福島県喜多方市でブロックチェーン技術を活用した「キマ☆チケ」の実証実験が行われている。消費者はスマホアプリを使って電子チケット(以降、電子バウチャーと称す)を前払いで購入し、加盟店でキャッシュレス決済ができる。地元企業と会津大学、日本ユニシスグループのコラボレーションで実現した取り組みである。今後の本格運用に向けて、新しいビジネスのアイデアが議論されている。日本ユニシスグループはこうした仕組みをさまざまな経済圏に横展開することを検討している。
電子バウチャーで決済だけでなく
コミュニケーションを促進する機能も
2018年10月から11月にかけて、福島県喜多方市でブロックチェーン技術を用いた電子バウチャー販売の実証実験が実施されている。
この実証実験は、会津大学の協力の下、異業種の地元企業5社の経営者により設立された会津喜多方グローバル倶楽部と日本ユニシスグループの協業により実現したプロジェクトで、今回開発した「キマ☆チケ」というアプリを参加者がスマホにインストールすることで、前払いで購入した電子バウチャーを使って買い物などができる。
会津喜多方グローバル倶楽部は、2014年に地元の名産や商品を海外に発信しようという思いからスタートした。「会津で作ったものが、地元の人たちや国内観光客だけでなく、インバウンドの旅行者にも広がっていけばと思っています」と同クラブのメンバーである「星醸造」の星龍弥氏は語る。
プロジェクトで重要な役割を担う会津大学 産学イノベーションセンター 准教授の藤井靖史氏は、サービスの特徴についてこう説明する。
「商品決済の手段はいろいろありますが、キマ☆チケにはお金をやり取りするだけでなく、地域事業者の連携やコミュニケーションを促進する機能もあります。ブロックチェーン技術を使ってこのような仕組みをつくったのは、日本で初めてだと思います」
実証実験には喜多方名物のラーメン店、酒屋、お菓子屋などさまざまな店舗が参加した。参加店舗が連携しおのおのがラーメンやソフトクリームなどの電子バウチャーを発行し、周遊セット商品として販売する。電子バウチャーで支払うときには、消費者がスマホアプリを開いて店側が提示するQRコードを読み取る。
今回は、ある店主の「スマイル 0円」という電子バウチャーも登場した。0円のものをやり取りする中で、店と消費者のコミュニケーションが生まれる。
また、電子バウチャーを誰かにあげることもできる。このような機能が、消費者同士のコミュニケーションに役立つ。
店と消費者、消費者と消費者だけでなく、「店と店とのつながりも意識しています」と日本ユニシスのTechマーケ&デザイン企画本部 クロスTech企画部 チーフスペシャリストの牧野友紀は語る。地域の加盟店が増えれば、相互誘客のシナリオが増え、キマ☆チケ経済圏の厚みも増す。地域の活性化にもつながるだろう。
ビジネスエコシステムのパートナー同士が議論しながら
アジャイル開発のプロセスを進行
今回の実証実験の結果を踏まえて、会津喜多方グローバル倶楽部と日本ユニシスグループはキマ☆チケの機能拡張や改善を進める考えだ。
藤井氏はログ解析の可能性にも期待しているという。
「電子バウチャーの流れを可視化すれば、地域経済の動向を鮮明に映し出せるでしょう。電子バウチャーのやり取りを通じて、ソーシャルグラフを描くこともできます。ある程度の規模で可視化できるようになれば、その結果は行政の施策にも生かすことができると思います」(藤井氏)
日本ユニシスグループは、キマ☆チケの実証実験で得た知見を他の地域や集団に広げることを検討している。電子バウチャーを他の都市で展開することも可能で、スポーツやアニメなどの興味・関心でつながる人たちの経済圏を支えるプラットフォームとしても提供することができる。
「将来的には、経済圏と経済圏がつながり始めるでしょう。そんな環境づくりをサポートしていきたいと考えています」と牧野は語る。
一方、会津喜多方グローバル倶楽部としては、まずキマ☆チケの実運用を視野に足元を固めようと考えている。
「最初は同じ思いを共有できる仲間を増やしていきたい。運用が始まって『面白いね』という声が上がれば、小さな街なのですぐに評判は広がっていくと思います。今後は、ピーナツやアスパラといった地元の名産の収穫体験サービスなども電子バウチャーで販売したいですね」と、会津喜多方グローバル倶楽部メンバーである豆菓子販売店「おくや」代表取締役の松﨑健太郎氏は話す。
また、同じく会津喜多方グローバル倶楽部メンバーで情報処理システム運用会社「ヤマダソリューション」代表取締役の山田貴司氏はこう語る。
「私は地域全体をアミューズメントショッピングモールのようなものと捉えています。キマ☆チケの加盟店は、モールのテナントです。一軒一軒が魅力を磨き、互いに協力し合いながら喜多方の価値を高めていく。そんな取り組みを続けていきたいと思っています」
福島県喜多方市で始まったチャレンジ。小さな第一歩かもしれないが、ブロックチェーン技術の将来を考える上で、プロジェクトの歩む道のりには多くのヒントが埋もれているはずだ。
【関連書籍紹介】ハウツー本とは一味違う知見を満載した書籍を出版
日本ユニシスの技術者が執筆した『ブロックチェーン システム設計』(リックテレコム発行)が、2018年7月に出版された。著者の1人である中村誠吾はその特徴を次のように説明する。
「ブロックチェーンの構築、導入に関する技術的なハウツー本はすでに多くあります。ただ、ブロックチェーンの基盤は、パブリッククラウドのサービスで担えるような環境が整いつつあります。これから重要になるのはブロックチェーン上のアプリケーション開発、あるいは既存システムとの連携などでしょう。この本は、そこを強く意識して執筆しました」
日本ユニシスグループがブロックチェーンに取り組み始めたのは2015年度から。その後、体制を強化して、2018年度には専門部署を立ち上げた。中村が課長を務めるブロックチェーン技術課である。同課はキマ☆チケのみならず、ブロックチェーン関係のさまざまな実証実験に深く関わっている。ブロックチェーンのビジネス適用の動きはますます加速している。