IT戦略を進化させるクラウド時代のマネージドサービスの姿とは?
ユニアデックスとガートナーが語る、企業DXの現在地とこれから
企業にとってクラウドの利活用をはじめとしたDX推進が重要さを増す中、クラウドを含むITインフラの運用・管理を行う「マネージドサービス」にも進化が求められている。この流れを受け、BIPROGYグループの新たな中期経営計画では、コア事業戦略の重点施策の1つとしてサービス型ビジネスの拡大が位置付けられた。では、マネージドサービスは現在どのように進化しようとしているのだろうか。「BIPROGY FORUM 2024」(2024年6月6~7日、約2400人が来場)では、近年の企業環境の変化について造詣の深いガートナージャパンの中村拓郎氏をゲストに招き、ユニアデックスの中村智弘と栄田香織が「IT戦略を成功に導く、マネージドサービスの発展と深化」をテーマに意見を交わした。
クラウド利用の拡大で変化するユーザー企業のマネージドサービスへの要求
中村智弘(以下、中村(ユ))多くの企業にとって、DXの推進が喫緊の課題となる中、マネージドサービスには導入後の運用監視だけでなく、ユーザー企業からプラスアルファの価値が求められているように感じます。中村さんは、この背景にはどのようなビジネス環境の変化があるとお考えでしょうか。
中村拓郎(以下、中村(ガ))各企業のクラウドへの支出が増え、そこからどのようにベネフィットを最大化するかを検討した結果、IT戦略や戦略をつかさどる組織の在り方も変容しています。例えば、これまでITサービスは社内向けの利用がメインで、サービス利用にかけるコストをいかに抑制するかが大きな焦点となっていました。それが今は新たな価値創出に向けたイノベーション環境の確保と経営判断をスムーズにするアジリティ向上を支えるための存在へと変わってきています。こうした観点から、生み出すビジネス価値を高めるためにも、ITサービスを含めた各種の予算配分と総コストをいかに合理化するのかが企業にとっての重要な関心事となっています。
そして、クラウド利用の拡大とともにユーザー企業は自ら運用まで手がけるようになり、それを前提にソリューションの探し方も変わり始めています。このため、ユーザー企業のITサービス導入プロセスは、検討段階で自社に合ったサービスを選定し、PoCを行ってからシステムインテグレーター(以下、SIer)に委託する流れに変化しています。そこではプロバイダーの立ち振る舞いも変わってきます。ただ、日本ではユーザー企業がSIerにITサービスの一切を頼るといった傾向もまだ残っています。加えて、日本国内のIT市場は数社の寡占市場になりつつあり、特定のSIer頼りになりがちです。
中村(ユ)ユーザー企業の関心のポイントが変化していることは体感しています。これまではユーザー企業に寄り添い、提示要件にしっかり対応するというアプローチが主でした。しかし、現在はエンジニアリング力に加えて、お客さまのビジネスへの効果をいかに最大化できるのかが問われています。
栄田香織(以下、栄田)以前、ユーザー企業のシステム部門にいた頃は、エンドユーザー第一で製品を検討し、展開や運用のためのベンダーとの調整力が求められていました。しかし、クラウドの広がりとともにシステム部門の役割も変わってきていると私も感じます。
また、DX推進の一環としてデジタルワークプレイスが浸透し、一人ひとりが場所を選ばずに働けるようになってきたことも大きな要因ですね。しかし、デジタルツールが乱立している状況でもあります。ハードウェアやソフトウェアの導入工程がなくなるのがSaaSで、導入自体は簡単ですが、使いこなすのはまた別の話です。そこで当社の役割ではツール機能を調査することに力を入れています。例えば、調査を行うにしても既存システムとのデータ連携やセキュリティ、ネットワークの整備などを総合的に見る必要があります。当社にはその知見があり、あらかじめいくつかのPoCが用意されています。
マルチベンダー環境で培ったノウハウがユニアデックスの強みに
中村(ガ)最近では、「Cloud Service Brokerage(以下CSB ※1)」が改めて注目されています。2012年ごろに提唱されていた概念が再燃した形です。CSBによってクラウドを束ねるCenter of Excellence(※2)が確立できれば、複数のアプリケーションやサービスの集約、統一された環境の構築、固有要件の実現、リスクやギャップの評価が実施しやすくなります。
- ※1Cloud Service Brokerage(CSB):ITの役割とビジネス・モデルの1つ。企業またはその他の事業体が、1つまたは複数のクラウドサービスの利用者に代わって、アグリゲーション、インテグレーション、カスタマイズブローカーという3つの主要な役割を通じて、クラウドサービスに価値を付加するもの
- ※2Center of Excellence:組織横断的な取り組みを進めるために、優秀な人材やノウハウを1つの拠点に集約して組織化すること。CoEと略されることも多い
そこで論点になっているのが、「CSBを自前で運営するのか」「外部のマネージドサービスプロバイダーと連携して運営していくのか」という点です。自前で運営すれば機動的な判断ができてベネフィットを最大化できますが、運営を開始するまでの用意に時間がかかります。一方、外部と連携すれば時間をかけずにCSBが運営できるなどの恩恵を受けられますが、内部にノウハウやケイパビリティが蓄積されません。
中村(ユ)こうした点を踏まえ、当社でも今後、CSBをサービスに組み込み、拡充していきたいと考えています。従来、私たちが提供するマネージドサービスは業種ごとの課題に合わせた形で展開していました。これからはクラウドやデジタルワークプレイスといった、汎用性が高く、共通化できるサービスを広く展開し、その上で業種ごとの課題に即した形でサービスの対応可能領域を広げていこうとしています。
中村(ガ)共通化できる部分を外部のマネージドサービスプロバイダーに頼りたいと考えるユーザーは多いと思います。しかし、そこで問題になるのがコストです。昨今は為替の影響もあり、クラウドのライセンス料金やサポート料金は大きく値上がりしています。その結果、人件費を含むランニングコスト、Operating Expense(以下OPEX ※3)が増えています。企業にとってOPEXは“悪”であり、嫌がられる要素です。
- ※3OPEX:「Operating Expense」もしくは「Operating Expenditure」の略称。事業運営上継続して必要な費用の総称
これはクラウドの効用が、一般的に3段階で捉えられていることにも関係します。まずは短期的なコストの削減、次に支出内容を精査するパフォーマンスの最適化、最後は成長ドライバーとしてのビジネス価値最大化です。ただ、マネージドサービスプロバイダーは、コスト削減と最適化への要請に応えていく中で複雑な問題に直面します。それは、ユーザー企業のコストが減れば、マネージドサービスプロバイダーの売り上げが減ること。つまり、自社のビジネスの利益とユーザー企業への貢献がトレードオフの関係である点です。これにはどのように応えていくとお考えでしょうか。
クラウド活用に求められる3段階の効果
中村(ユ)確かに難しい課題の1つです。しかし、ビジネス価値の最大化はお客さまにとって最重要な命題。それに一歩ずつ確かに応え続けていくことが、これからのマネージドサービスが発揮すべき提供価値なのではないかと考えています。
栄田まず、1段階目のコスト削減には可視化が必要です。クラウドはハードウェアやソフトウェアが物理的に存在せず、利用期間の設定自由度が高く、事業部門が独自判断で導入することもあります。情報システム部門が全社展開しても、事業部門が使わないこともあります。こうした諸課題を乗り越えてコストを可視化するのは容易ではありません。
また、当社の場合、従来は安定稼働に向けてSLAや障害対応、IT運用を請け負い、システムが増えることでコストが増加することもありました。しかし、クラウドサービスの利用拡大によってマネージドサービスの価値は大きく変わり、そのメリットを最大化することが求められています。ただし、全てのシステムがクラウド上にあるわけではありません。クラウドとオンプレミスを掛け合わせて、いかに提供価値を高められるかが大切な視点です。
中村(ユ)重要なのは「一歩踏み込んだ」可視化です。誰がどのサービスを何に使っているのかを把握した上で能動的に提言し、コストマネジメントをリードすることが必要です。セキュリティとガバナンス、そしてコスト削減の面で価値提供が可能となるマネージドサービスを検討しています。
栄田当社は元々マルチベンダーで、サーバーの保守から運用までトータルで請け負ってきました。その強みを生かし、クラウドの運用とセキュリティを含めて総合的に提供できることが我々の強みだと考えています。
中村(ガ)経験上、コンサルティングサービスで最適化支援をする場合、コストの判断だけで3カ月かかる例もあります。例えば、割引率が高いサービスを導入しても、使わない時は利用を止めることなども必要です。ポイントは、「何にどれくらい使っているのか」「なぜ、どのように使っているのか」などをKPIで追跡できるかどうかです。PoCなどでどこまで踏み込むのかが難しいところですね。
パートナーとともにオープン性を高め、ビジネス価値を最大化
中村(ユ)大事なことは「何を起点に提案するのか」です。従来はアプリケーション、ミドルウェア、インフラがあり、インフラの中にネットワークがありました。クラウドサービスが主流となる現在は、SaaS、PaaS、IaaSという3つの価値提供の姿があり、そこでは高いセキュリティと、それに相反するオープン性が求められます。この点、セキュアな環境構築を旨としつつもお客さまの利便性に重点を置いてきた当社であれば、セキュリティを維持、強化しながら、同時にオープン性も高めることができます。今後、お客さまの困りごとを起点に、汎用性が高く水平展開しやすいサービスの拡充と、業種に特化した機能を着実に増やしていき、ビジネス課題に即した提案ができる仕組みをさらに充実させていきます。
中村(ガ)多くのユーザー企業は今、ビジネス価値の最大化にフォーカスしています。その上、コストの削減とパフォーマンスの最適化を両立しようとしています。この状況下では、ユーザー企業に対していわば“断捨離”を提案できるかも大きなポイントです。例えば、24時間365日のサポートは本当に必要なのか。その分コストを削減できる可能性もあるわけです。ユニアデックスが高い汎用性で共通化できる「水平のサービス」と、業種ごとに特化した「垂直のサービス」でユーザーに貢献することには価値があると思います。特にクラウドのコネクティビティを加速させるネットワークと、それを堅牢にするセキュリティは重要です。クラウドは社内に限定した価値ではなく、他社のクラウド上のシステムと連携してコンテンツを提供するといったオープン性でビジネス価値の最大化を加速させていくものだと考えるからです。
中村(ユ)オープン性の価値を生むことは、当社だけではできません。パートナーと一緒にやり遂げていくものです。その結果、ユーザー企業から喜ばれる存在になることを目指していきます。
栄田エンジニアにも同じことが言えます。これまではシステムごとのオーダーメイドだったためにエンジニアのリソース不足に陥ることもありました。しかし、共通化されたマネージドサービスであれば状況が大きく変わってきます。人員の最適化や能力の高度化にパートナーと一緒に取り組み、最大公約数でエンジニアのスキルアップを図っていくことができます。レディメイドであればシステムの運用、管理における自動化の可能性も広がりますし、人員リソースの省力化につながります。
サービス体系を大きく変え、時代の変化に対応した深化を目指す
中村(ガ)クラウドサービスは現在も利用が拡大し続けています。今後、ユニアデックスの提供するサービスがよりお客さまとWin-Winの関係になるためには、どんな提案をして、どんなクラウド時代のマネージドサービスを提供するかがカギになります。
中村(ユ)まずはコストの削減とパフォーマンス最適化の領域で最大限貢献することが重要だと考えています。ビジネス価値の最大化はお客さま起点で進むもので、当社はお客さまを支える立場にあります。ITの利活用とは切り離せないセキュリティやガバナンスを共通化して横展開すると、当社の対応工数が削減される分、そのサービス領域での当社売り上げが減ることにはなるでしょう。しかし、時代に合ったやり方に変えていくのは当たり前のことです。
必要なサービスを作って売り上げを維持しながら、コスト削減とパフォーマンス最適化も実現し、クラウドでのマネージドサービスを一手に引き受けることが当社の使命だと考えています。それは当社だけではできません。BIPROGYグループは相互補完的な立場にあり、パートナーやメーカーと一緒に価値のあるサービスを作り出していきます。
グランドデザインは変化し続けるものであり、発展とはより良いサービスを生み出していくことです。時代の変化に対応してサービスを進化、そして深化させ、お客さま満足度を向上させるために、より広くデータを集め、サービスの品質を高めていきます。それが当社の新たな「as a Service」だと考えています。