ICT導入が保育士の在り方を変える

保育士がプロとして働きやすくなる社会を後押し

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共働き世帯数が約1200万に上り、待機児童が増加する一方で保育士は不足している。そして、保育士の業務は多岐にわたる。そうした保育士の負担を軽くし業務を効率化するための業務支援システムは、数多く存在する。東京都足立区を本拠に認可・認証保育園計5園を運営するヒューマンサポートは、それまで使用していたクラウドサービスをわずか1年ほどで日本ユニシスの保育業支援クラウドサービス「ChiReaff Space(チャイリーフスペース)」へリプレースした。リプレースに至った経緯や今後の展開などについて、話を伺った。

機能に加えて将来につながる信頼感が決め手に

株式会社ヒューマンサポート
事業本部
保育事業部 次長
山﨑卓也氏

ヒューマンサポートでITの総責任者を務める山﨑卓也氏は、約18年の保育士経験を経た後、本部で現場をサポートする管理職となり、今回の「ChiReaff Space」へのリプレースを主導した。実は別のクラウドサービスを利用していたが、わずか1年でリプレースすることになった。

「前のサービスは、改善点を伝えようとしても担当者不在で連絡が取れないことが多く、やっとつながっても、『できません』の一言で済まされてしまいました。それが繰り返されて不信感を募らせていたときに、ChiReaff Spaceを知ってリプレースを決断しました」と山﨑氏は話す。

当時現場から上がっていた改善要望の中で最も大きかったのが、年間指導計画、月案、週案の連携だった。ChiReaff Spaceのパンフレットを見た山﨑氏は、まさに一番欲しかった指導計画の連携に加えて、年度末の要録までリンクされていることを知り、「すぐに詳しく話を聞きたいと思った」という。

実際に話を進めてみると、日本ユニシスのChiReaff Space担当者は以前の会社の担当者とは対応がまったく違った。「こういう機能をつけてほしい、今度ここをもっと増やしたい、といった話を持ちかけると、とにかく回答が早かった。実際に改善されるかどうかは別にしても、常に前向きな反応があったのです」と山﨑氏は振り返る。

「優れた機能があることは重要ですが、大事なのはアフターケア。担当者がどれだけ耳を傾けてくれるかです。導入時点でどれほど素晴らしいツールでも、10年後もまったく同じでは使い続けることができません。これから発展していくのか、長く付き合える会社なのか、そこが決め手になりました」と山﨑氏は強調する。

そして2018年4月から、ヒューマンサポートが運営する保育園4園でChiReaff Spaceは導入された。残る1園でも2018年秋には導入予定だ。

現場第一主義でソフトランディングを目指す

業務支援ツールの導入の主な役割は業務の効率化だ。しかしどのようなツールでも、導入初期は現場に負担を強いることになる。特に今回のケースでは、やっと使い慣れてきたツールを、たった1年でまた別のツールに切り替えることになってしまっただけに、現場の抵抗感は大きかったのではないだろうか。

「現場の職員たちには『今の負担ではなく、先を見てほしい』と説得しました。現場のスタッフもそれまで私が苦労していたことを知っていた分、大きな不満にはなりませんでした」と山﨑氏は振り返る。

取材時(2018年7月)は、ChiReaff Spaceを導入して4カ月目。ChiReaff Spaceは以前のツールより多機能だが、以前も利用していた登降園の記録や日誌、指導計画などの基本機能に加え、発達記録機能を使用するにとどめている。「すべてを一気に切り替えると大きな反発を生み、せっかくの機能を生かしきれないまま失敗に終わってしまいかねない」(山﨑氏)という考えからだ。 ただし、現在使っていない連絡帳機能なども、いずれは全部使いたいと考えている。

それでもChiReaff Spaceの機能には手応えを感じている。指導計画は、以前のツールでは年案、月案、週案をゼロから別個に作成するため、相互に矛盾がないかをチェックする必要があった。しかし、ChiReaff Spaceでは素案が自動生成されるため、そこから削除、加筆することで簡単に作成でき、連携機能によってチェックの工程も不要になる。

発達記録機能は、全国4万人の成長データと在園児の成長を比較できる。適切な指導計画を立てるための指標になるほか、発達遅滞の発見に活用できる。

山﨑氏は「やっと現場が新ツールに慣れてきたところで、まだ業務改善効果としての数字を挙げられる段階ではない」としながら、「ChiReaff Spaceの本領は、今後数値に表れてくるだろう」と予想している。

同法人では、各園の職員会議に必ず本部の人間が出席するほか、ICT化に関する研究会をつくり、各園からリテラシーの高い職員が参加している。山﨑氏は「現場の様子を聞いた上で、なるべく負担感が少ない形で、少しずつ活用の幅を広げていく」という。

ヒューマンサポートが運営する保育所の1つである「たんぽぽ保育所」では、
玄関脇に登降園記録用のタッチパネルが設置されている

もっと保育士が本来の役割を果たせるように

保育園のICT化は、休憩時間や休憩室、更衣室の確保と並ぶ謳い文句として、求人欄に掲載される時代になってきている。けれども、保育園でICT化を進めようとすると「職員の考える力が低下するのではないか」と懸念する声があるのも事実だ。

「ICT導入による効率化によって浮いた時間でクラスの子どもたちとの会話が増えたり、残業が減ることで余裕ができたりするはずです。そこで子どもたち一人ひとりの指導計画をどう考えるか、またその考えをどう指導計画に反映させるかに集中できたら、保育士としてより本質的な役目を果たせるのではないでしょうか」と山﨑氏は話す。

ChiReaff Spaceについては「今後さらに発展していくツールであり、うちの職員と一緒に成長していけるといいと思っています」と、山﨑氏は期待を寄せる。

「保育の仕事をしていると、『女性に囲まれてうらやましい』とか『遊んでいて給料がもらえていいね』などと言われることがあり、そのたびに現実とのギャップを感じます。保育の仕事はただ『子どもが好きだから』という理由だけで全うできる仕事ではありません」と山﨑氏は現状への不満を口にする。

保育士の仕事は、プロ意識を持って取り組まなくてはならないし、実情は非常に過酷な仕事だが、世間一般の評価と仕事内容や報酬とのミスマッチも起こりがちだ。「保育を志して飛び込んできてくれた人に長くこの仕事を続けてほしい。保育を嫌いにならないでほしい。それを助ける1つのツールとして、ICTがあると思っています」と山﨑氏は熱く語る。

自らを「保育バカ」と称する山﨑氏。その熱い想いに応えながら進化するChiReaff Spaceが未来の保育をどう支えるのか、今後の展開が楽しみだ。

識者コメント:
「保育のプロとしての高い意識」――船井総研 大嶽広展氏

システム化の案件では必ず反対意見が出ますが、今回の場合は旧システム導入からたった1年でリプレースするというさらに厳しい条件が加わっています。そのような状況でも合意を得ながら導入を進められているのは驚きです。現場を第一とする姿勢や、後回しにされがちな発達記録の使用を優先させた点からも、保育のプロとしての高い意識を感じます。これから活用が進むことで、サービスの提供側もより多くの学びが得られるのではないでしょうか。(談)

株式会社船井総合研究所 大嶽広展氏

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