社員一人ひとりの“しなやかさ”がつくる「BIPROGYらしさ」

日本ユニシス変革の歩みと持続可能社会の実現に向けたBIPROGYの矜持

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2022年4月1日、日本ユニシスは「BIPROGY」へと進化した。この大きな節目に、気鋭の経営学者で、2017年の鼎談企画にも登場いただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏を再びお迎えし、日本ユニシスの“これまで”と、BIPROGYが目指す“これから”について、BIPROGY代表取締役社長の平岡昭良とともに語り合った。(以下、敬称略)

ヘッドライン

“しなやか”な組織を育て一人ひとりの創造性を高める

――まずは平岡社長に、これまでの日本ユニシスとしての取り組みを振り返っていただければと思います。

平岡 2017年に入山先生と鼎談させていただいた際に、「シュンペーター型の競争に突入している中で、われわれは社員にチャレンジを推奨し、失敗を許容できる会社にならなければならない」と申しました。ただ、言葉だけでは社員にもお客さまにも響きません。そこでICTのアーキテクチャーやコンポーネント、アプリケーションなど、私たちがチャレンジしてきたさまざまな成果物を、どんどん“生け簀(いけす)”に入れていく取り組みを行ってきました。

写真:平岡昭良
BIPROGY株式会社
代表取締役社長 平岡昭良

さらに、優れた起業家に共通する思考プロセスや行動様式として注目される「エフェクチュエーション」の概念を取り入れてきました。中でも特に重視しているのが、「アフォーダブルロス(許容できる失敗)」の法則です。不確実なフォーキャストだけに頼らず、「費やすコストが許容できる範囲かどうか」を判断しながら、新しい企画にどんどん許可を出していく考え方です。

結果として私たちはさまざまなアセットを入手することができ、さらにそれらを別のアセットと組み合わせて事業化するといったアイデアが生まれています。またこの考え方を人事制度に生かすべく入念に議論を重ねてきました。こうした中から生まれたのが「1週間に1度、3時間連続で目の前の仕事から離れる」という制度です。

入山 素晴らしいですね。でも、その空いた時間を社員の皆さんはどう使っているのですか。

写真:入山章栄氏
早稲田大学大学院経営管理研究科
(ビジネススクール)教授 入山章栄氏

平岡 そこが重要なポイントで、私たちは同じ時期に「キャナルベンチャーズ株式会社」というコーポレートVC(ベンチャーキャピタル)を立ち上げました。スタートアップや国内外の有力VC、アクセラレーターの輪に私たちも参画してビジネスエコシステムを形成することで、持続的なイノベーション創出を目指すものです。ここに「目の前の仕事をしない週3時間」を使って飛び込んでくる社員がすいぶん増えました。多種多様なスタートアップと触れ合い、交わることで、これまでと全く違ったビジネス感覚を体感し、社内でも起業にチャレンジしている人をリスペクトする風土が醸成されてきました。

また、取り組みの中で「多様性こそが大事だ」という議論も深めており、入山先生にご教授いただいた「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」という言葉も、すっかり社内に定着しています。現在ではイントラパーソナル・ダイバーシティは人事制度にも組み込まれており、従来のジョブ型の専門性を磨くのではなく、複数の役割(ROLES(ロールズ))を定義していく方向に動いています。1人の社員が複数の役割を持つことで多様性を身に付け、自分とは違った価値観も受け入れられるようになり、さらにはリスペクトできる段階にまで達したと実感しています。

入山 なるほど……。ビジネスの観点では、具体的にはどんな変化が起こっているのですか。

平岡 お客さまにシステムを提供するだけでなく社会課題の解決を目指した国家プロジェクトに参画するケースも増えてきました。例えば、AIホスピタル(参考「AIホスピタル」が引き起こす医療革命(前編)(後編))や被災情報を自治体に素早く提供する情報基盤の構築などです。さらに、自動運転をバーチャル空間でテストする環境構築といったプロジェクトに多くの社員がチャレンジしています。

入山 すごいですね。会社や組織が大きく変わってきた手応えを感じておられることが、ひしひしと伝わってきます。

平岡 ただ、そうした中でも留意したのは、ファーストペンギンやアーリーアダプター、アントレプレナーなどと称される尖った人財ばかりに注目しないことです。当社社員の多くは「担当した仕事をしっかり最後までやり抜く」という、ある意味“受け身”と見られがちな面もあります。そこで彼らの良さを引き出すために投げかけたのが「フォロワーシップ」という言葉です。優れたフォロワーシップ集団が背後に控えているからこそ、尖った人財は思う存分チャレンジでき、失敗しても成果物を生け簀に残すことができます。これが日本ユニシスならではのダイバーシティ&インクルージョンを確立し、イノベーションへの好循環をもたらしていると感じています。

入山 おっしゃるとおりで、フォロワーシップは非常に大事です。率先して行動を起こす尖った人と、そのビジョンに共鳴して「ならば一緒にやってやろう」とサポートする人の両方がいて、初めてチャレンジが可能となるからです。

4階層の“生け簀”に蓄積した社会課題解決へのナレッジ

入山 少し話がさかのぼりますが、先ほど平岡社長が“生け簀”と表現されたのは、つまり、「日本ユニシスとしてさまざまなことにトライしてきた知見や成果を1カ所に蓄積し、皆が共有できる仕組み」という理解でよろしいですか。

写真:入山章栄氏

平岡 そうです。具体的には、フォーサイト(妄想)、サービスコンテキスト(構想)、ビジネスプラットフォーム(実装)、ICTプラットフォーム(実装)の4階層からなる「4-LAB(4-Layer Architecture for Business)」というフレームワークを定義しています。ここにさまざまな知見や成果が蓄積されていきます。

チャレンジと失敗を無駄にせず、推奨するための仕組み

妄想を社内浸透させるためのビジネスアーキテクチャ 4-LAB(4-Layer Architecture for Businesss)

入山 なるほど。妄想もしっかり残しているのが面白いですね。

平岡 そうです。例えば、サステナビリティが注目される現在においてクリーンエネルギーの重要性は以前にも増して高まってきました。しかし、われわれはマイクログリッドを使ったエネルギーの地産地消の仕組みや非化石燃料から生まれている電気の証明書など、ずっと以前から模索してきました。こうした妄想もしっかり残しておくことで、入山先生の著書『世界の経営学者はいま何を考えているのか』で語られた、イノベーションの源泉の1つとなる知と知の組み合わせをまさに実体験できています。

写真:平岡昭良

未来思考を起点に柔軟性を高め「経路依存性」から脱却

――入山先生に、ぜひ日本ユニシスグループのこれまでの変革に対する評価やご意見をいただきたいと思います。

入山 私のような学者が机上でイノベーションの在り方を語るのは簡単です。しかし、実際のイノベーションには多大な時間と労力が必要で、結果が出ないこともしばしばです。また「経路依存性」ともいうのですが、企業は多くの組織のファンクションが複雑かつ合理的にかみ合って動いているので一部だけ変えてもうまくいかず、全体を変えなければイノベーションに向かうことができません。さらに言えば、社員一人ひとりのマインドを変え、カルチャーを変えないと、会社全体を変えることはできません。

その意味でも、この数年間でイノベーションに向けて確かに前進している日本ユニシスは画期的です。平岡社長が地道に打ち出してきた多くの施策が、ここにきて結実し始めたといえるのではないでしょうか。

平岡 実際に企業経営は複雑で、経路依存性を解体するのは本当に大変でした。

入山 平岡社長は、こんな未来をつくっていくという大きな“絵”のようなものを描いているのでしょう。だからこそ「3時間連続で目の前の仕事から離れる」「イントラパーソナル・ダイバーシティ」「ROLES」といった思い切った施策を打ち出すことができ、コロナ禍の行き詰まった状況下でも変革を進められているのだと思います。

平岡 ありがとうございます。ただ、難しいのはグランドデザインのような公式な未来像を描いてしまうと逆にそれに縛られ、柔軟性が失われてしまうことです。少なからず抵抗勢力も生み出してしまいます。ですから何となくぼんやりした絵にとどめておくといった、そんなさじ加減が大事かなと思います。

入山 なるほど。平岡社長はその「ぼんやりした絵」の中、つまり頭の中で、いつも自問自答や試行錯誤を繰り返しているのですね。

平岡 そうかもしれません。新しい施策を小出しにして、皆の反応を見ながらそれをさらに進めるべきか、それとも少し方向を変えたほうがよいのかと、よく頭を抱えています。そうした中では、時には私の失敗を自分自身で許容することも必要となります。

入山 非常に面白いです。どうすれば企業がこれまでの経路依存性から脱却することができるのか、重要なヒントにあふれています。

新たなPurposeに込めたBIPROGYの覚悟

――日本ユニシスは2022年4月1日に社名をBIPROGYに変更しましたが、どのような準備を進めてきたのでしょうか。またBIPROGYはどんな企業になるのでしょうか。

平岡 チャレンジする社員も増えてきました。将来予測が難しい中ではありますが、「このあたりで自分たちの未来シナリオを策定しよう」という活動を2018年から始めました。その中で行き着いたのが「デジタルコモンズ」という考え方です。ここで言うデジタルコモンズとは、デジタル時代の新たなコミュニティです。共同体の参加者は共有財やサービスを利用するだけでなく、それらを組み合わせて新しい付加価値を創出します。さらにこの活動の循環を通じて持続可能な社会づくりを推進していきます。

わたしたちの目指す姿 Vision2030

わたしたちは、デジタルコモンズを誰もが幸せに暮らせる社会づくりを推進する仕組みに育てていきます

加えて日本ユニシスグループの新たな経営方針(2021-2023)とともに、「先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出し、持続可能な社会を創出します」という自分たちのPurpose(存在意義)を定めました。

入山 だんだんと見えてきました。その延長線上に社名変更があるのですね。

平岡 おっしゃるとおりです。新たなPurposeを定める以上、私たち自身の“覚悟”を社内外に示さなければならない。したがって新しい社名にも、商標にもユニシスの「ユ」の字も残っていません。さらに言えば、Purposeの中でもあえて「ICT」という言葉は使っていません。テクノロジーはリアルの世界も含めた多様なものをつなぎ、組み合わせ、変化を生み出していく力を持っています。その意味でICTだけに限定しない、より広範な概念を持つテクノロジーにこだわりました。

写真:平岡昭良

入山 社会はもとより、社員に対しても覚悟を促し、マインドチェンジを図っていく。そのための手段として確かに社名変更は大きなインパクトがあります。ところで、その新しい社名となるBIPROGYですが、これは造語ですよね。

平岡 はい。光が屈折・反射したときに見える、7つの光彩(Blue、Indigo、Purple、Red、Orange、Green、Yellow)の頭文字を取った造語で、多様性を表すとともに「未来に光を当てていく」という意志を込めています。

多様な存在を自在につなぎ変革を起こす「面白い集団」に

写真:入山章栄氏

入山 なるほど。先ほどの「ICTだけに限定しない、より広範な概念を持つテクノロジーにこだわった」という考え方とも合致した良い社名ですね。

少し話は変わりますが、最近私もDXに関する講演を行う機会が増えてきました。その中でいつも話しているのが、「日本はまだまだ世界で勝ち上がっていく可能性がある」という点です。現在のグローバル市場を見渡せば、確かにGAFA(Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple)に代表されるプラットフォーマーに牛耳られているかもしれません。しかし、あらゆるモノやヒトやビジネスがネットでつながろうとする中で、ものづくりの重要性が改めて認識される時代が訪れる気がしています。その意味で製造業をはじめとする日本の企業にも大いにチャンスがあると考えています。

平岡 とても心強いお言葉です。

入山 実際、これまでの“第1回戦”はパソコンやスマホの中の世界だけで競ってきたのでGAFAが強かったわけです。しかし、今から始まる“第2回戦”は製造業や物流、人の対面サービスなど、多様なテクノロジーを掛け合わせた価値で競う時代を迎えると予想され、現場の創意工夫がますます問われることになります。

その意味でもICTに限らない広範なテクノロジーの持つ可能性を引き出し、サステナブルな社会の創出に貢献することをPurposeとするBIPROGYには、さまざまなモノとヒト、環境、エネルギーなどをデジタルでつなぐハブになってほしいという期待が高まります。

平岡 ぜひ期待していただけたらと思います。イノベーションをリードしていくための歯車はすでに回り始めています。

先ほど少し触れたグループ経営方針(2021-2023)では、お客さまの持続的成長(顧客DX)に貢献する「For Customer」と、さまざまな業種業界のお客さまやパートナーと共に社会課題の解決(社会DX)を推進していく「For Society」という大きく2つの視点を定めています。そこに向かっていくことでBIPROGYは、必然的にお客さまや社会から多くのベストプラクティスとアセットを得ることができます。さらにそこにオープンイノベーションを組み合わせることで、社会的価値を創出することができます。

これはすなわち「限界費用0(ゼロ)モデル」なのです。チャレンジするぶんにはそれほど大きな投資を必要とせず、その中から1つ、2つと成功モデルが生まれてくるという価値創出サイクルが自律的に回り始めます。

価値創出サイクル

お客さまへのサービス提供を通じて獲得したアセットをもとに、ビジネスエコシステムを加速する「価値創出サイクル」を回すことにより、持続的成長を目指します。

入山 いやもう本当に面白くてたまりません。手応えはいかがですか。

平岡 もちろん当初は、「今回の経営方針には具体性がない」などと社内から批判を受けたこともありました。それが現在では社員と執行役員クラスが一緒になってキャラバン形式でパネルディスカッションを行うなど、「For Customer」と「For Society」の2つの方針に基づいて自主的に動き始めています。

入山 唐突ですが、平岡社長にはぜひムービーを作ってみることをお勧めしたいと思います。おっしゃるとおりPurpose経営において“妄想”はとても大事です。しかし、一方で妄想はあくまでも妄想でしかないので、ステークホルダーはもとより一般の人たちにまでその考え方を理解してもらい、腹落ちさせるのはけっこう難しいのです。

そこで昨今のグローバル企業では、経営会議やワークショップに一流のSF作家や科学者を招き、経営幹部も一緒になって議論しているところも出てきています。そして自分たちのテクノロジーやソリューションを使うことで、例えば30年後の社会にこんなことが起こる、こんなイノベーションを実現するといった未来像をSci-Fi(SFの発展形)として描き、ムービー化したり小説にしたりするのです。このように経営トップの妄想を社内外に理解してもらうには物語にするのが一番分かりやすく、説得力があります。Purpose経営について講演する際にも、そんな話をよく織り交ぜています。

平岡 実は日本ユニシスが協賛して映画を作ったことがあります。2019年9月に全国の劇場で公開した『スタートアップ・ガールズ』という映画なのですが、その企画の原点となったのが、「イノベーションを起こす企業が誕生するためには、母数となるスタートアップの数を増やすことが必要で、日本でもより多くの人に新しい働き方の選択肢の1つとして起業にチャレンジしてほしい。ならばスタートアップをテーマにした日本初の映画を作れば、もっと盛り上がるのではないか」という思いだったのです。日本ユニシスはこの映画づくりに全面協力し、豊洲の本社ビルで長期にわたって撮影したり、多くの社員もエキストラとして出演したりしました。

入山 素晴らしい取り組みですね! BIPROGYの始動に向けてもぜひ映画を作ってほしいところです。『スタートアップ・ガールズ』のような本格的な劇場作品でなくとも構いません。例えば、5分程度のショートムービーなどを何本か作ってくれるとうれしいです。

平岡 予算を取れるか広報部門と相談してみます(笑)。

入山 楽しみにしています(笑)。これまで日本のビジネスパーソンはしばしば、「決められたとおりに動くのは得意だが、自発的に動くのは苦手だ」と世界からも評されてきましたが、BIPROGYはそうした常識を覆すことになりそうですね。

平岡 それを支えるのが、先に述べた「ROLES」や「フォロワーシップ」によって醸成されていく新しい企業カルチャーなのです。これまでもお客さまのさまざまな難題を解決してきたことで、私たちは高い信頼をいただいてきました。誤解を恐れず言えば、そうした中から「ならばもっと自分たちの力を自慢してもいいのではないか?」「他人から言われるまでもなく、新しい価値を自分たちの手で社会実装してみせる」といったモチベーションを持ったコア人財がどんどん増えています。さらに中途採用で入ってきた人財をはじめ、ビジネスエコシステムやオープンイノベーションを通じて社外の尖った人たちと触れ合うことで、多様性をもったイノベーションの感性を高めています。BIPROGYとしての再始動を控えて、私たち“らしさ”のある「面白い集団」に変わってきたのは間違いありません。

Profile

入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール) 教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。国際的な主要経営学術誌に数多く論文を発表している。著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)などがある。
平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
BIPROGY株式会社 代表取締役社長
1980年、日本ユニバック(現・BIPROGY)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、日本ユニシス代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。2022年4月から現職。

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