2018年12月12日、熊本大学の黒髪南キャンパスで熊本県合志市、熊本大学、ルネサンス、日本ユニシスによる4者連携に関する合意式が執り行われた。「健康都市こうし」を掲げる合志市の地域住民の健康増進と地域発展のために4者で連携していく。立場の異なる4者が連携して地域における健康データを活用した新しいビジネスモデルの確立に取り組むのは全国初の試みで、今後の展開が注目される。
それぞれの強みを生かし
共有した課題を解決する
今回の4者連携に関する合意の出発点となったのは、2018年4月26日の合志市と日本ユニシスとの包括連携協定の締結だ。相互の人的および知的資源などを活用して地域社会の発展に貢献するために、包括的な連携と協力関係を持つことを表明した。今回の4者連携はそこに熊本大学とルネサンスが加わる形で実現した。
熊本県の中北部にある合志市は人口約6万人。県内有数の穀倉地帯だが、熊本市に隣接し、ベッドタウンとして人口は増加傾向にある。2015年からは「健康都市こうし」を掲げ、健康増進に向けたさまざまな取り組みを行ってきたが、特定健診の受診率は低く、健康への関心を高めることが大きな課題となっていた。
この住民の健康意識の向上という課題を解決するためには、客観的なデータが大きな力になる。今回の合意式で合志市長の荒木義行氏は「健康に対する市民の理解を促すにはデータに基づくアプローチが欠かせません」と語る。この4者連携は、合志市が抱える課題に対して、大学と民間企業がそれぞれの強みを生かして貢献することを目指す。
熊本大学は、県内随一の総合大学であり、医学部、薬学部を設置し、附属病院もある。臨床や研究活動から得た成果を地域住民の健康増進に役立てることは、地域貢献を掲げる同大学の使命の1つだ。2018年5月には、老化・健康長寿研究を推進する「健康長寿代謝制御研究センター」を新設している。
ルネサンスは、1979年の創業以来、一貫して健康分野で事業を手がけ「スポーツクラブ ルネサンス」を日本全国約100カ所で展開し、介護施設も数多く運営する。これまで培ってきたノウハウを生かし、企業や地域の健康づくりも支援している。株式会社ルネサンス 代表取締役社長執行役員の吉田正昭氏は「合志市を元気にするために、ノウハウをすべて提供していきます」と意気込みを語る。
震災をきっかけに熊本で復興支援活動を精力的に展開する日本ユニシスは3者をつなぐ役割を担う。「日本ユニシスグループは、お客さまやパートナーを積極的につないでビジネスエコシステムを構築し、新しいサービスをつくり出してきました。今後もカタリスト(触媒)としての役割を果たしていきたい」と、日本ユニシス株式会社 執行役員の橋本博文は話す。
合意式であいさつした国立大学法人熊本大学 学長の原田信志氏は「これまでも本学の薬学部は合志市と連携して研究を進めており、日本ユニシスとは熊本市のベンチャー支援パートナーとして活動してきました。このたびルネサンスが加わることで、健康データを活用した教育・研究が実施できることになります。“健康都市こうし”実現を目指し、県民、国民の健康長寿の延伸が図れるような研究を推進していきます」と語り、4者連携を高く評価した。
健康づくりの拠点を設け
多角的にデータを収集
4者による具体的な活動は、合志市の健康づくりの施設運営から始まる。2019年秋には、ルネサンスが持つ健康促進、コミュニティー再生などのノウハウを活用して、市内に新たな健康づくりの拠点となる地域コミュニティーを設ける。そこで取得された健康データを熊本大学が分析し、健康づくりにつながるヒントをつかむ。そのデータを管理し、流通させるプラットフォームを提供するのが日本ユニシスの役割だ。
この取り組みで目指すのは、サービス事業者とビジネスエコシステムを形成することで、地域における健康データの利活用による新たな経済価値循環の成功モデルをつくり上げることだ。地域住民の運動記録や活動記録、健診データなどを熊本大学が解析し、どのようなデータが健康増進に役立つのかを明らかにするとともに、その研究成果をデータ提供者となる地域住民に還元することで、さらなる健康増進活動につなげていく。
熊本県合志市 総務部秘書政策課主幹の鷹巣孝之氏は、「ルネサンスが持つコミュニティーへの知見と熊本大学の研究成果を市民の健康づくりに生かしていきます。日本ユニシスにはシステム面でその取り組みを継続的に支えていただけたらと思います」と話す。目標は県内で下位に甘んじている特定健診の受診率で上位にランキングされることだ。
国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部教授の富澤一仁氏は、「健康増進に向けた取り組みはこれまでバラバラに進められてきました。今回のように4者が連携して地域の健康データを活用するのは全国でも初の試みです。その先駆けとして積極的に取り組んでいきたいと思います」と語る。合志市での活動で得たデータは健康長寿代謝制御研究センターの研究活動にも活用される予定だ。
また、株式会社ルネサンス 健康ソリューション部部長の熊坂克哉氏は、「コミュニティーづくりは成果が見えないと広がりません。今回は裏付けとなるデータが取れるようになるので大いに期待しています」と話し、4者を結び付けた日本ユニシス株式会社 流通ビジネスサービス本部ビジネス開発部長の木村宜史は、「人が集まり笑顔になることがスマートタウン戦略の本質。自己満足ではなく利用者にフォーカスを当てて取り組んでいきます」と語る。
4者による取り組みはまだ始まったばかりだ。合志市長の荒木氏は「合志市をフィールドに市民の健康づくりの研究を進めて地域の成功モデルをつくり、それを全国に広げていけたらと思います」と期待を寄せる。産学官でデータを共有して連携するという全国初の試みが、健康増進という地域の課題をどう解決できるのか。今後の展開が注目される。