討論!「API公開」でどうなる日本の金融サービス

急がれる地域金融機関のAPI連携を見据えたインフラ整備とカルチャー転換に向けて

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2017年9月26日、第4回となる「Financial Foresight Forum」(日本ユニシス主催/グッドウェイ協賛)が開催された。「日本の金融サービスのこれから」と題するセッションでは、金融庁でFintechへの取り組みを主導し、2017年9月にマネーフォワードに入社した渉外・事業開発責任者の神田潤一氏と日経BP社 日経FinTech編集長の原隆氏が登壇。官民両サイドの立場から見たAPI連携の意義や狙い、地域金融機関におけるAPI対応の展開と課題などについて語り合った。

銀行のAPI公開はFintechへの取り組みを加速させる契機

2017年5月26日に銀行法などの改正が参議院で成立し、各銀行には外部のアプリに対して自行の口座情報や取引機能を提供するAPIの公開が求められるようになった。あくまでも"努力義務"ではあるものの、金融業界全体としてFintechへの取り組みを加速させる契機になると注目されている。

株式会社マネーフォワード 社長付 渉外・事業開発責任者 神田潤一氏

株式会社マネーフォワード
社長付 渉外・事業開発責任者
神田潤一氏

日本銀行から出向した金融庁でこの法整備に携わり、現在は株式会社マネーフォワードの社長付 渉外・事業開発責任者としてFintech関連の提案活動ならびに金融機関との提携などにあたっている神田潤一氏によると、もともとこの施策は欧州におけるオープンAPI、オープンバンキングの取り組みをモデルとし、日本の事情に考慮しつつ制度設計を進めてきたものである。

実際、各銀行にとって顧客の口座や個人情報を守る責任があり、いくら努力義務と言われても簡単にそれらのデータを外部につながせるわけにはいかない。

「日本の銀行には長年の取引により蓄積されてきた顧客からの信頼があります。まずこの点に立脚し、銀行を活用する形でFintechを進めていくことが日本としてはベストと考えました。安心して使っている銀行が許可したFintech企業であれば、自分の口座や個人情報を委ねても問題ないのではないか、と顧客から思ってもらえるような協業を後押ししていくことが、今回の改正銀行法の基本的な狙いです。2020年をめどに全国80行くらいがAPI公開に踏み出すことを目指しました」と神田氏は語った。

ただ、これは金融庁時代の見解である。「Fintech企業に身を置いた現在、見方はどのように変わりましたか?」という日経FinTech編集長、原隆氏の質問に対して、神田氏は次のように答えた。

「公開されたAPIを利用した便利なサービスを提供して終わりではなく、地域経済が活性化するようなイノベーションを起こせるかどうかが、Fintech企業に課せられた重い課題と認識しています。さまざまなFintech企業と銀行がAPIでつながり合い、多彩なサービスが有機的に結び付いていく中で、2年後、3年後にインパクトを持ったビジネスモデルを創出できるよう努力を重ねていかなければなりません」

地域の活性化に向けた 金融機関の主体的な取り組みに期待

株式会社日経BP社 日経FinTech編集長 原隆氏

株式会社日経BP
日経FinTech編集長
原隆氏

一方で解消していかなければならないのは、API公開に対して銀行側に横たわる温度差だ。原氏はとある地域金融機関の経営陣から、「外部にデータを提供して自分たちに何の得があるのか。Fintech企業にAPIなんかでつながせたくない」という声を聞いたことを明かした。Fintechのビジネスモデル創出の取り組みに対しても先行しているメガバンクはさておき、一部の地域金融機関にとってのまさに"本音"だろう。

だが、個々の金融機関の思惑はさておき、時代は間違いなくFintechに向かって流れている。まわりの金融機関やFintech企業がイノベーティブなサービスを提供し始めたとき、太刀打ちできなくなってしまったのでは元も子もない。

「Fintechの本質は、顧客がどういうニーズあるいは不平不満を持って生活をしているのかというペイン(課題)を捉え、応えていくことにあります。自行単独ではなく、さまざまなFintech企業とつながることで、どんなサービスの提供が可能になるのかという発想を持つこと、すなわちカルチャーの転換が必要です。それがかつてないコミュニティのつながりを促していきます。そうした地域の活性化に向けた、金融機関の主体的な取り組みを、一緒になって進めていきたいです」と神田氏は語った。

これまでの金融の概念を超えた 新たな"マッチング"が実現する

その意味でも求められるのが成功例づくりだ。「Fintechのメリットや可能性とはこういうことだったのかと実感できる具体例を、できる限り早いタイミングで見せていかないと、なかなか地域金融機関はついていけません」と原氏は指摘した。

「まさにおっしゃるとおりで、当社をはじめFintech企業だけの論理で動き、収益を独占するのでは意味がありません。協業する金融機関にとってもしっかりメリットが得られる形でないと、中長期的な流れにはなっていきません」と神田氏も答えた。

例えばFintech企業が提供するロボアドバイザーは、顧客の遊休資産を投資信託やさまざまな金融商品に誘導していくことにつながり、銀行もそこから手数料を得ていく形もある。地域通貨といった形でも価値が流通するようになれば、その中でクーポンやキャンペーン情報の発信を担い仲介料を得るなど収益をもたらす形も考えられる。全体のパイを大きくすることで、顧客をはじめとして、金融機関とFintech企業双方にもメリットが生まれてくるという考えだ。

対談の様子

さらにその先で神田氏が見据えているのが、これまでの金融の概念を超えるさまざまな"マッチング"の実現である。

「APIを通じてアクセスできる各金融機関の顧客やFintechサービスのユーザーのさまざまな情報を、厳重なセキュリティを保った上で横断的に分析することで、例えば『こんな業界の企業と取引したい』と考えている人物同士をマッチングすることが可能となり、新たな商談が生まれてくるかもしれません」と神田氏は語った。

これを受けて原氏も「私たちの想像もしなかったようなサービスがこれからどんどん生まれてきます。そんなFintechの可能性を広げる意味でも、API公開に向けた機運を高めるとともに、そのインフラを整備することがますます重要となります」と説いた。

これまで金融機関を介したお金のやりとりは口座間での単なる数字の移動にすぎず、その背景まで読み解くことはできなかった。そこにAPIを通じて金融機関とFintech企業が連携することで、「意図や意味まで伝えることが可能となります」と原氏は強調した。

ワクワク、ドキドキするような心が動く新しい金融サービスの未来像をFintechから描き出そうとしているのである。