千葉ロッテマリーンズ、大日本印刷、BIPROGYが挑む社会課題解決のあり方

企業共創の先にあるサステナブルな社会DXの実践へ

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2024年6月に開催した「BIPROGY FORUM 2024」。2日目には、「企業共創の先にあるサステナブルな社会DXの実践へ」と題した講演が行われ、株式会社千葉ロッテマリーンズの大石賢央(かつひさ)氏、大日本印刷株式会社(以下、DNP)の柴田あゆみ氏、BIPROGYの千葉真介が登壇した。講演前半では、千葉がBIPROGYの目指す共創の姿や「地方創生」「スマートライフ」「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)/GX(グリーン・トランスフォーメーション)」という3領域を軸とする新たな事業開発の戦略を紹介。その後、サステナブルビジネスの実現に向けた観点に重きを置く形で、プロスポーツを通して地域に対し価値を還元する千葉ロッテマリーンズ、資源に新たな価値を見いだし、ものづくりを担うDNP、そしてBIPROGYという異業種3社がこれからの共創のあり方を語り合った。(以下、敬称略)

ヘッドライン

「地方創生」「スマートライフ」「SX/GX」という3領域で挑む新たな事業開発

BIPROGYは、これまで築いてきた実績やノウハウ、アセットを礎としてさらに成長し、市場・顧客とのより強固な関係づくりを目指している。同時に「社会的価値」と「経済的価値」、両方の創出を通じて、企業価値1兆円という成長目標も掲げる。

その実現に向けては、「コア事業」「成長事業」という2つの事業戦略を両輪に推進している。これまで多くの価値創出をしてきたコア事業では、お客さまの課題にさらに深く寄り添いその価値を最大化するDXを実現していく。もう1つの成長事業では、社会課題を解決する社会DXを実現し新たな価値創出を目指すという。特に後者についてBIPROGY執行役員 千葉真介は次のように説明する。

写真:千葉
BIPROGY株式会社 執行役員
千葉真介

「M&Aを含む積極的な投資を行い、AIやデータ利活用などの成長市場でシェア拡大を目指すとともに、社会課題解決を図る社会DXの展開を加速します。私たちは、これまでもこうした分野に取り組んできました。この経験を生かし、ビジネスとして飛躍させていきます。そのためには、お客さまやパートナーと共に志や各種アセットを共有しながら社会課題に直接アプローチし、解決へ向けてチャレンジすることが必要です。これがBIPROGYの考える共創のあり方です」

事業開発では、大きく3領域で共創を推進しているという。1つ目は「地方創生」だ。事業者との共創や公民学連携を通じて地域経済を活性化し、持続可能な地域社会の実現を目指している。2つ目が、「スマートライフ」。生活と金融サービスの融合により、暮らしの質向上と新たな消費喚起の実現に取り組んでいる。そして3つ目が、「SX/GX」だ。カーボンニュートラルと環境価値を切り口に、現有する各種ソリューションやサービスを活用し、新たなサプライチェーンの創出を目指している。

GX推進関連ソリューションの具体例

図: GX推進関連ソリューションの具体例 BIPROGYグループが現在保有するさまざまなソリューション、サービス、ノウハウといった各種のアセットを利活用し、新たなサプライチェーンを創出していく
BIPROGYグループが現在保有するさまざまなソリューション、サービス、ノウハウといった
各種のアセットを利活用し、新たなサプライチェーンを創出していく

SX/GX領域では、BIPROGYはさまざまなソリューションを提供している。その1つがIoTスマートゴミ箱「SmaGO(スマゴ)」だ。コロナ禍が収束の兆しを見せる今、再びオーバーツーリズムなどの観光公害が深刻化し、各地でゴミに関する問題も発生している。

その解決策として期待されるSmaGOは、ゴミ箱の収容状況をクラウド上でリアルタイムに把握でき、ゴミがたまると自動圧縮機能によって体積の5倍のゴミを収容できる。また、太陽光で発電し、蓄電可能な点も大きな特徴だ。その展望について千葉はこう語る。

「SmaGOを媒介に、『資源循環エコシステム事業』を構想しています。街中にSmaGOを設置し、足元のゴミ問題解決だけでなく、資源回収から活用までのバリューチェーン全体のボトルネックを捉え、諸課題を解決することで、新たな価値循環を創造します。これにより、真にサステナブルな街づくりに寄与する取り組みがさらに実現していくと考えています」

この取り組みは、広島県廿日市市の宮島でも始まっている。観光復興による地域経済の活性化と、日本の歴史文化が残る土地の環境保全の両立を目指し、環境省のモデル事業として今後も公民連携で推進していく。

千葉ロッテマリーンズ、DNPが注力する社会課題解決の取り組み

写真: BITS会場の様子

千葉ここからは、「企業共創によるサステナブルな社会DX」と題して、千葉ロッテマリーンズ大石さま、DNP柴田さまをお迎えして、「社会課題への取り組み」「環境問題への取り組み」「共創」の3つの観点からお話を伺います。

まずは、社会課題への取り組みについてお尋ねします。千葉ロッテマリーンズさまは、プロ野球というメジャーコンテンツを軸に、地域社会にさまざまな貢献をされています。具体的なアクションや現状の課題についてご紹介ください。

写真: 大石氏
株式会社千葉ロッテマリーンズ
BtoB法人営業部 部長 大石賢央 氏

大石私たちは経営理念の1つに、地域提携の強化を掲げています。代表例として地域コミュニティの成長や地域経済への貢献を目指し、千葉県内の12の市とフレンドシップ協定を締結しています。具体的には、小中学校への消毒液やハンドソープの寄付、ベースボールアカデミーやダンスアカデミーの出張授業などを行っています。

2022年からは「マリーンズリンクス」を立ち上げました。これは、社会課題の解決と社会貢献を目的とし、選手を中心に球団とパートナー企業が連携して取り組む活動です。例えば、特別支援学校等に訪問し、体を動かす喜びを体験してもらう「パラ支援プロジェクト」や、小児がんで闘病中の子どもをZOZOマリンスタジアムに招待し、元気や勇気を与える体験を提供する「小児がん支援プロジェクト」などがあります。

現状の主な課題は、野球に親しむ人口の減少です。人口減少や少子高齢化に加えて、子どもたちの選択肢や価値観の多様化が背景にあります。この課題に対し、子どもの頃から野球、そして千葉ロッテマリーンズに触れる機会を増やすことで、野球を選択する子どもと保護者を増やせないか模索しています。

千葉日本の根本的な社会課題である少子高齢化問題を意識しながら、子ども向けを中心に多様な価値を提供されているのですね。では、次にDNPさまにお尋ねします。私たちはあらゆる事業領域で共創させていただいていますが、特にGX領域では資材や資源に対して新しい価値を生み出す活動を推進していると認識しています。そこにはどのようなビジョンがあるのか、ご紹介いただけますか。

写真: 柴田氏
大日本印刷株式会社
Lifeデザイン事業部 ビジネスクリエイションセンター
サービス開発本部 環境ビジネス推進部
柴田あゆみ 氏

柴田DNPは、健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしは、サステナブルな地球の上で成り立つと考えています。環境領域では、2020年3月に、“2050年のありたい姿”を示す「DNPグループ環境ビジョン2050」を策定しました。主な取り組みとして、環境配慮製品・サービスの提供や環境に配慮したスキーム構築による価値創出、再生エネルギーの導入、持続可能な調達による経営基盤の強化などがあります。その上で、野心的な中長期計画を掲げながら、脱炭素社会・循環型社会・自然共生社会の構築に向けた活動を加速していきます。

具体的な価値創出の例として、ライフサイクル全体で環境負荷を低減する製品提供があります。植物由来のプラスチック素材や、リサイクルしやすい単一素材のパッケージなどの開発・提供に注力しています。また、お客さまの環境配慮を推進するチームを立ち上げ、脱炭素や資源循環の取り組みを支援しています。

千葉DNPさまは、CO2削減に関して製造業の中でも先進的な取り組みをされているのですね。続いて、環境問題への具体的な取り組みをお尋ねします。千葉ロッテマリーンズさまは、スタジアムを中心としたエリアで地域貢献活動をされていますが、具体的な事例や課題についてお聞かせください。

大石千葉ロッテマリーンズでは、千葉市が推進する持続可能な社会に向けた取り組みに賛同し、活動しています。代表的な例を2つご紹介します。1つ目は、LTO(LEADS TO THE OCEAN)活動です。ZOZOマリンスタジアムは海に隣接しているため、「海にゴミを流さない」をテーマに、日本財団さま、NPO法人さま、当社の共同で、球場周辺のゴミ拾い活動を行っています。2つ目は、再生可能エネルギー100%化の取り組みです。脱炭素社会の実現に向け、スタジアムの主要電力を再生可能エネルギー100%に切り替えました。

課題は、スタジアムで発生するゴミの問題です。大変ありがたいことに、2023年のZOZOマリンスタジアムでのプロ野球の観客動員数は180万人を超え、過去最高を更新しました。高校野球やライブイベントも含めると、年間約220万人以上のお客さまが来場されています。来場者が増えると、ゴミの大量発生は避けられません。特に野球観戦では帰る時間帯が集中し、帰りがけにまとめてゴミを捨てる人が多いために収集が間に合わず、美化の面から見ても残念な状況になってしまうことがあります。

千葉リアルイベントの復活に伴い、ゴミの問題が顕在化しているとよく分かりました。解決に向けた取り組みについては、後ほど触れたいと思います。次に、DNPさまの環境問題への取り組みをご紹介ください。

柴田近年、海洋プラスチックゴミ汚染や中国の廃プラ輸入規制など、プラスチック循環が大きな社会的な課題となっています。現状として、国内の廃プラスチックは年間約820万トンとされています。その中でも大石さまからご説明のあったスタジアム由来のものは産業系廃プラスチックに入り、年間約412万トン。また、家庭から排出される容器包装プラスチックも年間約130万トンとされ、食品や日用品等、プラマークの付いた容器や包装を指します。これらは2000年に施行された「容器包装リサイクル法」で資源循環が推進され、2022年のプラ新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)によって、おもちゃやバケツ、ハンガーなど回収対象も拡がったことで、循環の動きは加速しています。

写真: BITS会場の様子

しかし、課題はまだ多く残っています。プラスチックは多くの素材が混ざり合うため、一度溶かして再生し、リサイクルをすると材料物性(※1)が大幅に低下します。また、インクによって製品に意図しない色が混ざってしまうことや、臭いの発生等による衛生面での懸念が発生します。さらに、資源循環全体で見ると各ステージにおいても課題があります。

※1 材料物性:材料の物質的性質のこと。リサイクル材は、熱履歴(材料が受けた温度変化の履歴)による劣化や、材料管理の不備による影響で、材料自体がもろくなる、成型後の製品が強度低下を起こすなどの課題がある。

例えば、回収のステージでは、生活者の理解や回収コスト量などが課題です。再資源化の工程では、リサイクル材の物性低下や再生プラスチック製品の開発ノウハウなどが課題に挙がります。“リサイクル”と一言で言っても、モノを提供する人、回収する人、リサイクルする人、発信する人、生活者と、数多くのステークホルダーが関わるのです。これらの課題を考慮しつつ、ステークホルダーと手を携えながら資源循環のあり方をよりポジティブなものに変換していく必要があるといえます。

千葉ありがとうございます。こうした課題に対して、すでに具体的なソリューションを提供されていればご紹介いただけますか。

柴田私たちが培ってきたものづくりやLCA(※2)などのノウハウとソリューションをもって立ちあげたのが、「DNP GREEN PARTNER®」です。これは、環境配慮に挑戦する企業や活動を総合的に支援するチームで、CO2ソリューション、資源循環支援、その他環境全般のメニューを提供しています。具体例として、資源循環支援の中から「DNP易剥離紙容器 紙トレイ」を紹介します。DNP易剥離紙容器 紙トレイとは、イベントやテーマパーク、スタジアムでの軽食提供に適した容器で、汚れる部分を分離しやすい設計により、紙部分のリサイクルが容易になっています。

※2 LCA:Life Cycle Assessmentの略で製品やサービスのライフサイクル全体(資源採取、原料生産、製品製造、流通・消費、廃棄・リサイクル)における環境負荷を定量的に評価する手法

「DNP易剥離紙容器 紙トレイ」の分別イメージ

図: 「DNP易剥離紙容器 紙トレイ」の分別イメージ 使用後に内面フィルムを任意の位置から簡単に剥がせるため、本体の紙を汚さずに古紙リサイクルに回すことが可能。イベントやテーマパーク、スタジアムでの軽食提供に適したパッケージとなっている
使用後に内面フィルムを任意の位置から簡単に剥がせるため、本体の紙を汚さずに古紙リサイクルに回すことが可能。
イベントやテーマパーク、スタジアムでの軽食提供に適したパッケージとなっている

また、福岡県での医薬品ボトルのリサイクル実証事業では、モノの提供ではなく、どのような製品がリサイクルに適しているのかを示すガイド作成や、リサイクルした材料を用いた再生製品を製造しています。ただし、持続可能な資源循環スキームの確立には、技術面やデジタル面でのさらなる進化が必要だと考えています。

千葉以前から幅広い活動をされていますが、今後はIoT技術を強化して活動をより加速されていくと感じました。IoTという切り口では、BIPROGYグループではGXの推進に向けて、講演前段でご紹介した「SmaGO」をZOZOマリンスタジアムに地域社会貢献も含めて設置いただきました。その取り組みの背景や狙いをご紹介いただけますか。

ZOZOマリンスタジアムへのIoTゴミ箱「SmaGO」導入の様子

写真: ZOZOマリンスタジアムへのIoTゴミ箱「SmaGO」導入の様子

大石千葉ロッテマリーンズでは、今シーズンの開幕に合わせて、「SmaGO」を設置しました。プロ野球球団では初です。先ほど、スタジアムではゴミが大量に出ると話しました。その体積を「SmaGO」を使って圧縮します。さらに、センシング機能の活用で蓄積したゴミを効率的に回収することで、球場美化や球場で働く人たちの業務効率化につなげたいと思っています。また、ファンをはじめスタジアムに来場される方には、「SmaGO」を通してゴミの分別意識を持っていただき、SNSのシェア等でこのアクションを拡散できたらと考えています。また、「SmaGO」の外面は広告枠として活用可能です。この新たな広告枠をパートナー企業の社会貢献活動に資する価値として提供し、より深くWin-Win関係を構築する新たな挑戦と位置づけています。

「SmaGO」以外の取り組みもご紹介させてください。今年の夏にはマリーンズ夏祭りというイベントを開催します(2024年8月27日~9月1日に実施)。そのイベントブースで販売する食品容器の一部を環境に配慮したものにし、回収された容器を再び資源として利用する試みを初めて実施します。

千葉千葉ロッテマリーンズさまはファンコミュニティを活用して、分別の意識を高めるという行動変容を先駆的に実施可能な環境があると感じております。引き続きご一緒させてください。

社会的価値と経済的価値を追求する共創により、ゴミを資源として循環させる世界へ

千葉最後にお二方に「共創」についてお伺いします。今回の環境問題や資源循環というキーワードを踏まえて今後のビジョンやチャレンジ、ご参加の皆さまへのメッセージをいただけますでしょうか。

大石球団経営の理想形は、「正の回転」を回すことです。つまり、チームが強くなるとメディア露出が増加し、来場者増加によってスポンサー企業も増加する。そうして球団収入が増加し、利益を設備投資や選手補強、選手年俸のアップにつなげ、よりチームが強くなる――。これがまさにサステナブル経営だと考えています。「SmaGO」の取り組みもその1つであり、これからも多様な取り組みをパートナーさまと共に行っていきたいです。

柴田私も、社会的価値と経済的価値をともに追求することがサステナブル経営だと考えます。現代は、企業が持続するには「CSV経営」(※3)が必須な社会です。すなわち、事業が大きくなるほど社会や地球が良くなる状態を作っていかなければなりません。サーキュラーエコノミー(循環経済)はまさに私たちが目指すべきところと考えております。

※3 CSV:Creating Shared Valueの略で、「共有価値の創造」を意味する。CSV経営においては事業を通じた社会課題解決を重視し、その解決が自社の経済的な利益につながると見る

DNPでは、サーキュラーエコノミー領域で、千葉ロッテマリーンズさまにリサイクル可能なパッケージ提供を検討しています。そして「SmaGO」で回収した材料をリサイクルし、その材料でものづくりをすることもできます。また、それをスタジアムに戻して、ファンとコミュニケーションする。こうしたご支援を進めたいと考えています。循環の輪を回すことにはハードルもありますが、共創し、できることから始めていきたいと思っています。

千葉本日は貴重な機会をありがとうございました。引き続きサステナブルな社会の実現に向けて歩みを進めてまいりたいと思います。

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