日本ユニシスは、経済産業省と日本健康会議が共同で選出する「健康経営優良法人~ホワイト500~」に2017年、2018年と2年連続で認定されている。しかし、健康経営の本質はなかなか理解しづらい部分もある。健康経営にはどんな意味があり、日本ユニシスとしてどんなスタンスで臨み、どんな成果が期待されているのだろうか。
従業員が健康で働くことで企業価値が高まる
日本ユニシス株式会社
人事部長
宮下 尚
最近、健康経営を標榜する企業は増えているが、日本ユニシスでは他社に先駆けて健康経営に取り組んできた。人事部長の宮下尚は「体調がよくなければ生産性が低下して、本人にとっても企業にとっても好ましくありません。従業員が健康で元気に働くことが、企業としての価値を高めることになるのです」と話す。
健康経営への本格的な取り組みは2016年4月から動き出した。「日本ユニシスグループ健康経営宣言」で、会社と健康保険組合が一体となって従業員の健康増進をバックアップすることを意思表明し、総責任者であるCHO(Chief Health Officer)に日本ユニシス代表取締役社長の平岡昭良が就任し、全社を挙げて健康増進活動の強化に乗り出した。
基本的な活動方針として、生活習慣病予防とメンタルヘルス対策をテーマに掲げ、オープンイノベーションの取り組みを活用していくとし、社内の事業部門や協業している健康関連のスタートアップ企業との連動も視野に入れている。「IT企業として特色のある取り組みを実施したい」と宮下は意気込みを語る。
具体的な活動を決めるために社内で実施したアンケートからは、「首や肩のコリ」「目の不調」「ストレス感」といった不快な症状や睡眠不足に悩まされている従業員が多いことが分かった。こうした症状を改善し、元気に働けるようにすることが健康経営の狙いだ。
ベンチャー企業と協業した腰痛対策のトライアル
一般的にIT関連の職種に就いている人はストレスを抱え込みやすいといわれる。そこで日本ユニシスではIT企業としてメンタルヘルスに力を入れてきた。健康診断を毎年実施するだけでなく、残業時間も他社より低く抑え、2014年からは本社内の診療所に常勤する2人の産業医のうち1人は精神科医を選任している。
日本ユニシス株式会社
人事部 労務管理室長
奥田 浩樹
「経済産業省の健康経営優良法人の認定でも、ストレスチェックの受診率の高さや診療所に精神科医を常駐させているといったメンタルヘルスの取り組みが評価されました」と人事部労務管理室長の奥田浩樹は話す。
さらに昨年10月からは腰痛対策アプリ「ポケットセラピスト」のトライアルも開始した。同アプリは京大発ベンチャーであるバックテックが開発したものだ。創業者の福谷直人氏は腰痛の研究者である。
腰痛は健康寿命への影響が一番大きいといわれ、社内アンケートでも腰痛で悩まされている人が約3割に上っていた。「アンケート結果を受けて腰痛対策を考えていたときに、グループ会社のキャナルベンチャーズからバックテック社を紹介されて、トライアル導入することにしました」と日本ユニシス人事部労務管理室担当課長の橋本和昭は語る。
日本ユニシス株式会社
人事部 労務管理室
担当課長
橋本和昭
トライアル参加者は社内から公募し、アプリの効果を測定するために、参加者97人を任意の2グループに分けて、2カ月ずつ利用してもらうことにした。アプリの質問に回答すると、腰痛のタイプを判定してくれて、それに合わせたセルフ対策方法が提供され、同時に専門家によるチャット相談が行われる。
「最初のグループでは総計で二千数百回のチャットのやりとりがあり、統計学的に腰痛の痛みの減少、ストレスの低減、睡眠の質の向上が確認できました。また飲酒が減ったとか、運動が増えたというデータもあり、専門家のアドバイスを受けることで、腰痛に対する考え方や生活習慣が変わり、よい結果につながったようです」と橋本は評価する。バックテックでは1人当たり月に1万9200円分の労働生産性が向上したと試算している。
風土を変えるためにあらゆることを試してみたい
健康経営とは働き方改革であり、一種の風土改革でもある。宮下は「参加型の健康セミナーなども、会社として実施することでハードルが下がります。‘Foresight in sight™’活動(新しい価値創出や風土改革の活動)の一環として、自主的にラジオ体操を取り入れる職場も出てくるなど、確実に社員の意識も変わってきています。ポイントは、会社生活を社会生活として取り組むことです」と語る。
2017年12月には役員・社員を対象に「健康マイポータル」の提供を始めた。ひと駅手前で電車を降りて歩く、間食を控えるなど各自が選択する生活習慣改善への取り組みや毎日の歩数を記録すると、それに応じてポイントが与えられ、たまったポイントは1万点以上の商品の中から好きなものを選んで交換できる。現在、同ポータルにはグループ社員の3割弱に当たる約2000人が登録しており、少しずつだが生活習慣の改善が進んでいる。
また、健康増進のためのイベントも実施されている。例えば、日本ユニシス実業団バドミントン部とのコラボによる運動不足を解消するイベントが有明スポーツセンターで行われ、数十人が参加している。
「これまでいろいろと試行錯誤でやってきましたが、今後は結果を出していきたい」と奥田は意欲を見せる。高ストレス者を減らし、生活習慣病を防ぐために、定期健診後の再検査率の向上やストレスチェックの後のカウンセリングの促進など事後対策にも力を入れていく構えだ。
宮下は「思いついたらやってみようというスタンスが大事」と指摘する。健康増進は成果が出るまでに時間がかかるだけに、あらゆる機会で浸透させて、意識、風土を変えていくことが重要になる。今後どんな取り組みが出てくるのか楽しみである。
- ※「健康経営®」は特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。