「Mobility × IoT × FinTech」を活用した「世界の貧困層17億人を救うSDGs経営」への挑戦

志をつなぎ、社会と企業の持続的な成長サイクルを生み出す――BITS2020中部開催

画像:TOP画像

日本ユニシスグループがユニシス研究会と共に開催する総合イベント「BITS2020」が今年も動き出した。今回は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から初のオンライン開催となり、9つの地域から発信されるコンテンツを全国から視聴できる。「未来をつくる、志をつなごう」をコンセプトに据え、初回は中部地域からスタート(9月24日開催)。「モビリティサービスの提供を通じ、多くの人を幸せにする」との理念を掲げ、2013年の創業以来挑戦を続けるGlobal Mobility Service。本稿では、同社代表取締役 社長執行役員/CEO 中島徳至氏が推進する社会創造のイノベーションを紹介したい。中島氏は、十数年に及ぶ電気自動車業界で培った経験をベースに同社を設立。「モビリティを通じて世界から貧困層をなくす」を目標に、事業創造以外にも経済産業省の「SDGs経営ガイド」(2019年5月)に携わるなど、多くのステークホルダーと国内外で共創を生み出し続けている。

「誰もが車を買える」仕組みを創造する

「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Sharing(シェアリング)」「Electrification(電動化)」の頭文字からなる「CASE」というキーワードに代表されるように、自動車業界は今、100年に1度の変革期を迎えている。

その大きな焦点は、通信環境の向上やIoTデバイスの普及といった社会環境の変化に対応する「コネクテッドカー」や環境負荷の低い「EV(電気自動車)」のような次世代モビリティの開発だ。だが、次世代モビリティが開発されても、それだけでは社会に広まらない。Global Mobility Service(以下、GMS) 代表取締役 社長執行役員/CEOであり、岐阜大学工学部で教鞭を執る中島徳至(なかしま・とくし)氏は次のように語る。

写真:Global Mobility Service株式会社 代表取締役 社長執行役員/CEO 中島徳至氏
Global Mobility Service株式会社
代表取締役 社長執行役員/CEO
中島徳至氏

「新興国へ行くと経年劣化した車両が街中にあふれ、排ガスと騒音に人々が悩まされている例は数多くあります。その状況に対して、私たちは『なぜ新しい車を買わないのか』『なぜ行政や警察は違法車両を取り締まらないのか』と考えがちです。しかし、ここから見えてくるのは、『新車を買いたくても現金を持っておらず、ローンも利用できない人が多い』という現実です。私自身もこの事実に直面し、『どれだけ環境に優しいEVが生まれたとしても人々が買える環境がなければ意味をなさない』ことを思い知らされました」

実は、中島氏が会社を設立するのは、GMSが3社目となる。それ以前に、国内17番目の自動車メーカー「ゼロスポーツ」(1994年)、フィリピン初の電気自動車メーカー「ビート・フィリピン」(2013年)を設立している。ゼロスポーツは、国内EVベンチャー初となる大型受注を実現し、ビート・フィリピンはアジア開発銀行から拠出を受け3000台規模の大型受注を獲得するなどの実績を上げた。しかし、市民が購入したくともローンを利用できずに購入できない現実に直面した。こうした経験を踏まえ、「誰もが車を買える仕組み」を創造するため2013年11月に設立したのがGMSである。

少額の資本金からスタートしたGMSだったが、設立株主には中島氏のほか、元東京大学総長で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏、元日産自動車バイスプレジデント兼グローバルCIOの栗原省三氏、ベネッセホールディングス最高顧問の福武總一郎氏、元PwC常務取締役で東京大学名誉教授の松島克守氏ら、各界の重鎮が顔を並べる。これは起業家として挑戦を続けてきた中島氏の思いが、業種・業態・分野の壁を越えて大きな共感を生んだからだろう。その後もデンソー、ソフトバンク、住友商事など東証一部・二部企業15社以上の出資を集め、現在の資本金は28億1122万円(資本準備金含む)へと拡大。フィリピン、カンボジア、インドネシア、韓国に現地法人を展開し、事業を本格化させつつある。

「貧困の連鎖を断ち切る」金融包摂型のサービス

そんなGMSが注力するのが「金融包摂型FinTechサービス」であり、SDGsの目標1「貧困をなくそう」だ。金融包摂とは、「年齢や地域に関わらず誰もが取り残されることなく金融サービスにアクセスできるようにする」という考え方を指す。中島氏はこう説明する。

「ローンを活用できず自動車を購入できない人口は、世界17億人に達するとみられます。大きな理由は、『金融機関の与信が通らない』点です。市場としても、仮に1人当たり100万円の車を購入したとすれば、約17兆ドルという巨大なマーケットが眠ったままになっていました。デジタルの力を使って、これまで金融にアクセスできなかった人たちを誰一人取りこぼすことなく救い上げる仕組みを生み出し、アナログの時代にはできなかった金融、モビリティ、職業をデジタルでつなぎ、頑張る人の人生を変えることを目指しています」

写真:BITS中部2020の一幕(2020年9月)
BITS中部2020の一幕(2020年9月)

実は、日本国内でも仕事や通勤で車を利用したくても従来の与信審査を通過することができない人が年間約200万人いると推定される。例えば、高齢者やシングルマザー、起業したばかりの人、外国人労働者、パート・アルバイト、転職者などだ。本サービスのビジネスモデルが評価され、2019年度「グッドデザイン賞」金賞を受賞した点からも分かるように、国内からも大きな期待が寄せられている。「SDGsの中で私たちが特に重要視しているのは、貧困の解決です。GMSも所属する経団連の中でも『SDGsが掲げる貧困の解決に取り組んでいる企業は少ない。この課題解決に向けた事例を作ってほしい』との声を聞きます。私たちは、貧困や環境汚染などの社会課題解決を事業の軸としています。その意味においても、経団連が推進する『Society 5.0 for SDGs』と親和性を有しています。社会課題を本質的に解決するためには、自社の技術やサービスの範疇にとどまるのではなく、さまざまな企業や自治体・団体などとのオープンイノベーションが不可欠です。多くのお力添えをいただきながら事業を推進しています」と中島氏は語る。

GMSが提供する金融包摂型FinTechサービスを持続可能なビジネスモデルとして支えるのが、「MCCS(Mobility-Cloud Connecting System)」というIoTデバイスだ。このデバイスを、GMSが独自開発した「MSPF(Mobility Service Platform)」を介して金融機関や決済システムと連携させている。これによって入金期日までに入金がなかった場合、ドライバーの安全を確保した上で、公道以外の場所において車のエンジンを遠隔で起動制御することができる。

金融包摂型FinTechサービスのイメージ

画像:金融包摂型FinTechサービスのイメージ

ドライバーが支払いを済ませたあとの対応も迅速だ。コンビニなどから入金後、数秒程度でエンジンの再起動が可能になる。「この仕組みはフィリピンなどで高く評価されており、すでに90%以上の決済システムと連携しています。また、デフォルト(債務不履行)率も劇的に減少しました。従来は厳重な審査を行ってもデフォルト率が30%を超えるケースもあったのですが、私たちのサービスは現在1%を切るほどの実績となっています」(中島氏)

成功の要因は、「持続可能な豊かな社会を実現する」というGMSの考えの下、金融機関は「貸したくても貸せなかった金融機関の貸高を増やす」、自動車メーカーは「売りたくても売れなかった車の販売台数を増やす」、契約者は「車を買いたくても買えなかった車を利活用して生活を豊かにする」、政府や自治体は「国や地域レベルで貧富の格差を是正するとともに大気汚染の改善など環境問題にも貢献する」、といった「五方良し」の新たな市場を創造したことにあるだろう。

GMSが挑む「五方良し」の新たな市場創造

画像:GMSが挑む「五方良し」の新たな市場創造

「金融機関に対しては、貸し高の増加や利子・元本の安全回収というメリットを提供し、自動車販売店やメーカーには売ることができなかった層に計画以上の台数を提供できるソリューションを提供します。これまで車を所有できなかった契約者層には、その実現によって将来への希望や人生の質を高めるサポートをしています。地域や国にとっても、環境や騒音問題といった課題に加え『雇用を生み出す』という共通課題に対してコミットしていく。この循環の中で『五方良し』の関係を創り出しています」(中島氏)

社会課題に向き合い
その解決とともに経済合理性を創出する

今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、世界では新たに貧困に追い込まれる人が最大1億人以上になるともみられている。では、こうした社会課題を解決するために具体的に何が必要だろうか。中島氏は「親の経済的貧困が教育格差を生み出します。学習機会を損失した子どもは不安定な仕事に就業せざるを得ず、さらにその子が親になっていく。この貧困の連鎖を断ち切るには、金融包摂型のサービスが必要です」と説く。

サービスの大きな特長ともなっているのが、「ドライバーが何時から何時まで仕事をしたのか」「毎日仕事をしているか」「いくら稼いだのか」などの「働きぶり」をデータとして可視化する点だ。「この分析結果は金融機関にも共有されます。可視化されたデータを基礎に働き手の新たな信用を創造し、教育ローンや住宅ローン、医療ローンなど新たなファイナンス機会を創出します」と中島氏は強調する。

GMSが提供するサービスによって、車を保有した人々が走った距離は実に3年で1億7000万km以上(地球約4300周分)に達しているという。「これは、デフォルト率が高くこれまで金融機関が融資を行わなかった人々への融資が実現した結果です。FinTechサービスによって得られた定量化・可視化されたデータを、与信データの提供という形で金融機関に提供することでその経済合理性が担保されます。今後も金融機関の仕組みや考え方を変えつつ、これまで金融サービスにアクセスできなかった人々を救い上げていきたいと考えています」

確かに、データの可視化によって新たな信用が創造されれば、課題を抱える多くの人々が金融にアクセスできるようになるだろう。GMSは「貧困層の自らの努力による中間層へのステップアップを促す」としており、「世界の貧困層17億人を救いたい」との強い思いから、2030年までに世界で1億人の契約者を獲得するという目標を掲げている。

「SDGsの重要な視点である『未来志向』の観点から、さらにその先の50年後の未来も想定し、社内メンバーとも将来像を共有する取り組みを実施しています。例えば、世界に目を向けると、『車を持つことから始まる幸せ』があります。車を所有することで仕事に働きがいが生まれ、家族やみんなを幸せにして、子どもにも教育機会を与えられる。この中で貧困の連鎖を断ち切ることが可能になります。仮に1億人のファイナンスを実現したとします。家族が6人だとすれば、ASEAN人口に匹敵する約6億人が幸せになり、その子ども世帯が家庭を持てば12億人以上の幸せ実現に貢献できるでしょう」と語る。

講演の最後、中島氏はこう述べ、未来への思いを語った。

「これからの事業創造を考える上で重要な視点は、『時代を読み解く力と感じる力』にあります。そのキーワードは、『ソーシャル』『ローカル』『グローバル』。言い換えれば、この3つの観点を持ってDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、社会課題の解決を図るということです。しかし、そのためには一個人だけ、一企業だけでは不可能です。さまざまなステークホルダーを巻き込み、その力を結集してオープンイノベーションを図りつつ取り組む必要があります。新たな挑戦は、当初は理解すらしてもらえません。そして、新たな挑戦には必ず障壁が立ちはだかります。それを乗り越え実現するためには、これまで蓄積してきた多様な人、企業、団体からの信頼が必要です。その信頼が原動力となり、未来を切り拓くことができるのです」

「未来志向」で時代を読み解くことがイノベーションのキーワード

画像:「未来志向」で時代を読み解くことがイノベーションのキーワード

関連リンク