者だからという会社側の事情は通用しない。どこまで高い品質のサービスを提供できるかが鍵となる。
高校の教員を引退したあと、19年にわたって障がい者の就業支援を続けてきた猪子氏は「アルバイトのような就業時間が限られた仕事ではなく、フルタイムで働ける在宅雇用は全国でも初めて。これがうまくいけば同様の取り組みが増えて、全国の障がい者の将来を切り開くことにもつながります。それだけに責任は重大です」と語る。
ICTを利用した在宅勤務を採用し、事業会社として活動することで継続的に障がい者の社会貢献を支援しようというこのチャレンジが、障がい者雇用の門戸をさらに広げることになると期待するとともに、官公庁・自治体や民間企業のWebページのWeb アクセシビリティ対応が加速し、利用環境や身体の制約に関係なく誰もが利用できるWebページが当たり前な社会となることを願いたい。