
鳥取県企業とBIPROGYが伴走!「とっとりメジャーリーグ」が生み出す共創価値
“副業・兼業の聖地とっとり”で創出される新たな地域活性化のあり方

地方から大都市への人口流出という問題が年々深刻化する中、鳥取県ではその解決に向けた新たな取り組みが始まっている。都市部の人材が副業・兼業の形で県内企業の経営に参画し、地域の持続的成長を目指していくプログラム「とっとりメジャーリーグ」が、2024年に初開催された。本プログラムでは、県内企業と都市部からの参加チームがドラフト会議形式でマッチングし、共に経営課題解決や事業拡大を狙う。ここに参加したBIPROGYは、鳥取市を拠点に教育関連事業を手掛けるイッポラボとのマッチングが成立し、約半年にわたって同社と伴走。具体的な成果の1つとして、小学生の親子を対象にしたバドミントンイベントを開催し、大きな手ごたえを得た。今回は、イッポラボ代表の田中大一氏を迎え、BIPROGY香山未帆と木村瑞貴に、2社の共創のあり方や今後の展望について話を聞いた(写真:バドミントンイベント後に撮影)。
プロ野球さながらのドラフト会議で都市部チームと地元企業をマッチング
――「とっとりメジャーリーグ」の概要について教えてください。
香山「とっとりメジャーリーグ」は、鳥取県、とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点、および一般財団法人INSPIREが手掛ける副業・兼業アクセラレータープログラムです。副業や兼業、プロボノ(専門知識を生かした無償の社会貢献活動)に力を入れたい都市部の企業・団体や大学からの有志チームがエントリーし、鳥取県内企業が魅力に感じたチームをドラフト会議形式で指名することでマッチングが成立します。マッチング後は、両者が3カ月間協働して価値創出を目指します。
BIPROGYは本プログラムの主催者であり、過去に地方創生に関するイベントでつながりのあったINSPIRE代表の谷中修吾さんにお声がけいただきました。当社は以前より地域の課題解決に取り組んでいることもあり、これまで培ってきた知見が生かせるのではないかと思い、参加を決めました。

BX室 香山未帆
田中人口が少ない鳥取県では、県外人材を積極的に活用しようという動きが活発です。2023年までは私自身も県立鳥取ハローワーク内の「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」という組織で、都市部の人材と県内企業をマッチングする活動を行っていました。実際にマッチングする件数も数多く、「副業兼業の聖地とっとり」というキャッチコピーが生まれるほど、県外人材活用の動きは広く浸透しています。

代表 田中大一氏
――BIPROGYは、どのような意義を感じてこのプロジェクトに参加したのでしょうか。
木村BIPROGYのメンバーは、中国支店長の藤原、広報部の塚越、香山、グループマーケティング部に所属する私の4名です。私は鳥取県出身で、それを知る塚越に声をかけてもらいました。自分の地元に関わり、貢献し得るプロジェクトというだけで心が動かされましたし、普段はスタートアップとの事業連携を推進しており、地域の課題解決に実務の経験も生かせると思い、即決しました。

オープンイノベーション推進室 木村瑞貴
香山私は昨年までBIPROGYのバドミントンチームに所属し、選手として活動をしていたので会社員としてはまだ1年目です。新しいことにどんどんチャレンジしたいと考えていたので、良い機会だと思い、参加を決めました。
――イッポラボはどのような事業を展開されているのでしょうか。
田中弊社は、「自信が持てる子どもを育成する」をミッションとして、主に3つの事業を行っています。木製の玩具やカード教材の製作・販売を行うプロダクト事業、リアルとオンラインで子ども向けの運動授業を行う運動スポーツ事業、そして社会課題に関心のある学生や教育関係者を対象にしたインドやフランスでの海外スタディプログラムです。売り上げの一部を使って、開発途上国の子どもたちに筆記用具を無償で提供する国際協力活動も行っています。
――ドラフト会議でBIPROGYとマッチングした経緯を教えてください。
田中都市部の10チームからエントリーがあり、弊社を含めた鳥取県内の企業10社が、それぞれ希望する都市部側1チームを指名する形式でした。プロ野球のドラフト会議と同様に、複数の県内企業が同じ都市部チームを指名した場合には、くじ引きで決定します。幸運にも、他社と指名が被ることなく、BIPROGY側もイッポラボと組みたいとのご意向であったことから私たちイッポラボとBIPROGYは“相思相愛”でマッチングしました。
BIPROGYを指名した理由は、手掛ける事業内容や企業の規模に魅力を感じたのはもちろんですが、一番の決め手は、メンバーに事業のターゲット層として考えていたお子さんを持つ女性が参画していたことです。当時は、子ども向けのオンラインレッスンのスキームを生かして、大人向けの運動や英会話のプログラムを展開していきたいと考えていました。事業に関するアドバイスだけでなく、ユーザー目線のリアルな意見も伺えるのは大きなポイントでした。
「とっとりメジャーリーグ」ドラフト会議の様子

BIPROGYのアセットを生かしてプロジェクトを推進
――マッチング成立を経て、どのように取り組みを進めていったのでしょうか。
香山2024年7月のドラフト会議でマッチングし、9月から協業がスタートしました。週1回、1時間のオンラインミーティングを通して、イッポラボが抱える経営課題について意見交換を繰り返し、BIPROGYのアセットを生かした3つの取り組みを進めていきました。1つ目は中長期ビジョンの検討、2つ目はオンラインレッスンのブラッシュアップ、3つ目はリアルイベントの開催によるオンラインレッスンとのシナジー効果の検証です。
木村1つ目の中長期ビジョンの検討については、鳥取県に拠点のある企業という点の大切さについて議論を重ねました。当初、イッポラボは県外に拠点を移して事業を拡大することを視野に入れていたのですが、それでは競合も増えてしまいます。第三者の視点から、鳥取県発の企業というユニークネスが企業価値につながるという考えをお伝えしました。
また、イッポラボがオンラインで行う運動授業は1回あたり子ども2~3名の少人数が中心でしたが、人数の拡大を検討されていたので、2つ目のオンラインレッスンのブラッシュアップも支援しました。実証実験としてBIPROGYの社員にも協力を募り、15人ほどが参加するオンラインレッスンを2回行いました。ここでは、1人の講師が、少人数で実施するときと同様に生徒全員のポーズや動きを確認し、あえて子ども向けと同様な声掛けをしながら円滑にコミュニケーションを取れるかどうかを検証しました。期せずして子ども向けの接し方が場を和ませ、従業員に好評だったため、従業員向けプログラムとして展開できないかという気づきがありました。
その後、それらを検証するため、社内公募でBIPROGYグループ社員を対象としたオンラインレッスンを追加で3カ月実施してもらうことにしました。従業員向けのプログラムとするためには納得感のある導入プロセスを経た方が良いと感じ、人事部の健康経営担当と連携して社員のウェルビーイングを目的とするプログラムに位置付けるなど、組織を超えた連携にもつながりました。日頃の業務でスタートアップを含め、さまざまな企業、パートナーと連携している経験が、このようなピボットやスピード感のある動きにつながったのではないかと感じています。
香山3つ目のリアルイベントの開催によるオンラインレッスンとのシナジー効果の検証に向けて実現したのが、「親子でエンジョイ! ファミリーバドミントン」です。イベントの運営はイッポラボが担当し、バドミントン選手としての経験則なども交えつつ、プログラムはBIPROGY側で検討しました。
小学生の親子を対象にバドミントン体験イベントを開催
元選手から基礎を学び、トップレベルの技を間近で体感!
2025年3月20日、米子市の皆生(かいけ)市民プール横トレーニングホールで「親子でエンジョイ! ファミリーバドミントン」が開催されました。香山未帆さんと日本代表経験のある上田拓馬さん(BIPROGYバドミントンチーム元選手、現社員)がコーチを務め、25家族(約40名)の親子が参加。憧れの選手を前にして緊張した面持ちの子どもたちでしたが、太鼓のリズムに合わせて楽しくウォーミングアップを始めると次第に笑顔に。

バドミントンタイムでは、正しいラケットの握り方や打ち方などの基礎を学び、床に落ちたシャトルをラケットですくい上げる“格好良い小技”にもチャレンジ。最初はうまくできなかった子も、香山さんに「ラケットの横をうまく使ってみて」と直接アドバイスをもらうと大成功! はにかみながらハイタッチを交わして喜んでいました。

コーチと直接ラリーができるチャレンジタイムが始まると、会場のボルテージは一気にアップ。コートの前後を広く使う上田さんのショットに食らいつく子や香山さんを相手に力強い長打のラリーを見せる子に、周りからは声援が沸き起こっていました。イベント終盤では、コーチ同士でスピード感あふれる本気のラリーも披露。威力のあるスマッシュやフェイントへの対応力など、気迫あふれるプレーはまさに圧巻。コートをぐるりと囲んで見守る子どもたちは、その光景に目を輝かせていました。

トークショーでは、上田さんと香山さんがバドミントンを始めたきっかけやトップ選手時代の喜びや苦悩、そしてバドミントン競技の魅力について語りました。時間いっぱいになるまで質問も飛び交い、最後の写真撮影では子どもたち全員が充実の笑顔を見せていました。


――BIPROGYとの共創を通して、どのような手応えを感じましたか?
田中まず、企業として進むべき道が明確になりました。マッチング前は、会員数が肝となるオンライン事業を手掛ける中で、子どもが少ない鳥取県内で事業を続けることに不安を覚えることもありました。しかし、BIPROGYと意見を交わす中で、地元の企業だからこそできることがあり、鳥取県で起業したからには地域に貢献することに意義があると考え直しました。
何より、子どもたちにバドミントンを楽しんでもらえた今回のイベントは大成功でした。鳥取県の子どもたちにトップレベルの技を間近で見る機会を提供できたことは、1つの地域貢献につながったと感じています。ビジネスの観点から、参加者の7割が新規の方だったことも大きな成果でした。魅力あるリアルイベント参加がイッポラボとの接点となり、オンラインレッスンの入会を検討するきっかけになればうれしいです。
BIPROGY Illuminating Tottori’s Potential

BBT大学 教授/INSPIRE 代表理事
谷中修吾氏
鳥取県の週1副社長プロジェクト「とっとりメジャーリーグ」は、副業・兼業・プロボノに強い意欲を持つ企業・団体の皆様が、3カ月にわたって週1で鳥取県内企業の事業成長を支援するプログラムです。2024年度に第1期を開催しました。
ソーシャルマインドに溢れる企業・団体の参画が切望される中、主催チームを構成するINSPIREの私(BBT大学〔編注:BBT(ビジネス・ブレークスルー)大学:通信制で経営学士が取得できる大学〕 教授)は、主催招待枠でBIPROGYさまに参画を懇願しました。
なぜならば、これまで数々の協業機会をいただく中で、BIPROGYさまが社会のエコシステムの創出に対して本気で取り組んでいる姿勢を体感していたからです。
結果、BIPROGYさまは、鳥取県から世界に向けて教育事業に取り組むイッポラボさまとの協業に至り、わずか3カ月で事業を飛躍させる機会を創出されました。快挙です。今、BIPROGYさまは、鳥取において“可能性を照らす光”になっています。
この物語は終わらない。鳥取をもっと輝かせるために。
「とっとりメジャーリーグ」のコミュニティを活用し、さらなる成長を目指す
――「とっとりメジャーリーグ」への参加を通じて、どのような成果を感じていますか。
木村BIPROGYは10年先の未来に向けて進む方向性として「Vision2030」を掲げ、さまざまな企業や地域との共創によって社会的価値を創出していきたいと考えています。「とっとりメジャーリーグ」では、都市部の10チームと鳥取県内の企業10社、ジャンルも規模も多様な合計20社の新たなコミュニティができました。2024年12月に成果発表会と懇親会があり、参加企業の皆さんと親睦を深めたことでさらに“仲間意識”も芽生え始めています。今後、コミュニティ内で生まれる新たな共創の可能性にも期待しています。
香山より多くの企業と共創を進めるには、企業としての認知度も重要です。「とっとりメジャーリーグ」への参加、そして今回のようなイベントを開催できたことは、BIPROGYを知ってもらう良い機会になったと感じています。また、今回イッポラボの国際協力活動を通じて、BIPROGYのバドミントンチームからインドの子どもたちにバドミントンのラケットを数本寄贈しました。イッポラボのフットワークの軽さゆえに国際協力につながる活動ができたことに感謝しています。

――イッポラボの今後の展望を教えてください。
田中まずは、リモートワーカーに向けた運動のオンラインレッスンを展開していきます。BIPROGY社員を対象にした実証実験で、社会人向けのレッスンも面白いという新たな気づきがありました。省スペースで体を動かすレッスンであれば、運動不足になりがちなリモートワーカーの需要は高いと見込んでいます。
また、子ども向けのリアルイベントも定期的に開催していきたいです。今回のイベントでは、「たった1回の経験が子どもの人生を変える」ということを改めて実感しました。国内トップレベルの選手と出会うことで、子どもたちは「バドミントンをもっと頑張ろう」「こんな選手を目指したい」と感じたと思うんです。より多くの子どもに価値のある体験を提供すべく、鳥取県内の各地でも開催したいです。ぜひ今後も、BIPROGYと一緒にイベントを継続していきたいと考えています。

――最後に、鳥取県の魅力について教えてください。
香山初めて鳥取県に来た時は、美味しい海鮮がリーズナブルに食べられることに驚きました。今回のイベント会場が米子市の皆生温泉の近くなのですが、温泉も、参加してくれた子どもたちの笑顔も素敵でした。来る度に魅力が感じられる県です。
木村何事もポジティブに変えるのがうまい県だと思います。例えば、全国で人口が最下位ということは、県内では“ネタ”のように話しますし、2013年頃までは「スターバックスがない唯一の県」だったことから、「すなば珈琲」というコーヒーチェーンが誕生しています(笑)。人口の少なさを逆手に取って、県外人材の活用を進めている所も鳥取県らしいと感じています。
田中鳥取県は人口少ない分、一人ひとりの行動によるインパクトが大きいとされます。実際、私が鳥取県にUターンして起業した時は、県内の多くのメディアに取材していただきました。一人の役割が大きい分、やりがいを感じられる環境だと思っています。これからも鳥取県発の企業として、事業成長と地域貢献を図っていきたいです。