木と人がともにある未来をつくる「キイノクス プロジェクト」

情報をつなぎ、「木材の新たな価値」を創造する

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国土の3分の2を森林が占める日本。その多くが人工林だ。これらは、安価な輸入材へのニーズの高まりによる国産材の利用減少や少子高齢化による林業の担い手不足によって、管理の行き届かなくなるケースが全国的に増加している。2021年11月、BIPROGYは、企業共創を通じて国産木材の流通・利活用の促進、資源の有効活用に関わる多様な課題解決を図るべく「キイノクス プロジェクト」を始動させた。「木と人がともに活きる未来をつくる」をビジョンに掲げ、「木材流通プラットフォーム事業」「木材需要創造事業」「ブランディング」の3つを柱に取り組みを加速させる本プロジェクト。その思いと将来展望を中核メンバーの1人である惣田隆(そうだ・たかし)が語る。

ヘッドライン

“荒れた人工林”は地方自治体・住民の課題

国産木材の流通と活用の促進を目指す「キイノクス プロジェクト」は、2021年11月にスタートした。プロジェクトは、BIPROGYが2021年5月に設立した企業である「グリーンデジタル&イノベーション(GDI)」をはじめ、さまざまなプレーヤーとの共創をベースに、国産木材を通じた新たな価値づくりや地域活性化に取り組んでいる。

写真:惣田隆
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部
事業推進一部 LDPF推進プロジェクト
惣田隆

このキイノクス プロジェクトには、前史がある。プロジェクトメンバーの惣田隆(戦略事業推進第二本部 事業推進一部)はこう話す。

「私たちは2010年代半ばから、さまざまな地域の課題解決や活性化につながる事業展開を本格化しました。この中で注目したのが広島県です。日本でも有数の都市機能を持ちながら、豊かな自然があり、工業・農業・漁場など多様な産業が盛んです。所得や持ち家率、年齢グラフなども全国平均に近く、同県は『日本の縮図』とも呼ばれています。その広島県でさまざまな産業を分析し、各種のリサーチなどを踏まえて私たちは木材をテーマに選びました」

木材を選んだのには、大きな理由がある。日本では、戦後の木材需要増大を受けて、全国で大規模な造林が実施された。約半世紀前のことである。人工林は拡大したものの、1960年代から増え始めた輸入材に押され、国産木材の需要は低下傾向をたどる。山林を手入れするインセンティブも衰え、結果として多くの人工林が荒れた状態になった。

「人工林の荒廃は、多くの地域で課題となっています。林業など木材に関わる産業の衰退だけではありません。管理の行き届かない森林は、災害耐性も低い状態になります。間伐が適切に行われない人工林は、根の張り方も十分ではなく、大雨や台風の際に土砂災害のリスクを高めてしまいます。国産材の利活用であれば、日本各地に展開でき、多くの社会課題解決の糸口になります。キイノクス プロジェクトを通じて、デジタルの力も活用しながら日本の木材をめぐる状況を変え、地域活性化につなげたいと考えています」

国産材流通の活性化に向けて岐阜県で始まった実証事業

プロジェクトの柱は3つ。「木材流通プラットフォーム事業」と「木材需要創造事業」、そして「ブランディング」だ。まず、木材流通プラットフォーム事業について、その背景を惣田はこう説明する。

「国産木材の流通課題は多様ですが、その要因の1つが情報の分断にあります。多様なステークホルダーがそれぞれの役割を担うサプライチェーンにおいて、参加者間で情報共有がなされない状況にあります。こうした現状が、流通効率の低下を招いています。情報共有を円滑にする仕組みをつくることができれば、さまざまな課題解決につながります」

キイノクス プロジェクトの全体像

図:キイノクス プロジェクトの全体像
「キイノクス(KIINNOX)」には、「KI(木)」×「INNOVATION(革新)」×「X(掛け合わせ&未知への可能性)」という意味合いが表現されている。プロジェクトは、生産から流通、商品・サービスに携わる事業者などを支援する「木材流通プラットフォーム事業」(図中①)、木材を利用する利用者を主眼に置いた「木材需要創造事業」(図中②)、サプライチェーンの川上から川下を総合的に捉えてブランド価値を醸成していく「ブランディング」(図中③)の3本の柱で構成されている。

木材流通プラットフォーム事業のパイロットプロジェクトは、岐阜県で始まったという。それは、建築資材総合商社のヤマガタヤ産業(本社:岐阜県羽島郡岐南町)との取り組みだ。ヤマガタヤ産業との出会いは2018年ごろにさかのぼり、2021年5月には、キイノクス・プロジェクトの一環として、同社などとBIPROGYが共同で「MOKU TOWN(モクタウン)」というデジタル住宅展示場を開設した。

MOKU TOWNは主に木造一戸建て住宅の建築を検討している消費者向けに、地域の工務店や家づくりに必要な情報を提供する場だ。工務店はこれまでの実績などをVRや動画、静止画のコンテンツを用いて示すことができる。このヤマガタヤ産業との出会いから、さらなる国産材流通における課題解決への取り組みへとつながっていった。惣田はその狙いをこう説明する。

「国産材流通の活性化に向けて、木材供給量の確保と木材価格の低減と固定化を図ろうと考えました。そのため、需給情報の可視化を目指し、製材所の在庫情報や工務店の需要予定量(年間建築棟数)情報を共有するところから始めようとしています。例えば、在庫を見える化できれば、自社在庫が不足しているとき、他の製材所に商品融通を依頼するという選択も可能になります。サプライチェーンの川下に位置する工務店にとっては、複数の製材所の在庫を調べて、施主に対してより良い提案が可能になるでしょう」

2022年2月、「木材流通プラットフォーム事業」が本格的に始動

2022年2月、こうした発想を起点に木材流通プラットフォーム事業が本格的に始動。BIPROGYとGDIは、ヤマガタヤ産業との協業により、業務プロセスの効率化とコミュニケーションの改善につながるプラットフォームサービスの試行を開始したのだ。

具体的には、国産材流通の活性化に向けて工務店向けの複数サービスの立ち上げからスタート。その1つが「工事管理サービス」だ。このサービスは、紙や電話によるコミュニケーションに課題を抱える工務店の現場監督の意思疎通を支援する。スマートフォンやタブレットなどで使用でき、チャット機能も備えているためシンプルかつ効率的なコミュニケーションを実現し、工数削減につながる。現場からは「それぞれの動きや意図が見えるようになり、意思疎通が以前よりも円滑になる」との声も寄せられているという。

「今後はサプライチェーンの川上と川下に向けてサービスを広げ、岐阜以外のエリアにも広げ、課題解決に向けてさらに取り組みを加速させていく予定です」と惣田は展望を語る。

オフィス家具・内装材販売事業にも注力

プロジェクトは、第2の柱である「木材需要創造事業」、第3の柱である「ブランディング」にも力を注ぎ、住宅やオフィスなどの施設を対象に新たな需要を掘り起こそうとしている。

これらは、時流に乗った取り組みでもある。2021年10月、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正・施行された。改正のポイントは、以前は公共建築物を対象としていた法律を建築物一般に拡大した点にある。

「法改正を意識していたわけではありません。タイミングが偶然に重なったのですが、政策が追い風になることを期待しています」と惣田。具体的な活動はすでに始まっている。それは、「キイノクス オフィス」の取り組みだ(2022年6月、GDIがオフィス家具・内装材販売事業に本格参入)。国産杉の無垢材を使った家具や内装材は、オフィス空間の雰囲気を変える。視覚だけでなく、杉の香りが嗅覚にも心地よい刺激を与える。オフィスワーカーの生産性向上にも寄与するだろう。

キイノクス オフィスがつなぐ持続的循環

図:キイノクス オフィスがつなぐ持続的循環
森と人が有機的に結びつき、未来をつくる持続的な循環へとつながっていく

「家具や内装材にはCO2が固定されており、燃やさない限りCO2はその内部にとどまります。商品にはCO2固定量を数値で示す証明書が添えられており、購入した商品に応じてGDIが植樹を行います。植樹による長期的なCO2吸収量についても、証明書を発行します。SDGs、特にカーボンニュートラルに関心の高い企業から喜ばれています」と惣田は手応えを語る。

写真:カーボンニュートラル貢献量証明書
カーボンニュートラル貢献量を可視化し、企業にとっても国産材を取り入れるメリットを訴求していく

オフィス以外では、ホテルやケアファーム(介護施設と農場が一体化した施設)、店舗なども検討対象だ。国産木材が醸し出す雰囲気は、施設の価値を高めるだろう。今後、幅広い施設に向けて国産木材の魅力をアピールしていく考えだ。

「木材流通プラットフォーム事業の中で工務店への働きかけをしていますが、どんな木材を使うかを決めるのは施主です。施主に対して、いかに国産木材のよさを伝えていくのか。この部分に力を入れてブランディングを展開していきたいと考えています。将来的には、私たちが国産木材を使いたいという施主を見つけて工務店に送客できる仕組みを構築することができれば、地域課題の解決により大きく貢献できるはずです」

その言葉にあるように、木材流通プラットフォーム事業と木材需要創造事業、ブランディングの3本柱は関係し合い、オーバーラップする部分も少なくない。例えば、MOKU TOWNでは住宅に興味のある消費者に役立つ情報を提供するとともに、購買意欲を高める取り組みも検討している。こうした活動を強化するためにも、ブランディングの役割は大きい。

キイノクス プロジェクトが掲げる「木と人がともに活きる未来をつくる」というビジョン。そこには、「国産木材で豊かさの好循環を創出する」「本物の価値を見出し、ひろめる」「パートナーシップで価値を高める」「地域コミュニティと共栄する」「地球の未来を真剣に考え、行動する」という5つの思いが込められている。プロジェクトは、今もなお着実に歩みを進めているが、息の長い取り組みになるだろう。惣田は未来に向けた思いをこう話す。

「プロジェクトの始動前から、私たちはある確信を持っています。それは、『情報が集まれば、課題を解決し得る気づきや発見につながる』ということです。埋もれていた課題に光を当てることもできるでしょうし、意外なアイデアが浮かんでくるかもしれません。そして、情報が新たな解決策へと導いてくれるでしょう。その先に豊かな森があり、人びとが生き生きと暮らす地域社会があるはずです。そんな将来を見据えて、着実に前に進みたいと思っています」

本取材はBIPROGY本社内にある『キイノクス オフィス モデルルーム』で実施

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