バドミントン日本代表に多くの選手を送り出している日本ユニシス実業団バドミントン部。今回は、世界選手権で日本人シングルス初の金メダルを獲得し、今後も大活躍が期待される奥原希望選手にインタビューしました。
もう一度「君が代」を歌いたい
――2017年8月に行われた世界選手権シングルスで日本人初の優勝。激しい死闘にしびれました。
日本ユニシス実業団バドミントン部
奥原希望
表彰台の真ん中で「君が代」を歌えたことはすごくうれしかったんですけど、試合中のことはほとんど覚えていないんです。準々決勝が1時間半、準決勝が1時間13分、そして決勝はインドのプサルラ選手と1時間50分を費やし、これまでこんなに長く試合をした経験がなかったので、体が持ってくれるか不安はありましたけど、決勝の第3ゲームの中盤あたりからふわっと体が軽くなり、このままエンドレスに試合ができると思っていました。
――決勝第2ゲームで73回続いたラリーは、見ている人たちも固唾をのんだと思います。
結局そのゲームは相手に取られましたが、第3ゲームはシーソーになり、「ここで逃げたら絶対に後悔する」と自分を鼓舞したら、急に笑っちゃうくらいに試合が楽しくなってしまったんです。「あー、私、頭がおかしくなっちゃったかも」って(笑)。
――いわゆる"ゾーン"に入ったのでしょうか。
ゾーンの概念がいまいち分かりませんが、たぶんランナーズハイみたいなものだと思います。でもそれは練習中によくあること。ノックを受けたり、激しいフットワークをしたりしているときなど、息の上がる厳しい練習をしていると、何かを乗り越え向こうに行ってしまったような感覚によく陥ることがあります。
――普段の練習中からそこまで追い込んでいるのですか。
練習中にやったこと以上のものは試合では出せません。だから練習から真剣そのものです。私は「たぶんできる」とか「うまくいけば......」というような曖昧な感覚が嫌い。「絶対」とか「必ず」という確信を手にしたいからこそ練習するんです。
――コート競技は身長が高いほど有利。空間占有率が広いですから。でも157cmの奥原選手が179cmのプサルラ選手に勝ちました。
確かに身長が高ければスマッシュのスピードは出るし、相手が届かないところに決めても長い手足を伸ばして拾われることはあります。でも、バドミントンは技の巧みさ、戦術・戦略の巧拙、ミスをしない精度の高さなどが勝敗を左右するんです。そして何より大事なのが集中力。ピアノ線のようにピーンと張った集中力をどこまで保てるかです。
――その中で奥原さんの武器は何ですか。
いろいろあるんですけど、言っちゃうと相手にもバレちゃうじゃないですか(笑)。一言で言うなら常に考えていることですかね。それはバドミントンの練習中だけでなく、たとえば何時に寝る、何を食べるにしても、いつベッドに入らなきゃならない理由、あるいは何を食べたいかではなく何を食べなきゃならないか、いつも行動に対する判断、選択をしています。すべての物事に対し、頭で考え、納得してから行動しますね。意味のない行動はしたくないんです。
――その頭の良さは、試合でも垣間見られます。
対戦相手を研究し、その選手の武器があればその利点を出させない方法と、打たせて取る戦略があって、相手の動きやラケットの角度、シャトルのスピード、表情などを観察しながら、自分の位置や攻める場所、打つスピードなどを加減します。時にはわざと相手の得意技を引き出し、余裕を持たせた隙を突くことも。常に2手先、3手先を考えた戦略を持っています。ただ、瞬間的に判断しなければならない競技なので、将棋のように10手先まで読むようなことはできません。
――その論理的な思考は子供時代からですか。
いいえ。中学生のころまでは父の指導の言いなりでした。高校教師の父はバドミントンはやっていなかったのですが、5歳上の姉、3歳違いの兄がバドミントンをやっていたので、父が教えてくれていたんです。私は末っ子なのに兄や姉に負けるのが悔しくて、ワンワン泣きながら練習していました。自分で考えるバドミントンを始めたのは高校時代からです。
――高校は家を離れ、埼玉の大宮東高校に進学されました。両親の反対はなかったですか。
父が絶対ダメだって。後で、私の覚悟を確かめたかったからだって言っていましたけど(笑)。高校は伝統的に部長が練習メニューを考えるシステム。私は3年で部長を任されたんですけど、日本代表にも選ばれていたので留守にすることが多く、でも部員一人ひとりの技術を上げる練習メニューを考えなければならず、この1年間で視野がグンと広がり、時間は頭で埋められることを知りました。
――所属先に日本ユニシスを選んだのは?
練習環境が整っていたからです。部員の多くが日本代表なので、日常的に選手間で切磋琢磨できる。そして社員全員が応援し、サポートしてくださっている。つくづく「生かされている」と感じます。
――最後に2020年の抱負をお願いします。
もちろん「君が代」を歌うことです。
奥原、日本人初のシングルス金
長丁場の激しい死闘を制す――世界選手権
優勝した奥原希望
その年の実力ナンバーワンを決める「世界バドミントン選手権大会2017」が8月に英国で行われ、奥原希望選手が女子シングルスで優勝しました。もちろん、日本人シングルス初の快挙です。試合は準々決勝から壮絶なゲームになりましたが、勝利に対する執念が、奥原選手は誰よりも強かった。
特に、インドのプサルラ選手との決勝対戦は1時間50分という長丁場で、命をやり取りするような死闘を続け、最後まで集中力を切らさなかった奥原選手に、勝利の女神がほほ笑みました。この快挙は、日本女子バドミントン界シングルスの大きな一歩となりました。
高橋礼華・松友美佐紀ペアは準決勝で中国ペアに敗れ敗退しましたが、銅メダルを獲得。男子ダブルスの井上拓斗・金子祐樹ペア、混合ダブルスの数野健太・栗原文音ペアはベスト16に進出。
高橋・松友ペアが9勝目 井上・金子ペアは初の準優勝
――ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン
世界選手権から1か月後に東京で行われた「ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン2017」。女子ダブルスで世界ランク1位(当時)の高橋・松友ペアは、各試合で格の違いを見せつけ、堂々の優勝。男子ダブルスでは井上・金子ペアが準優勝を果たしました。
高橋・松友ペアが決勝で対戦した韓国ペアは強いコンタクトで攻めのラリーを仕掛けてきましたが、高橋・松友ペアは息の合ったテンポの速い展開で試合を終始リード。世界ランク1位の実力を遺憾なく発揮しました。この大会の優勝で、スーパーシリーズの優勝は9回目となりました。
優勝した高橋礼華・松友美佐紀
準優勝の金子祐樹・井上拓斗
男子ダブルスの井上・金子ペアは、中学1年から組んできたチームワークがようやく開花。決勝では世界ランク2位(当時)のインドネシア組に惜しくも敗れましたが、スーパーシリーズで初の準決勝を飾りました。
また、この大会で奥原選手は準決勝で足の違和感を訴え棄権しましたが、女子シングルスの高橋沙也加選手がベスト8に入賞し、日本ユニシスから4組がベスト8に残ったことになります。2020年に向けて、日本ユニシス実業団バドミントン部はさらに強化を図ってまいります。