新しい顧客体験を実現する! データを活用した「次世代金融ソリューション」へのチャレンジ
ニューノーマル時代に対応した金融サービスを目指して――「FIT2020 online」開催
日本最大級の金融ITフェア「FIT」。2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から初のオンライン開催となった(開催期間は10月8日から11月20日まで。今回のテーマは「ニューノーマル〜変化への適応に向けて〜」)。10月8日と9日のリアルタイム開催期間には、セミナーのライブ配信やオンラインブースでのチャット対応などが行われた。日本ユニシスは、金融機関向けの3つの先進的なソリューションを展示し、2つのセミナーで、パートナー企業との共創を通じた課題解決や目まぐるしく変化するニューノーマル時代に向けた次世代金融ソリューションにかける思いを広く発信した。
社会変化を踏ふまえた多様な次世代金融ソリューションが集結
オンライン展示会場には、営業支援から融資・審査支援、AI・ロボット、ビッグデータ、ブロックチェーン・仮想通貨など約300のソリューションが一堂に会した。日本ユニシスブースでは、マーケティングプラットフォーム、次世代営業支援サービス、金融アドバイスアプリの3つのソリューションが展示された。それぞれを以下、簡単に紹介していきたい。
1つ目は「金融データを活用したマーケティングプラットフォーム」。これは現在開発プロジェクトが進行中の金融機関を巻き込んだ新しいプラットフォーム事業だ。生活者が各スマートフォンアプリを利用する上で得られるデータから生活者の嗜好を把握し、パーソナライズされたバナーや消費活動の促進に向けたコンテンツなど生活者にとって有益な情報を配信する。加えてファイナンス面の支援などによって生活者本人が設定した目標達成を支援することを提供価値とする。
具体的には、次のような仕組みだ。まず生活者が日常的に使うスマホアプリなどから嗜好や購買行動データを収集し、購買行動に向けた動きを把握。これらと商品情報を結び、生活者にとって有益な情報を提供する。こうした流れの中でエンゲージメントを向上させるとともに商品成約率を高めることができる。このマーケティングプラットフォームは、ネストエッグとの共同事業として立ち上げる計画で、連携するスマホアプリの第1弾として同社の自動貯金アプリ「finbee」が予定されている。
finbeeは、2016年12月にサービス提供がスタート。「貯金をもっと楽しく、簡単に」をコンセプトとして貯金の目的や頻度、金額といったルールをユーザー自身が設定し、そのライフスタイルに合わせた貯金の設定と継続をサポートする。アプリは、登録されたルールに基づいて銀行口座と連携し、ユーザー名義の生活口座から貯金用口座への振替を指示する仕組みだ。貯金を日常生活にひも付けることで、無理なく貯金できる点が大きなメリットとなる。例えば、夫婦など同じ目標を持つ相手と共同で貯金する機能や、季節・イベントに応じて貯金する機能なども提供される。累計貯金目的作成数は34万個を超え、累計貯金額も100億円を突破している(2020年4月10日時点)。マーケティングプラットフォームでは、このアプリのアクティブなデータをマーケティング活動に活用する予定だ。
2つ目のソリューションは、次世代営業支援サービス「CoreBAE(コアベイ)」。地域金融機関などが保有するクライアントデータをAIが分析し、営業担当者の提案力強化と営業活動の効率化を支援するソリューションだ。人口減少や少子高齢化、中小企業数の減少などを背景に、地域金融機関は取引先企業の資金ニーズや経営課題をいかに把握するかが課題となっている。CoreBAEは、これらの課題解決につながる「気づき」を担当者に提供する機能はもちろん、オンライン融資機能も有している。
CoreBAEは、取引や財務などの顧客データを受け取ると、自動で各種のデータを分析。さまざまなサービス機能に反映させていく。例えば、取引先の経営課題を仮説ベースで提示する「AIナビ」や、タイムリーな情報把握を可能にする「月次試算表情報」などだ。また、取引先へ提示可能な補助金や助成金をレコメンドする「補助金助成金情報」は営業担当者の提案力強化に生かすことができる。さらに、取引先の資金ニーズを自動分析する「資金ニーズ予測」や、取引先の仕入先・販売先などを見える化して優良顧客を発見する「決済情報動線把握」、企業情報が入力された申込書を作成する「保証協会申込書作成」といった営業活動を効率化するサービス機能も幅広く提供されている。
その大きな特長は、Amazon Web Services(AWS)上で提供されるクラウドサービスである点。ハードウェアやソフトウェアの調達やシステム運用が不要な利用型サービスで、最短で3カ月後に利用できる。各種の提供サービス機能も利用金融機関のニーズを反映させて継続的にアップデートされる。加えて、CoreBAEとフィンテック企業ココペリが提供するオンラインレンディングプラットフォームである「BA Finance」を併せて利用することで、オンライン融資が可能になる。事業者はオンラインで借り入れの申し込みができ、かつ、AIによるスピーディな審査で保証会社の保証の下で融資が実行される利点も併せ持っている。
3つ目に紹介するのが、「次世代個人向け金融アドバイスアプリ」。日本ユニシスの個人資産管理サービス「Fortune Pocket(フォーチュンポケット)」をベースに、ソニー銀行が持つ個人の資産形成やライフプランニングのノウハウを加えて共同開発するアプリで、企業向けのSaaSとして提供される予定となっている。
今回のアプリ開発プロジェクトの背景には、少子高齢化や長寿命化などといった社会環境の変化を前提とした個人の資産管理やライフプランに対する不安の増大があるという。また、ライフスタイルの多様化、テクノロジーの進化、個人ニーズの細分化に対応したサービス提供などが金融機関において課題となっている点も、アプリ開発プロジェクト立ち上げのきっかけとして挙げられる。これらの課題を解決するため、日本ユニシスとインターネット銀行としての強みを持つソニー銀行両社のノウハウを生かし、「人生100年時代」に向けた新たな金融サービスの価値創出が今まさに目指されている。
その価値創出に向けたアプローチとしては、「資産・支出の可視化」「ライフプランの見える化」「アドバイス」「提案・アクション」という4つのサイクルを回し、新たな金融体験を生み出すというものだ。このアプリでは、バランスシートや支出管理で自分の資産・支出を可視化し、自身の夢や目標を登録することで、ライフプランを見える化する。現在の資産額や毎月の平均貯蓄額から将来の資産状況をシミュレーションすることも可能で、顧客状況に応じたアドバイスや金融商品やキャンペーン情報などの提案機能も提供される。
アプリの利用者としては、個人向けのFortune Pocketとは異なり、企業の顧客や従業員なども想定している。導入企業にとっては、顧客接点を増やすためのデジタルチャネルとなり、顧客の資産やライフプラン情報を取得して、分析することで新たな顧客アプローチが可能になるはずだ。今後のプロジェクト展開に期待したい。
オンラインセミナー(1)
デジタルを活用した新しい顧客エンゲージメントの在り方とは
10月8日には「金融をもっと身近なサービスへ。データを活かした新しい顧客エンゲージメントの創り方」と題して、日本ユニシスのネオバンク戦略本部 企画推進部 長塚雅彦が講演した。
「価値観が多様化し、生活様式が変化する中でビジネスに求められているのは、顧客ニーズを理解し、その成功体験を後押しするアプローチ。その上で顧客との信頼関係を築き、継続的かつ長期的に支援していくことが重要です」と長塚は強調する。そのカギは、データ同士を関連づける「コンテキスト化」と「パーソナライズ化」にある。顧客ニーズの実現を支援する中で得られた各種データを基に、顧客一人ひとりをより深く理解し、個人に対応した最適なサービスを提供していくことで長期にわたる信頼関係が構築される、というわけだ。そして、こうした顧客との関係性を深めるために欠かせないキーワードが、「デジタルによるコミュニケーション」だ。
このデジタルコミュニケーションの成功事例として紹介されたのが、シンガポールのDBS銀行。同行では3年前からデジタル化を強化し、業績を向上させてきた。例えば、新規市場のためにバーチャルアシスタントを実装したデジタルバンキングアプリを開発し、顧客のリクエストのうち約8割はAIチャットボットが対応しているという。既存市場における顧客エンゲージメント強化の面においてもデジタルを駆使している。「その1つが、『Financial GPS』というアプリ。顧客が設定したゴールに対しての現状を見える化し、実現するためにアドバイスを与え、お金の管理意欲を醸成するデジタルアドバイザー機能を提供しています」と長塚は説明する。
また、同行のデジタル戦略で活用されているのが、シンガポールのフィンテック企業マネーソーが開発した「Moneythor(マネーソー)」である。Moneythorは、行動経済学における「ナッジ」を応用したパーソナライズドレコメンデーションエンジン。「ナッジとは、肘で横腹を優しく押して踏み出す後押しをするとの意味。転じて、強制することなく、望ましい方向に人々を誘導する仕掛けや手法を意味します」と長塚。Moneythorは、「お金の見える化」と「レコメンデーション」機能を提供し、お金に関わる行動や事実をトリガーにして気づきとなるアドバイスを提示する。あるいは、顧客の関心度合いに応じてナッジすることで、興味の醸成や欲求をより高め、意思決定や行動を促すことができるという。
日本ユニシスは、2020年2月に同社と国内で初めて業務提携契約を締結し、Moneythorを活用して金融機関のマーケティング活動を支援する取り組みを開始した。「これまでに先進的な銀行やFintech企業20社が導入しています。すぐに使える約120のレコメンデーションが用意され、変化に対応した柔軟な設定変更も可能です」と話す。カスタマーサクセスを支援して継続的な関係を構築するための強力な武器と言えそうだ。
オンラインセミナー(2)
金融データで消費者起点のアプローチを実現
リアルタイム開催2日目の10月9日には、「消費者起点アプローチにより実現される新しい“金融体験とデータの利活用”」と題し、ネストエッグ代表取締役の田村栄仁氏と日本ユニシス ネオバンク戦略本部 企画推進部の上田潤がオンライン講演。新しいマーケティングプラットフォーム構想を紹介しつつ、金融サービスで得られるデータの利用価値について語り合った。
冒頭で上田は「生活者のITリテラシーが向上し、コンテキストが多様化したことで、受動的なマス向けのアプローチから、個人が自分の意志でアクティブに使うアプリをメディアとしたマーケティングの軸足が移りつつあります」と広告の在り方に変化が起きている点に言及。それに注目してマーケティングプラットフォーム(編注:前掲「金融データを活用したマーケティングプラットフォーム」)の構想が生まれたと語った。
このマーケティングプラットフォームは、生活者が利用するスマホアプリのデータから嗜好や購買行動を把握し、一般事業者との間をマッチングさせるもので、ネストエッグと共同で開発が進められている。そのスマホアプリの第1弾として、同社が提供する貯金アプリ「finbee」を連携する計画だ。上田は「金融情報と消費活動を結ぶことで金融データの新しい活用方法が開けます」と強調する。
金融とマーケティングのつながりについて田村氏は、「今は転換期にあると感じています。パーソナライズやユーザー体験を支援するデジタル技術への期待は高まっています。従来の商品中心のアプローチではなく、ユーザー起点が求められる中では、データの中からユーザーが求めるもの、実現したい夢を理解することが重要です。金融業界としても、個人にフォーカスしたデータドリブンなマーケティングが求められています」と語る。
背景にあるのは、通信環境の発達やSNSの普及に伴ったユーザー自身のセルフプロデュース力の高まりだ。上田は「ユーザー自らが情報収集して、行動を決めていく時代になりつつあります。こうした時代のうねりの中で金融機関は、決済だけでなく情報収集の部分からユーザーに寄り添って実現できるサービスがたくさんあるはずです。マーケティングプラットフォームには、こうした部分を支援する役割も持たせていきたい」と展望を語る。例えば、特定の目的のために必要なお金を貯めることを支援するfinbeeには、ユーザーが実現したいこととともに、必要としている金額や現在の進捗状況も継続把握できる。「ユーザーが貯金をしている数カ月間という期間は、ユーザーとの連続的なコミュニケーションを図ることが可能なので、従来のマーケティングとは違うアプローチを行うことが可能です。継続的にコンタクトすることで、サービスへのロイヤリティを高めることができます」と田村氏は語る。
こうしたデータ活用の在り方は、金融機関のマーケティングを大きく変えていくだろう。もともと金融機関が持っているデータとユーザーにひも付いた情報を統合することで、パーソナライズされたきめ細かなさまざまな提案も可能になる。上田は「今回のプラットフォームは、ユーザーの嗜好や購買行動の進行度合いが把握しやすいスマホアプリの継続的な利用の中から得られたデータを活用して、ユーザーへの1to1情報の提供や最適なバナー、コンテンツ配信が可能となります。このプラットフォームに金融データを組み合わせていくことで、的確で継続的な金融機関のマーケティング変革のアプローチを実現していきます」と今後の意気込みを語った。