日本ユニシスグループは、これまで社会課題解決に資する「ネオバンク」「デジタルアクセラレーション」「スマートタウン」「アセットガーディアン」という4領域にフォーカスし、持続可能な社会の実現も視野に入れた多様な挑戦に取り組んできた。折しも現在は、新型コロナウイルスの脅威の中で資本主義社会におけるグローバリズムの負の側面が改めて浮き彫りとなり、これまで以上に地球規模でサステナビリティの重要性を私たちに痛感させている。本稿では、2020年12月7日に開催された日本ユニシス主催のオンラインセミナー「BITS2020関西」特別講演で語られた「2030年の社会像」やその実現に向けて着実に歩みを進める各領域のオーナーたちの思いなどを紹介したい。
サステナブル未来の社会実現に向けた4つの注力領域
BITS2020関西特別講演の冒頭ではまず、日本ユニシス 代表取締役専務執行役員 CMO/CSO/CCOの齊藤昇がSDGsの達成された2030年像について展望を述べた。
「コロナ禍を背景に、ギグワーク(単発雇用)の隆盛などが目立ってきました。VUCA時代では、個人の能力を動的に組み合わせることで変化に対応する必要性がさらに高まります。その実現のために、ソーシャルクレジットをスコアリングする時代が訪れ、また技術革新の中でドローンは物資だけでなく人も輸送することになるでしょう。これらとともにAIを活用したスマート農業も当たり前となり、ゼロエミッション(排出ゼロ)の実現に向けても社会の歩みは進みます。SDGsを達成すべき2030年はもう目の前に来ています。しかし、その準備を私たちはできているでしょうか」
日本ユニシスグループは、2018年より中期経営計画「Foresight in sight 2020」の下で自らの存在意義を「顧客・パートナーと共に社会を豊かにする価値を提供し、社会課題を解決する企業」と定義。環境や社会の課題に真摯に取り組み、社会の持続的発展に貢献することを通じてサステナブルな企業となることを目指してきた。その中で課題解決が特に期待され、中長期的成長が見込まれる市場において、顧客やパートナーと共に日本ユニシスグループのアセットが活用できる4つの領域を注力領域として定め(「ネオバンク」「デジタルアクセラレーション」「スマートタウン」「アセットガーディアン」)、重点的に取り組んできた(参考:『日本ユニシスグループ、中期経営計画で「4つの注力領域」にリソース集中(前編) (後編)』)。BITS2020関西における特別講演の冒頭では、これら注力領域におけるそれぞれの3年間の進捗状況について、各領域を統括するオーナーたちがその思いと共に報告した。以下、そのメッセージを紹介していきたい。
共創社会を支える金融プラットフォームを構築
「ネオバンク」というと銀行をはじめとする金融機関を想起するかもしれません。しかし、私たちが見据えるのは金融サービスそのものです。金融サービスを生活空間や事業空間に融合し、生活者の暮らしや企業の生産性を向上すべく、顧客体験から金融サービスを再構築するようなプラットフォームサービスとDX(デジタルトランスフォーメーション)を掛け合わせた各種の取り組みを推進しています。
具体的には、金融サービスをデジタル化して新たな顧客体験を創出するとともに金融サービスの在り方そのものを利用者主体に変えていこうとしています。金融サービスを提供する側の都合ではなく、もっと利用者目線に寄り添って金融サービスを受けられるようにするものです。利用者のパーソナルな部分に着目してデータを分析し、得られた信用情報に基づいてその人が目指すライフスタイルを実現していきます(参考:新しい顧客体験を実現する! データを活用した「次世代金融ソリューション」へのチャレンジ)。
今般のコロナ禍においては、さまざまな格差が広がっているとされますが、一番あってはならないのは、意欲の格差が生じることだと考えています。SDGsの2030アジェンダで採択された「Leave No One Behind(誰一人取り残さない)」を体現する「日本版ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」サービスを目指して、誰もが参加できるネオバンクのプラットフォームを構築し、豊かな社会づくりに貢献していきたいと考えています。
経済活動を可視化し「コミュニケーション変革」を実現する
「デジタルアクセラレーション」では、ビジネスのデジタル化を加速させ、経済活動を可視化することで企業・消費者の関係性を再構築して接点を強化し、生活者の利便性向上や産業の活性化を目指した取り組みを進めています。例えば、「労働力不足」という社会課題を解決するため、人が行っていた業務をAIとロボティクスにより自動化する「RASFOR(ラスフォー)」というサービスがあります。これは小売店舗での利用を前提にオープンイノベーションで開発を進め、スマートタウンやアセットガーディアン領域と一緒に取り組んでいるものです。また、広告主(メーカー)が全国の小売店の売り場と連携して実購買データに基づくマーケティング施策の実施を可能にするプラットフォームである「スマートキャンペーン」は2020年3月末に広告主130社、生活者500万人をつなぐまでに成長しています。
そのほかにも、社会課題解決に向けた具体的な取り組みとして、「BE+CAUS(ビーコーズ)」というソーシャルアクションプラットフォームをスタートしました。日常の買い物を通じて、生活者、企業、NPOなどのステークホルダーが気軽に社会課題の解決/SDGsの達成に貢献できるものです。第1弾の活動は、レジ袋有料義務化に合わせ、2020年7月20日~8月19日に小売3社の賛同を得て(イズミ、いなげや、ライフコーポレーションが運営する全国512店舗において)展開しました。レジ袋の未購入と対象商品の購入によって生活者が気軽に社会課題の解決に参画でき、その売り上げの一部がゴミ拾いボランティアのNPO「グリーンバード」の海洋ゴミ回収活動に寄付される仕組みです。
結果はとても好評でした。たとえSDGsという言葉は知らなくても、多くの生活者が「社会に貢献をしたい」という意識を持っていることに、この取り組みを通じて私たち自身が気付けたことも非常に大きな収穫だったと思います。
データ利活用により「生活者ファーストの共感型社会」の実現を目指す
地域にはそこで暮らしている人、働いている人、訪れてくる人などさまざまな人がいます。そうした一人ひとりの生活者に向けて、本当に必要としているサービスをどうすれば提供することができるか――。
少子高齢化、都市一極集中、環境問題など、私たちを取り巻くさまざまな社会課題に対し、ヘルスケア・エネルギー・モビリティ・キャッシュレスなどの各種サービスを連携させ、ニューノーマル時代に応じた、生活者ファーストの「まちづくり」に取り組んでいるのが「スマートタウン」です。「スマートタウン=安心・安全に暮らせる生活者ファーストの共感型社会の創出」というビジョンを掲げ、健康増進、買い物や移動などの生活シーンに注目し、地域に暮らす人々の行動変容を促し、地域課題の解決につなげていく取り組みを行っています。また、米国スクラムベンチャーズが主催する「ニューノーマル時代のスマートシティ」 をテーマにした、世界中のスタートアップとの連携・事業共創を行うグローバル・オープンイノベーション・プログラム「SMART CITY X」にも参画しています。
また、今後ますます重要となるのは、信頼に基づくデータの利活用です。日本ユニシスは三井不動産と、本人の同意に基づき、パーソナルデータを安心・安全に業種・業界を横断して流通させることができるプラットフォーム「Dot to Dot」を開発しました。インターネット上の安全なデータ流通を確保することで、企業やさまざまな分野の研究機関による相互のデータ連携を実現し、既存サービスの価値向上や新サービスの開発、研究開発活動の促進を図ることを目的とするものです。2020年11月26日からは、「柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)」において実際にサービス提供も始まりました。これをきっかけに、新たな価値を創出するヘルスケアソリューションの開発を目指すほか、交通エネルギーを含めた社会課題解決への取り組みを、多くの事業者や地域の皆さまと共に加速させていきたいと考えています。
テクノロジー活用により働き手ファーストの
強靭かつ柔軟な産業社会インフラを創出する
「アセットガーディアン」のミッションは、働き手ファーストで強靭かつ柔軟な産業社会インフラを実現していくことにあります。基本的には社会インフラ設備やビル設備、生産設備・倉庫、店舗施設運営の4つの領域に重点的に取り組んでいます。
具体的な取り組みとして、日本海コンサルタントとの共創により開発した橋梁の劣化要因・健全度を自動判定するAI橋梁診断支援システム「Dr.Bridge」や建物や工場などの設備に不可欠な設備点検業務を大幅に効率化する「まるっと点検」(参考:導入事例)、工場などの回転機械設備の不具合をIoTで予兆検知する「VibSign」などの事例があります。
また、IoTのシステムをより安全かつ効率的に運用できるように、分散型IoTビジネスプラットフォームを提供しています。デバイス管理や分散処理(エッジ処理)、セキュリティなどの機能は共通サービスとしてあらかじめ組み込まれています。このため、お客さまの要望に合わせたアプリケーションのカスタマイズや組み合わせが可能となり、ゼロからスクラッチ開発することなく最適なIoT環境を実現します。このようにアセットガーディアンでは、お客さまがより簡単に課題解決できるようにするための仕組みづくりにも注力しています。
「この課題を必ず解決する」という
強い意志にこそ共感の輪が広がる
4注力領域における各種の成果や実績は、数限りない挑戦や試行錯誤の結果として現在の形へと育った。日本ユニシスCMOの齊藤昇はオーナーたちのメッセージを踏まえ、こう問いかける。
「社会課題の解決やオープンイノベーションの中では、その実現の難しさに日々直面します。特にSDGsにおいては同じ企業の中であっても課題意識に濃淡があります。多様なステークホルダーの心を1つにし、共創してサービスを作り上げることは決して容易ではありません。そのような中でも各社と協働し、スタートすることで見えるものがあったのではないでしょうか」
これを受け、「例えば、『プラスチックフリー』や『食育』をテーマとしたキャンペーンを立ち上げても課題の考え方や思いの深さには各企業で相当な違いがあり、それらに直面するリーダーの苦労は絶えません。しかし、キャンペーンは大きな反響を呼び、私たちはもちろん小売やメーカーも含めて、生活者の意識変化に驚かされました。『消費者の意識が以前とは様変わりしている』点は取り組む中から見えてきたことでした」と話すのは田中だ。
また、永島は、この3年、長野県で取り組んできている地域共創プロジェクトを引き合いに出し、「最初は『なぜ日本ユニシスが?』、『少しやって儲からないからと引き上げるのでは?』という雰囲気を感じました」と話す。だからこそ、「本気」を示すことが何よりも重要なのだ。まちの新しい未来とイノベーション創出を目指す拠点として長野県に「地域共創ラボ」を開設したのもその一環だ。
「高尚なことを語り、美麗な絵を描いても熱意は伝わらず、継続性も生まれません。地域共創ラボを通じ、行政・企業・大学・地域活動家と多様な交流を深める中で『日本ユニシスは本腰を入れて取り組む』という信頼感が少しずつ芽生えてきました。現在は、地域の未来像を共に描き具体的な検討を行っていく間柄となっています。思いを持って活動する中で、同じ志を持つ方々に出会う。そこから新たなつながりが生まれ、さらに具体的な活動へと広がっていく。これは熊本県合志市での活動でも感じていることです」
この永島のメッセージを受け、「『この課題を必ず解決する』という強い意志と、あきらめない姿勢がエコシステムを成長させる大きなポイントの1つかもしれません」と齊藤は言葉を紡ぐ。海外企業との共創も同様だ。特に金融領域では技術革新のスピードも速く海外のベンチャー企業と手を組むケースが増えているが、情報収集のみを目的にコンタクトを図る日本企業も少なくない。しかし、それでは真のパートナーとして認められるはずもない。竹内は、「共にビジネスに取り組んでいく姿勢をしっかり打ち出し、出資もするなど自らリスクを背負うことがとても重要です」と強調する。
そして、「本気」を示すために求められるのが、現場に飛び込む勇気だ。例えば、アセットガーディアンが対象とする社会インフラを支えているのは、発電などのプラントや生産工場などの現場そのものである。そこはIT(情報技術)よりもOT(制御技術)がより大きな比重を占める世界であり、日本ユニシスを含めたITベンダーはまともに相手にされないことも多いという。
「当初は全く知らなかった現場のことを丁寧にヒアリングする中で理解し、家内手工業的に試作品を次々に作っては見ていただくなど、自分たちなりの解決策を繰り返し提示してきました」と森口は振り返る。こうした苦労の末に、ようやく現場からの信頼を得ていったのだ。
「決してあきらめず、『絶対にこの課題を解決する』という強い意志と情熱を持って臨んでこそ仲間として信頼を得ることができ、ワクワク感と共感の輪が広がります。ビジネスエコシステムを築く重要なポイントはそこにあります」と齊藤は改めて強調し、講演を締めくくった。持続可能なエネルギー社会への貢献やレジリエントなまちづくり、安心・安全で便利な消費社会や新たなモビリティサービスへの挑戦など、日本ユニシスは持続可能な「ワクワクする未来」に向け、志を持つすべての人々と共にさらなるムーブメントを起こしていく。