今、ソーシャルイノベーターに求められること

スマートタウンで目指す地域の課題解決

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わが国でクローズアップされているさまざまな社会課題の解決で最も求められるのは、生活者の視点に立って地域と連携したボトムアップの取り組みだ。その実践の場となるスマートタウンの在り方について、長野県立大学ソーシャル・イノベーション創出センター(CSI)センター長 教授の大室悦賀氏、ICT先進国であるエストニアのインフラ技術を応用して社会課題解決にチャレンジしているPlanetway Corporation代表取締役CEOの平尾憲映氏、日本ユニシス執行役員スマートタウン戦略本部長の永島直史が語り合った。(モデレーターを務めたのは日経BP社のESG経営フォーラム プロデューサー 藤田香氏)

社会課題の解決と経済活動を統合していく中に希望を生み出す

さまざまな社会課題を解決する鍵として注目されるオープンイノベーションだが、実のところこの動きをどう捉えたらよいのだろうか。

公立大学法人長野県立大学
ソーシャル・イノベーション創出センター(CSI)
センター長 教授
大室悦賀氏

長野県立大学ソーシャル・イノベーション創出センター(CSI)センター長 教授の大室悦賀氏によると、かつて企業が主導し、研究開発効率の向上や新規事業の創出を目的とした“オープンイノベーション1.0”はすでに遠い過去のものとなった。今は企業のみならず大学・研究機関、政府・自治体、市民、ユーザーなど地域の多様なステークホルダーが多層的に連携し合い、ビジネスエコシステムで共創する“オープンイノベーション2.0”の時代である。社会課題の解決と経済活動を統合していく中に新たな希望を生み出すものこそが、現在のオープンイノベーションの本質である。

もっとも、課題は山積みだ。大室氏は、「日本ではいまだに自分のことしか考えられず、自社にとって都合のよい相手としかコラボレーションできない企業が多すぎます。世界的な潮流は明らかにオープンイノベーション2.0に向かっているにもかかわらず、ビジネスモデルを変革できなければ、今後生き残ることはできません」と警鐘を鳴らす。

Planetway Corporation
代表取締役CEO/ファウンダー
平尾憲映氏

さらに、「現在の取り組みはまったく不十分。オープンイノベーションという掛け声だけが先行し、中身はクローズドなものがほとんどです」という手厳しい意見を投げかけたのは、Planetway Corporation代表取締役CEO/ファウンダーの平尾憲映氏だ。平尾氏が特に問題視するのは「データの主権が誰にあるのか」という点であり、インターネットの世界で誰もが知る巨大企業が、ユーザーの同意をほとんど得ずに取得した行動情報や履歴情報など個人情報にひも付く情報を、なし崩し的に活用したビジネスモデルを拡大させていることに強い憂慮を示す。そして、「データの主権はあくまでも個人にあるという原理原則から出発しなければ、社会課題の解決など実現できません」と説いた。

こうした大室氏、平尾氏の意見に日本ユニシス執行役員スマートタウン戦略本部長の永島直史も賛同を示し、「データの主権が個人に属するという考え方は、まさにその通りだと思います。生活者が自らの明確な意思に基づいて提供したデータに対して、安心・安全をしっかり担保した上で、生活者や地域のメリットのために企業の枠を超えて活用できる体制を整えなくてはなりません」と語った。

生活者の心に響くユースケースを民間主導でつくっていく

株式会社日経BP 日経ESG編集
シニアエディター
日経ESG経営フォーラム
プロデューサー
藤田香氏

モデレーターを務めた日経BP社 藤田香氏の「地域が抱える社会課題を解決し、ひいては持続可能な社会をつくっていくために私たちは何をなすべきでしょうか」という問いかけに対し、「これまで社会課題の対策は、政府や自治体の仕事と見られてきました。しかし、実はその前段階に大きなビジネスチャンスがあるのです」と答えたのは大室氏だ。

例えば昨今、貧困家庭の子どものために無償か廉価で栄養のある食事を提供する「子ども食堂」が注目されているが、この活動を国や自治体が広げていこうとすれば巨額の税金を投入するしかない。しかしシングルマザーが正社員として働くことができる、安心して暮らせるシェアハウスが確保されるといった環境整備を企業がサポートし、なおかつそれがビジネスとして成り立つようになれば、根本にある貧困の問題を発生させずにすむ。フォーカスすべきは子ども食堂のような解決方法ではなく、その本質がどこにあるかだ。

では、それをどうやって吸い上げ、読み解くことができるだろうか。大室氏が必要性を説いたのは“よそ者目線”を持ち込むことである。地域ごとにさまざまな課題が存在するが、そこで暮らしている当事者は「そういうもの」と思いがちだからだ。「地域に足を運び、そこで暮らす人々とディスカッションすることによって、課題を立体的に捉えることができます。それがビジネスにもつながっていくのです」と大室氏は強調した。

同様に平尾氏も「地域で暮らす人々と同じ立場に立って、課題を感じるところから始めていかないと解決はありえません」と語るとともに、「生活者の心に響くユースケースを民間主導でつくっていく取り組みを、もっと活性化させていく必要があります」と訴えた。その実践の場となるのがスマートタウンである。

あったらいいねと共感してもらえるサービスを実現

日本ユニシス株式会社
執行役員
スマートタウン戦略本部長
永島直史

ここでいうスマートタウンとは従来のスマートシティと何が違うのだろうか。実はこれまで各地で推進されてきたさまざまなスマートシティのプロジェクトで、成功事例と呼べるものは少ないのが実情だ。

スマートシティのプロジェクトの多くは政府や自治体からの補助金を得てスタートしており、最初はそこに多数の企業が参集してくるが、補助金が打ち切られると、これら企業も次第に手を引いてしまうのだ。しかもすでに提供されているサービスは個別最適で実装されているため、他のサービスとの連携性は極めて低い。これでは永続性を保つことができず、結果としてそこで暮らす生活者からも共感を得られない。

これに対してスマートタウンは、生活者との連携によるボトムアップで地域の課題解決を目指している点で大きな違いがある。「なくてもいい便利ではなく、あったらいいねと共感してもらえるサービスは何なのかをしっかり検討し、地域の助け合いの精神を高めていくようなサービスを共につくっていきたい」と永島は説明した。

スマートタウン:実現に向けた取り組み

したがって効率性や快適性だけがスマートタウンの目指すゴールではない。生活者がやりたいと思うことを実現できる、あるいはその機会を提供してサポートしていくことがスマートタウンの在り方だ。「昭和世代とは違った多様な感覚を持つ若者が地方にはたくさんいます。そんな若者に対して、例えば農業がしたいと思う人がいれば、地域の土壌データを提供することでその取り組みを支援します。こうしたサービスを多面的に広げることができれば、日本はもっと豊かな国になると思います」と大室氏は語った。

「人々の個性の重要性が叫ばれる時代だからこそ、地域の文化や風習などもより大きな価値を生み出していく可能性があります。まさにその出発点がスマートタウンなのです」と平尾氏も訴求した。

日本ユニシスは、長野県において地域と企業のリンケージ役を担っている長野県立大学、エストニア国家インフラ技術を応用したクロスインダストリー情報連携基盤で革新的技術を有するPlanetway Corporationとの共創をさらに深めつつ、ほかにもさまざまな立場のソーシャルイノベーターとの出会いと連携を通じ、スマートタウンの実現に向けた取り組みをコーディネートしていく考えだ。

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