店舗での見切り作業を55%削減、スーパーのDXが変える現場

電子棚札で値下げシールが不要に──ヤマザワ×BIPROGYの挑戦

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人手不足が広く社会課題となる中、小売業界でもその影響は深刻だ。とりわけ手作業が多く残る現場では、対策が喫緊の課題となっている。山形県を中心に、宮城県、秋田県で地域密着型のスーパーマーケットを展開するヤマザワも例外ではない。同社ではデジタルの力でこの課題に立ち向かうべく、BIPROGYと連携してDXに取り組んできた。その一環として現在挑戦しているのが、商品に値下げしたシールを貼る見切り業務のデジタル化だ。半年以上にわたる実証実験から、実用化への道筋が見えてきた。フードロス解消にもつながる施策であるだけに大きな関心を集めている。

地域の食を支え続けるために、生産性を向上したい

1962年に山形県で大規模なスーパーマーケットをオープンしたヤマザワは、現在、山形県、宮城県、秋田県で70店舗(2025年6月末時点)を展開している。最近では買い物難民対策として移動スーパー「とくし丸」にも注力。「健康元気」をキャッチフレーズに60年以上にわたって食のインフラを支え、地域に「安心と豊かさ」を提供している。一方で従業員の健康管理にも着目し、24時間365日受付可能な、健康やメンタルヘルスに関する外部専門家への相談窓口を設置したり、職場環境整備に取り組んだりすることで、3年連続で「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の認定を受けた、働き手を大切にする企業でもある。

写真:ヤマザワ松見店店舗

同社にとって、人材不足は深刻な経営課題の1つだ。山形県の人口は29年連続で減少しており、2025年5月にはついに100万人を切り、人材の確保は年々厳しくなってきている。同社取締役である山本哲也氏は「労働力不足と人件費の上昇が利益を圧迫し、原材料の高騰もあって収益力が著しく低下しています」と打ち明ける。

写真:山本哲也氏
株式会社ヤマザワ
取締役 情報物流部部長 兼 人事教育部・改善推進室・プロジェクト管掌
山本哲也氏

しかし地域の食のインフラを支え、来店客に健康元気を提供する企業として、利益が圧迫されている影響を販売価格に安易に転嫁することはできない。そこで同社では2020年からDXに取り組んできた。「効率化することで利益確保を目指し、商品はお客さまが納得できる価格で販売、さらに価格以上の価値を提供することが狙いです」と山本氏は語る。

同社のIT基盤を長年支えてきたBIPROGYは、CCR(CoreCenter for Retail)という小売業向けのマーチャンダイジングサイクルにかかわる機能を網羅した基幹システムをはじめ、AOF(AI-Order Foresight)という自動発注システムの導入などで、DXへの取り組みを支援している。さらに現在、実証実験に取り組んでいるのが、見切り業務をデジタル化する「フレッシュオプティマイザー」だ。BIPROGYの那須俊輔は「店舗には人手に頼るしかない業務が多く残っています。その1つである見切り業務は、値下げする惣菜に値引きした金額のシールを1つひとつ貼るなどの作業があり、働く方の大きな負担になっています。そこで見切り業務をデジタル化できないかと考え、ヤマザワさんに実証実験の話を持ちかけました」と経緯を振り返る。

写真:那須俊輔
BIPROGY株式会社
インダストリーサービス第一事業部 リテール戦略事業開発部 ビジネス開発室
那須俊輔

山本氏は「店舗によってはシールを貼る作業に1日当たり7~8時間かかっていました。シール代のコストも無視できず、貴重な労働力を使って値下げをする――。値下げは売り切るために必要ですが、改善の余地は大きなものでした」と語る。理想は需要を正確に予測して売れ残りを出さないことだが、当日製造・売り切り商品である店内調理惣菜で完全に実現するのは容易ではない。値下げは需要喚起にもなる。見切り業務をデジタル化できれば、労働力省力化の面で大きな効果が見込める上、将来の需要予測につながるデータの収集もでき、意味の大きい取り組みとなる。山本氏は「BIPROGYから提案を受けた時、『営業力強化に資する作業に限られた労働力を重点的に充てることでお客さまの満足度を向上する』という当社のDXが目指す方向性に合致した取り組みだと感じました」と実証実験に前向きになった理由を述べた。

見切り業務のデジタル化で、現場の負荷を大幅に削減

フレッシュオプティマイザーは電子棚札を使うことで、惣菜や鮮魚など生鮮食品の見切り業務を省力化するソリューションだ。調理後の経過時間に応じて電子棚札に値下げした価格を自動表示し、来店客に見切り品の金額を伝える。

写真:店頭に並んだソース焼きそばの価格表示
店頭に並んだソース焼きそばの価格表示。製造時間ごとに、ロケット、クルマ、船、新幹線の4パターンのマークを印字し、製造から一定時間が過ぎたタイミングで電子棚札の表示価格を自動で変える。
4パターンのマークは、価格表示やアレルギー表示と混同しないように検討を重ね、イラストで認識しやすいものに決めた。レジでは値下げされた価格で精算される

店頭での実証実験は、当日売り切り惣菜を対象に3回実施した。那須は「机上のシミュレーションでは見切り業務を省力化できる効果を想定していましたが、重要なのはご来店のお客さまに受け入れられるかどうかでした。そこで1回目と2回目は消費者目線での実証実験を行いました」と言う。

1回目は2024年3月に地域の小型店で行い、来店客に価格表示の意味を理解してもらうために、仕組みを説明したスタンドを設置した上で、担当者が意味や狙いを説明した。来店客と直接コミュニケーションを取ることで、拒否反応を示すかなどを確認したが、結果は思っていた以上に好評であった。

写真:店頭での実証実験の様子
値札に印字された新幹線などのマークの意味を掲示。BIPROGYの担当者も店頭で来店客に直接説明し、反応を確認した

「年配の方でも特に拒否反応はなく、幅広い年代のお客さまに仕組みをご理解いただけることが分かりました」と山本氏。同年7月の2回目の実証実験では、担当者による口頭での説明がなくても内容が理解されるかを試した結果、問題ないことが分かった。「実証実験の結果以上にうれしかったのは、那須さんをはじめBIPROGYのメンバーが私たちと同じエプロンを着けて売り場に立ってくれたことです。店内に活気をもたらす声出しをする姿を見て、店長をはじめ現場のスタッフが『BIPROGYは自分たちと一緒になって店を良くしようとしている』と信頼するようになりました。その結果、現場から積極的な意見が上がるようになりました」と山本氏は喜ぶ。

写真:実証実験に際して、開店から閉店まで売り場に常駐してお客さまに接したBIPROGYのメンバー
実証実験に際して、開店から閉店まで売り場に常駐してお客さまに接したBIPROGYのメンバー。
ボイスレコーダーにラベル表示の見方などを吹き込んで流し、フレッシュオプティマイザーの認知・理解向上を促した

3回目の実験は2025年3月から始め、小型店、中型店、大型店の3店舗で行い、ビジネス目線で採算性や効果を測ることを目的とした。山本氏は「スタッフの人数が少ないため店長が見切り作業に関わることが多い小型店と中型店で特に大きな効果がありました。作業時間が最大55%削減できたのです」と成果を語る。

勘と経験頼みから脱却し、より合理的な店舗運営を

3回の実証実験を経て効果を実証できたフレッシュオプティマイザーは、今後、BIPROGYのソリューションとして商品化される見通しだ。多くの小売業が人手不足に悩む中、有効な手段となり、フードロス削減にも貢献すると期待される。

山本氏は「効果が確認できた小型店と中型店への導入を広げていくとともに、対象商品の拡大も検討しています。1パックの価格が一定ではないグラム売りの唐揚げやサラダなどに広げていけば、経営へのインパクトがより大きくなります」と今後の展開を語る。

写真:現状、値下げシールを1パックずつ貼っているグラム売りの惣菜
現状、値下げシールを1パックずつ貼っているグラム売りの惣菜。
パック数が多い商品だけに、「フレッシュオプティマイザー」の適用に対する現場からの期待も大きい

那須は「今までこうした作業は勘と経験が頼りでした。将来的にはAIを活用して作業の平準化を図り、お客さまの来店パターンを予測して店頭作業に反映させることで、フードロス削減と利益確保の両立を目指したいと考えています」と意気込む。

山本氏は「BIPROGYは現場に入り込んで施策を推進してくれました。エース級店長がいる店舗の協力もあり、なんとしても成功させるという思いで一丸となって取り組めました」とBIPROGYへの信頼を語る。今後は顧客動線の分析など、現場のDXにはさらなる課題が残っている。地域社会への貢献を目指すヤマザワとBIPROGYの挑戦は続いていく。

写真:那須(左)と山本氏(右)

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